出迎(episode27)
諾子さんの話の中身は殆ど意味が無いので読み飛ばしてもそこまで影響はありません(笑)
貴族時代のことは思い出したくもないけど、家には魔道具が沢山あったし、一時は分解してみた事もある。魔道具は高価なものだからこっぴどく叱られた、というか痣が見えないところに拷問されたと言ってもいいぐらいの事はされたなあ。
その時の魔道具は壊れてしまったと偽って引き続きいじくってた。だって他にやることなかったんだもん。いわゆるおもちゃですよ、おもちゃ。
その時のは木門で風を生み出して涼しくなる魔道具。涼しくなる範囲が一キロ四方っていう範囲だけど。軍隊とかの進軍用だよね。そんなものがうちによくあったなって? 木門の魔道具って割と安価なんだよね。人気があったのは火門と水門。
まあ実はその魔道具はもうひとつ効果があって、風が吹いてる間は進軍スピードが早くなるってのが組み込まれていたみたいなんだよね。
今回の魔石は火だから私としては苦手分野だ。種火くらいしか出ないって。いや、魔法の発動と魔道具の取り扱いは別物だけど。
魔道具作成にはいくつかの手順がある。私もそれをクリア出来ていれば冒険者じゃなくて魔道具技師として仕事をしていたかもしれない。
ひとつは才能。魔道具を見て、構造を把握し、それを分解して組み立てる。実はこれは子どもの頃から私がやってきた暇つぶしだったのだけど。私には一目で構造が把握出来た。それを考えたら私の適職は魔道具技師だったのかもしれない。
ふたつめは強さ。これは本人の強さでなくとも強い人を知っている、頼める、という人脈的な、或いはお金の力で何とか出来るという資金力まで含めたものだ。これは私には無くてそれ故に私は魔道具技師にはなれなかったんだけど。材料を用意する事が出来なければ魔道具は作れないのだから。
みっつめは魔力操作。これは魔道具に満遍なく魔力を流し込む調節方法の巧みさだ。これが出来ないと魔道具が暴走してしまうかもしれない。私はこれもそこそこ自信がある。というのもこの世界には魔法というものが無いので、魔力が近くになくて判別しやすいからだ。私が、というかこの世界が、適してるんだろうなあ。
まあそんな訳でタケルのプレゼントに魔道具を作ってみたいと思う。いや、普通のものでもいいんだけど、せっかくこんなの見つけちゃったし、作るしかなくない?
まず、考えてみるけど、タケルに必要なものを与えたい。とは言ってもタケルは魔法使えないので増幅は無理だろう。タケルも五行思想を知ってたみたいだから頑張れば出来るようになるかもだけど。体内で魔力を練り上げるのがネックなんだよね。まあ私が火門苦手なのは水門に適性があるからなんだけど。水剋火ってやつね。
タケルになんの適正があるかは分からないけど、火門関係でなんかあげたい。やっぱり護身用かな? ああ見えてタケルってなんでも首突っ込みそうというか巻き込まれそうだし。大体において凪沙が原因になる気がするけど。えっ、私? 私はほら、関係なじゃない?
となると無詠唱で火の玉を何発か発射するようなのがいいかな? あ、でも、バレると目立っちゃうかなあ。あの拳銃だかガトリングガンだかの再現くらいにしとこうか。装弾数はまあ、魔石に入ってる魔力量次第だけど。
魔石をこんな事に使っちゃもったいないよね。この程度の魔法なら火門の得意な実習生レベルの魔法使いでも撃てる。そっちの方が安上がりだ。あ、私は撃てないよ、もちろん。そもそも私は魔法使いじゃないからね。えっ? 魔法剣士だよ、魔法剣士! その方がかっこいいでしょ! あ、いや、今はパチンコ屋の店員か。
タケルには魔力がないから当然ながら魔石に入ってる分を使う。これだとあまり連射が出来なさそうだ。まあひるませるくらいは出来るからその隙に逃げてもらおっと。
プレゼントを作り終えてしばらくすると、夏も過ぎて秋の声が聞こえてきた。いや、実際はまだまだ暑くて残暑が厳しいんだけど。もしかして、こっちの世界って秋っていう食べ物が美味しくて涼しくて過ごしやすくなる季節が存在しない?
そんな秋に入った中旬くらいのある日、私と凪沙はタケルのお家に招待されていた。何って誕生日会っていうものらしい。新年じゃないのね、と改めて思った。
「こんにちは」
凪沙が家の前に着いているボタンを押す。なんかチャイムのような音が鳴っている。これはノッカーみたいなものなんだろう。
「は〜い」
なんかのんびりした声がして、パタパタという音をさせながら誰かがドアに近付いてきてガチャリと向こう側からドアを開けた。
「あらぁ! 久しぶりね、凪沙ちゃん!」
そこに居たのはなんかイメージ的にふわふわした感じの女性。手にはなんかお玉と言えばいいんだろうか、スープをすくう道具が握られていた。
そしてふわっといい香りがしたかと思ったら凪沙が抱き締められていた。
「ん〜、相変わらず凪沙ちゃんは抱き心地がいいわね。早くお嫁に来ればいいのに」
「あ、いや、その、あの」
凪沙がしどろもどろしてるのを私はポカーンと眺めていた。その女性の顔がぐりんと私の方に向いた。私はこの女性を知っている! そうだ、確か諾子って呼ばれてたあの女性だ。
「まあ、あなたティアちゃんね。うわー、実物は可愛いわ。もう食べちゃいたいわね。あ、安心してちょうだい。食べるって言うのは比喩でね。あ、でもでも比喩じゃなくてお口に入れても痛くないっていうか、って入れるのは目よね。まあ目には目薬入れるのが一番だと思うし、目も覚めるのよね。私なんて昨日から凪沙ちゃんとティアちゃんが来るって聞いて眠れなくて、朝からタケルのお誕生日会のお料理作っててね、その時に眠くなってきたから目薬をさそうと思って探してたんだけど、どうやら切らしちゃったみたいなの。それで困ってたらタケルが買ってきてくれるって言うからお願いしてね。いやーん、もう本当にいい子に育ったわ。これもお父さんの遺伝かしらね。そうなのよ。あの人ったら昔から優しくてね、初めてのデートの時なんか」
「お義母様! あの、そろそろ」
「きゃー! 凪沙ちゃんにお義母様って言われたわ!」
きゃーきゃー言いながらまた凪沙を抱き締め始めた。どうしよう。なんかとんでもないところに来てしまった。