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第二十八話 解明

キューの立ち位置、弥七とかだよね。

 エドワード様は思ったよりも名君になるのかもしれない。今回の不正を許さないけど断罪まではいかないという裁定で、その片鱗を見せていた。


「屋敷に戻り次第、正式な文書を作成し、通達する」

「そ、そんな、勝手に」

「この領地の運営を任されたのは私とベルガーだ。一任されている以上は変更は有効なものとなる。もちろん父上にも仔細を申し上げて改めて許可はいただくつもりだ」


 ザッケルトはがくんと膝を着いた。よし、これで一件落着かなあ。


「ベルガー、急ぎ帰り書類を作成する。残りの視察はまたの機会にしよう」

「それがようございますな。喫緊の課題でしょうから」


 エドワード様とベルガーが馬車に乗り込む。私ももちろん馬車に乗る。この馬車というのはとてもお尻に来る。車に比べると乗り心地が最悪だ。せめてもうちょい揺れないようにして欲しい。でもタイヤがゴムじゃなかったみたいなんだよなあ。


 ガサガサ、と林道の茂みが動いた気がした。次の瞬間、私たちの乗ってる馬車に向かって火矢が射掛けられた。本数的には二十本くらいある。馬車の屋根は木造なのであっという間に火が点く。これは、油でも塗ってたかな?


「貴様ら! 何者だ! この馬車を公爵家のものと知っての狼藉か?」


 エドワード様が誰何すいかの声を飛ばす。


「へっへっへっ、馬車がどこのものかなんて俺たちにゃ関係ねえんだよ。金目のものと生命を置いていくこった」

「馬鹿な! 命を置いていけるものか!」

「そりゃあそうだ。じゃあ一切合切何もかも置いてあの世に行ってくれや!」


 リーダーらしき男の合図で周りから何十人もの盗賊が殺到する。私たちはエドワード様、ベルガーさん、御者の人、私の四人だもの。このままなら普通に殺されて終わりだよね。


 やれやれ仕方ない。このままだと私も死んじゃうから奥の手、転移テレポートを使わせてもらおう。


「エドワード様、ベルガーさん、あと御者の人、こちらへ」


 御者の人は隅っこでガタガタ震えていたがそこに居ると外から刺されるかもって言えば私たちの方に移動してきてくれた。


「緊急事態なんで、やりますけど、あまり宛にしないでくださいね」

「お主は何を言っておるのだ?」

転移テレポート


 私の言葉に能力は発動し、転移した先は屋敷の執務室である。そこには何故かヒルダが座っていた。


「な、何をしておられるのだ、ヒルダ殿!」

「えっ、エドワード? なんで?」

「視察から帰ってきたのだ。それよりどうしてあなたが我が領の決裁書類を見ているのだ?」

「い、いえ、その、後学のために見せてもらおうかと」

「そういうのはご自分の自宅でやっていただきたい」

「くっ!(役に立たないわね)」


 ボソリと言った言葉がたまたま聞こえたが、役に立たないってもしかして……


「書類をチェックし直す。ベルガー、手伝ってくれ。それと、あの、キュー殿、ありがとうございました」


 エドワード様が丁寧に頭を下げる。心配しなくても依頼料には含まれてるはずだから、多分。


 私は転移で疲れた(実際は疲労なんてないんだけど)という名目で部屋で休むことにした。屋敷の中で殺されることは無いと思う。それをすれば容疑が邸内の人間にフォーカスされ、動機で言えば最有力なテオドールが疑われるからだ。


 それならヒルダは疑われなくていいと思いきや、ヒルダはテオドールが失脚すれば、また行き場を無くしてしまうのでテオドールを貶めることはしないはず。愛してるかどうかはともかくとしてヒルダも割と崖っぷちだ。


 つまり、二人はどうにかしてエドワード様から領地の統治権を奪取し、運営で有能さを示して公爵様に認めさせなければならない。割とハードモードだよね。


 テオドールは書類仕事には来ないみたいだ。まあ苦手だと言うのもあるのだろう。剣をとって戦う方が性に合ってそう。


 実際にテオドールの剣技は相当なものらしく、騎士団に入ってもそこそこやっていけるそうな。対してエドワード様は引っ込み思案が災いしたのか、剣を取って戦うなど以ての外。身体を動かす事全般が苦手。ベルガーさんももうお歳だから身体は動かない。


 つまり、馬車での襲撃はその辺の事がよく分かってて、私の事を知らない人間となる。だから多分テオドールかヒルダの仕業だと思う。


 だが、決定的な証拠は無い。疑惑は疑惑のままで日々は過ぎていく。エドワード様は次々と書類をチェックしては金の流れを掴んでいく。


 それによればかなりの額が、税とは別に国内の騎士階級の貴族に流れているらしい。騎士階級、いわゆる騎士爵と呼ばれるもの達は、土地と給金を与えられて、公爵家に仕えている。私設軍の創設においても重要な役割を担っている。


 で、国内の騎士爵の勢力はテオドール派とエドワード様派に分かれているのだがだいたいの騎士爵はテオドールの側についている。そりゃあまあヒョロガリインテリと脳筋勇敢戦士のどっちに着くかと言われれば後者だろう。


 で、数少ないエドワード様派の騎士爵を買収しようとしているのか、金が流れている。今は公爵様の影響力が強くて誰も動いていないが、ストッパーである公爵様が動かれたらどうなる事やら。あ、公爵様は武勇は勇猛、才気煥発、カリスマ性抜群のスーパー貴族らしい。それにしちゃ脇が甘いんだよね。


 とにかく、テオドールとヒルダの悪巧みなのか何なのかをしっかり暴いて公爵様に報告しないといけない。とりあえず今回の委託料の件をお伺い立てようと私はエッジの街に向かった。


「公爵様、キューです」

「どうしたのだ、こんな夜分に」

「お休みのところすみません。急ぎお伝えしたいことが」

「聞こう」


 本人は疲れてるはずなのにそんなところも見せずに私を部屋に通してくれた。まあその気になれは通されなくても入れるけど。


「で、何用かな?」

「はい、農地を委託している農家への委託料で、不正が見つかりまして」

「なんだと? やはり不正だったのか。妙に金額が増えていたからそんなものかと思っていたのだが」

「修正後の数字はこちらに」


 エドワード様が作ってくれた書類を公爵様に差し出した。

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