刑事(episode23)
部下二人の名前は決めてません。一人は前に出てきたゴツい体格の奴です。
「はいどうも、若林です。で、何か進展でもありましたか? それとも他に事件でも?」
「あの、おばあちゃんのお店が、その、赤鷺金融が」
「まあまあ落ち着いてください。どうやらこの間とは別件の様だ。ゆっくり教えてくれませんかね?」
凪沙がテンパりながらも話そうとした。私は前の時の「八洲語が不自由」という設定を忘れてないので黙っている。
「ありがとうございます。実は……」
そう言いながらタケルが事の経緯を説明する。全部聞いて若林さんはふぅ、と溜息を吐いた。
「話が荒唐無稽すぎるんだよなあ」
そう言いながらタバコを取り出して、火をつけようとしたのかポケットを探してライターを取り出そうとするが、ライターがどこにもなかったのかタバコを咥えたままで話す。
「だいたい、なんでその赤鷺金融?とかいう奴らが海外勢力だってわかったんだよ。何でもかんでも陰謀論と結び付けるといい大人にゃならんぞ?」
「私もタケルも成人済みですけど?」
「いやいや、そりゃあ図体だけの話だ。そんな妄想してるようじゃあ中身はお察しだろうがよ」
「あんたね」
話してる間もライターを探してる感じなのは面白いが、やっぱり見つからないようだ。えっ、私がライター知ってるのかって? いや、だって仕事場でしょっちゅう見てるもの。
「あ〜、やっぱねえなあ。それにな、その貸金業者と店とのやり取りは民事事件だろうから俺らじゃ関与出来んのよ」
ミンジとかよく分からないけど、要するにこの警察の人はあのおばあちゃんを助けてくれる気はしないってことか。それはちょっと残念だ。
「つまり、見て見ぬふりをしろと?」
「警察としては動けねえって話だよ。分かったら帰んな。俺はタバコが吸いたいんだ」
恐らくライターを取りに戻ろうとしたのだろう。そうか。ライターがなくても火があればタバコは吸えるよね。
「あの」
「なんだい、お嬢ちゃ」
私は手の中に火種の魔法を発動させてタバコに火をつけてあげることにした。
「タバコ、吸いますよね。どうぞ。火ならあるので話を聞いてください」
「おっ? お、おお」
若林さんはタバコに火をつけてふぅっと大きく吸うと煙を吐き出して少し呆然としたあとに言った。
「な、なんだそりゃあ!?」
凪沙もタケルもなんにも言わなかったから別にいいのかと思ったら、止める暇もなく私が行動してて頭が整理できてなかったらしい。酷い話だ。
「これは火門の魔法で種火です。火門は苦手なのでこの程度しか出来ませんが」
「えっ、八洲語? キミ、八洲語は苦手なんじゃあ?」
「あ」
タケルも凪沙もぼーっとして状況説明してくれないから自分でしてしまった。なんか驚いてるなって思ってそこで初めてそう言えばこの世界って魔法とかないんだったと気付く。
「前の時のも含めてきっちり説明してくれ。さもないと偽証罪ってことで逮捕しなきゃならん」
「ひえっ、逮捕ですか?」
「そうだ。正直に話せ」
タケルと凪沙に目で合図を送るが、正直、アイコンタクトの練習なんかしてないので何を言っていいのか、何を言ってるのかも分からない。
「分かりました」
「僕が説明します!」
タケルが進み出てくれた。思えばタケルが一番私の状況について詳しいのかもしれなう。ここはタケルに任せてみよう。
「ほほう? 嘘とかは言うんじゃないぞ」
「もちろんです」
そう言ってタケルは公園にいた私にご飯を食べさせて、パチンコ屋に連れて行って、おじの源三さんにお願いして養子にしてもらったみたいな事を言っていた。うん、まあ、嘘は吐いてない。
「ふむ、確かにな。嘘では無さそうだが」
何かをチラチラ見ながら若林さんが言う。もしかしたら嘘発見の魔道具なのかもしれない。まあ私はこの時、この世界に魔道具があるのかどうかすら失念していたのだけど。
「その後は私が話すわ」
今度は凪沙ちゃんに交代。おばあちゃんの件は凪沙の方がしっかり説明出来るからね。
「それで、突然赤鷺金融とか名乗るヤツらが乗り込んできて、息子さんの書いたサインがあるから立ち退けって」
「それが本当なら文書偽造の罪に問われるが」
「録音はしてないけど、おばあちゃんが指摘して本人が認めた」
「そうか。それで奴らが外国勢力ってのはどうやって」
そこで私はここぞとばかりに言ってやった。
「それは私の魔法。風を操って声を届ける木門の術」
「よく分からんのだが」
「木門は水門の次に得意」
「ますますわからん」
どうやら混乱しているようだ。ええと、そんなに難しい事は言ってないよ? あ、もしかしてこの世界には魔法がないから魔法の基本である五行思想とか全然分からなかったりする?
「仕方ない。まず、この世は木火土金水の五行の気で出来ていて」
「ティアの魔法って五行思想なの!?」
タケルからツッコミが入った。どうやらタケルは知ってたらしい。という事はこの世界にも魔法はあるのでは?
「その辺はいいから実際にやってあげたら分かるんじゃない?」
「そうだね。じゃあ、風よ、噂を聞き付けよ。木門 〈順風耳〉」
ターゲットは特に取ってなかったから若林さんの来たところの声を拾う。
『若林さん遅いっすね』
『面会に来たのおっぱい大きい女の子と付き添いの男だったぜ』
『えっ、まさか若林さん、孕ませたとか?』
『いやあ、あの人モテるようでモテないから有り得ねえって』
『だよなあ。あー、どっちでもいいから揉みてえなあ』
声が部屋の中で再生されるといたたまれなくなったのを感じる。揉みたいってそんな。ストレートすぎない? いや、別に揉まれるのはそこまで嫌ではないけど。
「あの馬鹿ども……すまん、信じよう。あいつらには後で俺がお灸を据えておく。それで俺は何をしてやればいい?」
「おばあちゃんのボディガード? 警察が出て来るのは向こうも想定してないと思うし」
「なるほど。まあいい。そのおばあちゃんとやらに会わせてもらってからだな」
そう言いながら二本目のタバコに火をつけようとしていたのでつけてあげた。今度はびっくりしなかったよ。