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第二十九話 後継

公爵様の考え「みんななかよく」

 公爵様はエドワード様の作った書類を読み終えると天を仰いで目頭を手で覆った。目が疲れたんだろうか。


「なんということだ……私はこんな、見逃しを」

「大丈夫です。今はぜせいされております」

「分かっておる。エドワードのお陰でな。しかし、私は領民を信じすぎていたのだろうか」


 それに答えることの出来る立場には私は無いし、そういうのは貴族同士でやってもらわないと困る。


「テオドールの様子はどうだ?」

「ええと、それなりに?」

「書類仕事に手を出そうとはしてないのだろうな?」

「あー、まあ、今のところは」


 公爵様は大きくため息を吐く。察したのかな?


「テオドールはな、書類仕事をやるよりも領内の騎士たちをまとめる方が良いのだよ。いざ、戦乱となれば先頭に立って鼓舞する立場だからな」


 ん? なんか違和感がある。私はてっきりテオドールを見限ってエドワード様を跡継ぎにと考えていると思ったんだけど。


「跡継ぎはテオドール……様なんですか?」

「うむ、少々性格に難はあるが、そこは周りで支えればいいこと。その為にも才女と名高いヒルダ嬢を伴侶としたのだ」


 あれ、この人、ヒルダの事もそれなりに評価してる? この国の貴族って女は口出しするな、その身体を差し出して子ども作ればそれでいいみたいな感じかと思ってたんだけど。


「エドワードではダメなのだ。あやつは優柔不断が過ぎる。道を示してやれば上手くこなすし、書類仕事もよく出来る。だが、決断が出来ん」


 えー、でも今回の不正の件ではちゃんと決断してたと思うんだけど。


「そうではない。善悪がハッキリしているなら決断も容易い。だが、二者択一、どっちを選んでもそれなりに被害が出る時に決断が出来んのだ。それでは領地に万一のことがあった場合、何も出来ずにオロオロしているだけとなろう」


 あー、自分の手で被害が出ることをとても恐れるタイプなのか。例え被害が出ても損切りという形なら問題はなさそうなんだけど。


「テオドール様はそれができると?」

「判断を間違うかもしれんが、決断力はあるからな。判断の間違いにしても、エドワードやヒルダ嬢がフォローすれば問題は無い」


 おおっと、つまり、公爵様は跡継ぎにはテオドールを考えていて、事務的な補佐役としてエドワード様を考えてるってことか。いやでも、あの様子だと間違いが起こると思うんですよね。スープに毒まで入れてましたし。あ、いや、あれは痺れ薬だったから害するつもりは無かったのかな?


「テオドール、様は公爵様がエドワード様を頼ってるみたいで面白くないみたいですが」

「何を言うか。書類仕事を何度もやらせようとしてもやろうとしなかったからエドワードに任せたのだぞ? 今更書類仕事などやりたがるとは思わんわ」


 あー、まあ、テオドールは脳筋って言った方がいいくらいの馬鹿だもんね。イメージ的には座学とか事務仕事とか苦手なんだろうなって。ヒルダはそんな事なさそうなんだけど。


「あの、公爵様? それではヒルダ様に手伝わせればよかったのでは?」

「何を言っている。ヒルダ嬢はまだ家に嫁に来た訳では無い。今のところはミルドレッド公爵家の所属だ。婚約が破棄されるかもしれんのに何故他家の者に領内の帳簿を任せられようか?」


 いや、多分ヒルダはどこにもいかないというかおそらくはリンクマイヤー公爵家に捨てられたら何処にも行く宛がないと思うんだけど。


「いや、あの様な才女ならば婚約を破棄されて領内の統治の手伝いをさせられる可能性はあるのだ。そうなった時にミルドレッド公爵家に我が家の機密などが渡ってしまう可能性がある」


 やはりこの公爵様は視点がこの国の貴族と違う。ちっぱいだから女性としての魅力がなく売れ残ったからとかではなくて、純粋にテオドールを支える事の出来る才女として評価し結婚を申し込んだのだろう。


 まあ多分その辺のことは全く子供たちやヒルダに伝わってないのはどうかと思うんだけど。というかこの話を全員集めてやったら、普通に全部解決するんじゃね?って思うんだよね。


「あの、公爵様? 王都に戻る気はありませんか?」

「毛頭ない。今はそれどころでは無いのだ。馬鹿どもの後始末がこんなに大変だとは。それにここは辺境の最前線、エッジだからな。この際森の調査もせねばならん」


 エッジの街のそばにある森、まあ私がいたところなんだけど。なかなかのサバイバル地帯みたいで災害級の魔物が跳梁跋扈しているそうな。まあグスタフさんが助けてくれなきゃあそこで死んでたかもだもんね。あ、いや、転移テレポートすれば逃げれたか。


「最近森がざわついていてな。このままだと森林暴走オーバーランが起こるかもしれん」


 森林暴走オーバーランというのは森に住む生き物が種類問わず森から溢れ出て近くの街を襲うとのこと。なんで街なのかはよく分かってない。恐らくだが明かりに引き寄せられるのではないかと言われている。厄介すぎん?


「スマンがしばらく帰れそうにないからベルガーにはよろしく伝えておいて欲しい」

「あー、はい、分かりました」


 私は公爵様がしたためた手紙を受け取ると再び王都へと向かった。


 王都のリンクマイヤー公爵邸に戻るとみんなはもう寝静まっていた。このまま公爵邸に入るのもどうかと思ったので宿屋をとる事にした。


 酒場と一緒になってる宿の食堂で、何かの肉を煮込んだスープとパンを貰った。そういえばこれもあまり美味しくは無いけど噛みごたえはあるよね。ペーストに比べれば人間の食べ物だと思う。


 そんな感じで食事を堪能しているとガラの悪そうな奴らが宿屋に入ってきた。彼らはウェイトレスのお姉ちゃんに下品な声掛けをして手酷く振られたみたいだ。周りの仲間達が振られたやつを笑っていた。


 そこまでならなんてことない酒場の一場面なんだけど、その男は何を思ったのか、激怒して、ウェイトレスの腕を引っ張った。持っていた料理が地面に落ちる。あー、もしかして、あれは私が頼んでた鳥の串焼き?

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