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第二十六話 欲場

●REC

「キュー、君は一体、何者なんだ?」


 エドワード様にそう声を掛けられた。いや、別に特別なことはしてないと思うのですが。ほら、魔法はあるって言ってたし、回復魔法もあるんだから、やったのは普通の治療のはずである。


「怪我した傷を塞ぐくらいなら水門の魔法で何とかなるが、状態異常を治せる術師は教会勢力以外には居ないはずなんだが」


 あるぇ? 聞いてない、聞いてないよ、ティア! (ティア「言ってないでしょ」)


「あ、まあ、その、ちょっとした特技?みたいな。まあ冒険者ですから奥の手の一つや二つはありますね」

「……わかった。冒険者の職業秘密というやつだな」


 そのままエドワード様はショーンを起こした。


「んんっ、こ、ここは……エドワード様!」


 エドワード様が心配そうに男の顔を覗き込む。


「突然倒れてどうしたのだ」

「すみません、なんか急に身体の力が抜けて」

「なんと。それはいかんな。私の方はいいから部屋で休んでいたまえ」

「そうですか。でしたらお言葉に甘えて失礼いたします」


 ふう、とエドワード様がため息をついてこっちを見た。


「義姉上だと思うか?」

「おそらくは」

「邪魔をするぞ!」


 そう言うとバタンとドアが開き、またテオドールがでてきた。


「なんだ、まだピンピンしておるではないか」

「兄上?」

「貴様が食事も摂らずに仕事をしていると言うから食事くらいは食べるように、と思ったのだが」


 そうしてテオドールはワゴンに載せてきたスーブ皿を見つける。


「食べているならいいのだ。無理はせんようにな」


 そう言うとテオドールは帰ってしまった。あれ? もしかしてテオドールは本当に何も入れてない?


「うーん、テオドールの仕業と思ったんだけど」

「兄上は違うようですね」


 なんだかんだでエドワード様もほっとしている。となるとだれが毒を痺れ薬を仕込んだのかが気になる。


「恐らく義姉上なのは間違いないだろう」

「えっ、で、でもテオドールはやってないんでしょ?」

「多分兄上にしられたら台無しになると思っていたのでは無いかと」

「成功させるために黙ってたのか」


 どうやらヒルダという女性はとてもしたたからしい。


「ふぃー」


 私は一日の仕事を終え、お屋敷のお風呂を使わせてもらえることになった。大浴場である。とても広い。何人かが一緒に入っても大丈夫なほどである。と言ってもこの遅い時間には私しかいないんだが。


 一般的な使用人と一緒に入る訳にもいかないよね。期間限定の特別使用人だもん。みんなが眠ってるこの時間しか入れない。


「お邪魔しますわ」


 カラカラと扉が開いてヒルダがお風呂に入ってきた。一糸纏わぬ姿。とても均整が取れていて綺麗だ。おっぱいは無いけど。


「ヒルダ様」

「お風呂に入る時は裸の付き合いだから敬語は無用よ」


 そんなことを言われてもヒルダ様にタメ口はきけないからなあ。


「ねえあなた、確かキューだったかしら?」

「私をご存知なんですか?」

「そうね、テオドールに聞いたわ。冒険者なのでしょう?」


 そうか、テオドールは私が冒険者と知ってるもんね。いや、それでもこっちに来てから入れ替わってたはずだが?


「冒険者でした。今は公爵家にメイドとして雇われています」

「そう、なのね。でしたら私の背中を流してくださる?」

「仰せのままに」


 私はタオルを受け取るとそこに石鹸で泡立ててゴシゴシと丁寧に背中を擦る。強く擦ってもいいんだけど、それで傷物にされたと言われちゃ困る。


「気持ちよかったわ。ありがとう。今度は私があなたの背中を流してあげるわ」

「えっ!?」


 ヒルダ様は私からタオルを奪い取るとそのまま私の背中を擦り始めた。正直、力が弱くて洗ってるのか撫でてるのか分からないくらいだ。


「あなたは、何も言わないのね」

「えっ?」

「貴族の身体にしては貧相だとか、そういうのよ」


 ああ、そう言えばこっちの世界は貴族というのはそういうものだと言われているみたいだね。エレノアさんが言ってたんだけど、貴族でも胸の小さな女性は民間に降嫁されたり、家を出て冒険者になったりすることもあるらしい。それだけ身体は大事なものだということ。


「私もこんなですから人のことは言えません。それに、ヒルダ様はお美しいですから」


 これはお世辞ではなくて素直に思ったこと。胸は小さくても美しさはとびきりだ。


「そう。ありがとう。ねえ、なんなら私のところに来ない? 今の待遇の二倍のお給金をあげるわ」

「申し訳ありません。エドワード様や公爵様を裏切れません」

「テオドールはどうでもいいような言い方ね」


 言われてあっと思ってしまった。確かに公爵家に雇われているならテオドールを大切に思わなければならない。


「やはり、公爵様はテオドールを……」

「ヒルダ様?」

「なんでもないわ。湯冷めしちゃうから湯船に浸かりましょう」


 ヒルダ様に促されて湯船へと戻り、それからヒルダ様の愚痴のようなものを聞かされていた。どうやらヒルダ様は生家のミルドレッド公爵家ではあまりいい待遇とは言えないみたいだ。そういう意味ではこのリンクマイヤー公爵家の方が居心地はいいみたい。


「私が嫁いで来たら仲良くして欲しいわ」

「そうですね。頑張ります」


 そんな事を言い合いながらヒルダ様は先に上がって行った。私は湯船に身を沈めながらヒルダ様の事を考えていた。


 恐らくヒルダ様はテオドールと結婚し、リンクマイヤー公爵家を切り盛りして役に立つと見せたいのだろう。でも、テオドールはあんな感じだし、来てみたらエドワード様が跡継ぎになりそう。


 ならばどうするか。エドワード様の婚約者として乗り換える? いや、それは出来ないだろう。ならばエドワード様の排除に動くというのが妥当ではないだろうか。考えることが増えてしまって参ってしまう。


 私はその日、湯船で火照った身体を引きずって調子が悪いままに部屋にたどり着き、眠りについた。翌朝、まだだるい身体を治癒ヒーリングで治すのを思いつくまでだるさは続くのだった。

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