快気(episode214)
留守番で苦労していた未涼さんの事は想像に任せるに留めておきます。
ロンドさんとタナウスさんが旧交を温めている横ではガンマがイオタさんを正座させて説教していた。あー、まあ、でもイオタさんの任務はタナウスさんの護衛ですし。そっちは全うしたから良いのでは?
「女の色香に迷って判断を誤ったのはこれで二桁になる。だからおしおき」
あ、ガンマに任せるよ。その辺は十条寺としてのなんか譲れないものとかありそうだし。
そんな感じでワイワイやりながら検査をした。病院だから静かにした方がいいのではないかと思ったんだけど、胡蝶さんが言うには防音もしっかりしてるし、他に患者も今はいないからって。
いや、あの、検査室なのになんで防音なんかしてるんですか? それ、必要なの? 胡蝶さんは妖しく微笑んで答えてはくれませんでした。敢えて聞くなら「今までの犠牲者は何人ですか?」というところだろうか。まあ「あなたは今まで食べたパンの枚数を覚えているのですか?」とか返ってきそうだから聞きたくない。
ロンドさんは検査がまだ残ってるからと病院にもう何泊かするらしい。日を跨いで数値がどう変化するかとかを見るらしい。
いや、私としてもこれだけ人体に影響を及ぼす魔法はこの世界では初めてだし、例の龍の血がどう影響するのかも知りたい。
まあ魔法については向こうの世界にいた頃の私じゃ発動すらしなかったんだろうけど。最源流魔法が使えたから使えそうな気はしてたんだけどね。
そんなこんなで一週間くらいはそんな感じ。その間、クロエさんまで見舞いに来ていた。二人に面識があったというのは驚いたがよく考えたら法国の大使とその国の貴族令嬢だもんね。パーティとかあれば出会うか。
「ティアさん、折り入ってお願いが」
そんな中でクロエさんかおずおずと切り出してきた。なんだろう。美少女の頼みは断りませんよ?
「プランシャール家でロンド様の快気祝いをしたいのですけど、今からだと会場を抑えるのに一苦労なのです。もちろん大使館で行っても可能ですが、それだと入れない方も出て来てしまいます」
クロエさんはタナウスさんに目を向けた。タナウスさんなら入れるんじゃないかな? って思ったら見ていたのはその隣のリュドミラさんらしい。
「経緯は聞いていますが身元を保証するにはあまりに取得からの期間が短すぎて我が国の法律では入館が認められないのです」
あー、まあリュドミラさんは首狩り族出身で皆さんの首は今は狩ってないんですよ、とか言う訳にもいかないしね。第一信用がない。いや、それ言ったらそもそも異世界人たる私もそうだよ。
「ですのでお譲りしたあの洋館を使わせていただけないかと」
「あー、まあ、いいですけど」
カビた台所を聖水でざぱーってしてて良かったよ。料理とかは国からコックを連れて来る他、八洲のシェフに依頼するんだってさ。
そんな感じで場所は私の家。久しぶりに帰ると未涼さんに恨みがましい目で見られた。あー、ごめんなさい。会社の事務作業とか決裁作業サボって出掛けてました。
正座して怒られてその間散々に愚痴を聞かされた。なんでも商品が足りないんだそうな。思ったよりも売れ行きが良くて私が作り置きしてた在庫が切れて予約待ちになってたらしい。そんな事言われてもなあ。
「ちゃっちゃと作ってください。ティアさんが居ないと出来ないんですから」
「いやまあそりゃあそうなんだけど。いやいや、待って待って? だっていざという時の為に魔力水はタンクに用意してたよね? それを使えばレシピはあるんだから作れたはずじゃ」
「そんなものがいつまでもあるわけじゃないでしょう! とっくにタンクは空ですよ」
「ええっ!?」
どうやら魔力水を使い切ってなお商品が足りないという状況らしい。しかも顧客を絞って、効果も絞っての状態でだ。
あんまり劇的に毛生えポーションと消化促進ポーションをそのまま売り出しても仕方ないので魔力水で薄めて作るのだ。ということは原液も使い切ってるということだろう。
私はその日から一心不乱に原液を作り続けた。不眠不休ではないよ? ちゃんと寝たからね。出来たものはアイテムボックスに保管しておく。いちいち保管場所に持っていくのは手間だからね。しかし、沢山入るなあ、これ。キューってばズルいなあ。
ある程度の量が出来たところでこの屋敷をパーティ会場に使う事を提案した。いやまあ私の家だから提案というか決定事項なんだけど。未涼さんは反対。保乃さんは私も交ぜて、とか言いながら賛成。というか知らない人がいても大丈夫なんだろうか? まあ保乃さんなら大丈夫か。
未涼さんに関しては来賓のメンツを言ったら態度が軟化した。ぜひ来てもらって商品のアピールしたいと。まあ四季咲、鷹月歌、妖世川のトップが参戦を決めていて、古森沢、十条寺、右記島のメンツも出るって。しかも、パラソルグループの姉妹と法国名門貴族プランシャールもなんだから。こうして見ると割と色んな人が来るんだなあ。
料理に関しては法国から一流と呼ばれる方が来てくれた。それに対抗してか、八洲の料理を舐めるなよ、とばかりに四季咲のジジイが介入してきて料理人を何人も派遣して来た。アイアンシェフではなさそうだけど。
当日。私の家の前には何台もの黒の車が停まっている。どうやら入場待ちの様だ。私が朝起きたら既にこうなっていた。いや、セッティングは前日に済ませたから問題は無いんだけども。
私が内側からドアを開けると車のドアが一斉に開き、私の家へとみんなが進んできた。あの、皆さん、一度には入れないので順番にお願いしますね。
「順番か。それもそうか。では家主よ、入る順番を指定せよ。わかっているな?」
いや、そんな事言われても圧力に屈して入れたりしませんって。一番最初はもう決まってますから。
「じゃあまず主催者であるクロエ嬢から」
人ごみの中から出て来たのは日傘を優雅にさしているクロエさん。隣にはメアリー嬢がクロエさんと手を繋いで笑っていた。仲良くなったのね。ということは裕也さんはフラレたのかな?




