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第二十七話 麦畑

どんだけ税率取ってんだよって話ですが。

 朝から仕事が山積みで、こんなたくさんの案件を処理していた公爵様は余程の人物なんだろう。さすがは公爵様だ。


「キュー様、普段からご主人様がこまめに処理していればこの様に溜まっておりません」


 えっ? ってことはここにある書類は公爵様がおサボりになられて出来たやつってこと? あ、よく見たら決裁希望日が三ヶ月前になってるやつとかあるんだけど。


「ベルガー、公爵家の政務というのはなかなかに大変なのだな」

「左様でございますね」


 ベルガーさんは多くを語らない。公爵様から含み置かれてるのかもしれない。おそらくはベルガーさんもこの書類の山をこの機会にエドワード様に処理してもらうことを選んだらしい。実務が滞ってるならそれは解決しないといけないのだ。


 私は床に落ちた書類を拾って渡したりする。うん、油断してたんだ。やる事そこまでないから。


「あれ? この数字間違ってる」


 ついつい心の声がポロリと落ちてしまったのだ。大体計算問題なんて研究所で吐くほどやらされた。四則演算なら何桁だろうと暗算ができる。さすがに微分積分を暗算でやるのは無理だけど。三角関数くらいなら大丈夫。サイン、コサイン、ラブシャインである。


「なんだと?」

「おお、キュー様もしや計算がお出来になるので?」

「えっ? あー、まあ」


 数字が私たちの世界とほとんど同じなのが悪い。なお、字は簡単なのは読めるようになりました。私すごい。


「こっ、これ! この計算やってみて!」


 エドワード様がなんか興奮した顔で一枚の書類を出してきた。ええと、これは、委託事業の畑の収穫と税額? 税率何パーセントとか分からないけど、だいぶ中抜きされてそうだよね。って、これだと赤字にならない? 税金分こっちが持ち出さないと間に合わない事になってるんだけど?


「な、なんだと!?」


 ベルガーさんが思いっきり目を開いている。あー、なるほど、びっくりするとこんな顔するんだ。仕方ないから説明します。


「ええと、ここにある数字が収穫量で、こっちが納税額ですね。で、こちらが委託料なんですけど、これは別途で払われてるんですか?」

「あ、ああ。そうだな。別途の支払いだ」

「でしたら、この数字に委託料率を掛けて、支払うのはこれだけですが、納税額とこの委託料を足したら収穫量を上回ってしまうんですよね」


 エドワード様に言うと彼はものすごい勢いで計算を始めて、やがて、がっくりと肩を落とした。


「バカな……これでは我が領の収支は赤字まみれではないか!」

「うーん、まあこの公爵領って商業偏重な気がするのでそこまで赤字まみれじゃないと思いますけど、農業が足引っ張ってるのは間違いないですね」


 エドワード様が悔しげにギリギリと歯を鳴らす。いやまあちょっと落ち着いて?


「元締のところへ行くぞ!」

「エドワード様、そういうのは公爵様が帰ってからの方が」

「父上が騙されていたのだ。父上が行ったとてはぐらかされるだけだ!」


 それは確かにそうなのかもしれない。まあそこまで時間が経ってたら「今更?」って言われるかもしれないしね。


 私たちが向かったのは一軒の農家、と言うには豪華すぎる屋敷。私知ってる。こういうの庄屋どんって言うんだよね?


「これはこれは、公爵様の御一家様。こんな何も無い所へようこそ!」

「うむ、ザッケルト、世話になる」


 どうやらエドワード様も知ってる人間らしい。


「して、今日はどの様なご用件で?」

「うむ、父がエッジに行っておるから、領内を任されたので見て回ってるのだ」

「そうでしたか。テオドール様ではなくてエドワード様が。なるほど」


 何やら含みがあるみたいな言い方だ。もしかしたらテオドールの派閥に組み込まれてるのかも?


「それで、二三尋ねたいことがあってな?」

「な、なんでございましょう」


 ザッケルトと呼ばれた男の顔に緊張が走る。だが、それも一瞬だ。とんでもなく早い百面相。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。いや、見逃さないか。


「この辺りでいちばん盛んに作られてる作物はなんだね?」


 エドワード様の質問にあからさまにほっとなった気配があった。ザッケルトはにこにこしながら答える。


「この辺りは麦の穀倉地帯ですからな。そりゃあ自然と小麦が多くなります。果物なんかも育っておりまして、いちごやぶどうなども収穫しております」


 いちごやぶどうは……畑に生える訳では無いので採った人と領主で半分こにしているみたい。本当に半分なのかどうかは分からないんだけどね。


 次に小麦の詰まった蔵を見せて貰った。なるほど、こういう風に取り入れて保存してるのか。八洲やしまの田舎でもこういう光景は広がってるんだろうな。


「ザッケルト」

「なんでございましょう?」

「ここに書かれてあるのはこちらの書類に書いてある分だな?」

「へい、左様でございます」


 エドワード様は詰めるつもりだ。さて、どう出るのかな?


「ザッケルト、私がこの分に書いてあるのを計算してみたのだが、税を払うと残らなくなってるみたいなのだが」

「さ、左様でございますか?」

「そこで、私は委託料として払っている金貨を別払いとせず、現品払いに切り替えるつもりだ」

「なっ!? そ、そのような大事な事を公爵様に断りもなく決めるのは如何なものかと」


 ザッケルトがかなり慌てて言う。それはそうだ。確実に中抜きの利益が減るのだから。別払いにしなければそんなものだ。


「何か不都合でもあるのか?」

「わ、われわれは金貨で様々なものを購入しております。今更それを変更されましても」

「ふむ、日々のものの購入などに不便だと?」

「そうでございます!」


 エドワード様は少し考える素振りをした後にこんなことを言い出した。


「ならば、商会に打診して、支払いを領主持ちにしてやろう。もちろん、あとからその分は物納で構わんぞ?」


 立て替え払いか。なるほど。それならば使い過ぎてもあとから徴収出来るんだろうな。なかなかに上手い手だ。ところで私は何もしてないんだけど良いのかな?

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