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治験(episode213)

アンネマリーの精神年齢が下がってますが誤植ではありません。作者の勘違いでもありません。

「ここは何処だ? 君は誰だ? そして何故私は裸に?」


 矢継ぎ早に投げ掛けられる質問。どれも至極ご最もなものだ。その中に「私は誰?」というものがなかったので自分の事はわかるらしいと見当をつける。


「妖世川ロンドさん、でよろしいですか?」

「ああ、そうだが君は?」

「私はここ、右記島総合病院の理事の一人、右記島胡蝶と申します」

「右記島の黒曜姫か。これは随分な大物がお出ましだ。しかし、右記島総合病院ということは私はまだ生きているのだね?」

「はい、残念ながら解剖の誉にはあずかれませんでした。なので治験のご協力をしていただきたくこちらに運ばせてもらいました」


 解剖を誉って言っちゃうあたり、胡蝶さんもかなりな右記島の人間なんだなと思う。もしかして私の身体も狙われてたり?


「安心してください。ティアさんが生きてるうちは解剖とかしませんのでどうぞ、五体満足のまま運ばれてきてくださいね」


 安心もできんわ! いやまあ殺人とかそういうタブーを犯してまでやるわけが無いとは思いたいけど。胡蝶さんが怖い。


「茶番はそれくらいにしてくれるかね? 私を被検体にと言われたが、私はそれについて了承はしておりませんが」

「許可なら大河氏に取っております」

「オヤジが……」


 ロンド氏は実の息子という訳でもなく、妖世川の人間には大河氏を親として慕うものが沢山いるんだそうな。中には外交で外国に赴いた際に拾われた子どもも居るんだとか。まあ、私も拾われた身だから偉そうなことは言えないんだけど。


「ということであなたには治験の協力をしてもらいたいのです」

「オーケー。わかった。私は何をしたらいい?」

「そうですね。まずは身体に異常がないか各種検査でしょうか」


 この言葉に恐らくお互いに齟齬があった為か受け取り方が違っている。後でそれぞれ本人から聞いた話だが、胡蝶さんは飽くまで治験の結果を検証したいっていう知的好奇心からなのだ。


 一方でロンド氏は今から治験に耐えることが出来るのかをチェックする為の事前検査みたいなものだと思っていたそうな。


 だから胡蝶さんに案内されていくつもの機器が置いてある部屋に通されると検査数の多さに彼は顔を顰めた。


「こんなにやるのか?」

「はい、医学的な検査はこの程度です。あとはまた色々」

「こんなことしてたらいつになったら治験が終わって解放されるのかわからないな」

「まあ治験自体は終わってますし、データ収集くらいは行きがけの駄賃ということで」

「え?」

「えっ!?」


 ここで初めてロンド氏は既に自分の身体に治験がされていた事を理解したみたいだ。それと同時に自分の身体に何が起こってここに運ばれてきたのかというのを朧気に理解したようだ。


「そうだ。私は法国でテロにあって身体を吹っ飛ばされたはず。千切れて飛ぶ自分の右脚をスローモーションの様に見ていたのが記憶にあるのだが。あれは夢だったのか? バーチャルリアリティ?」

「いえ、確かにあなたは爆弾テロに遭遇して、爆心地近くに居た為に甚大な被害を被りました。死んでないのが奇跡なくらいに」

「そうだろう。だが何故だ? 私の手足は頑丈なまま付いているし、動きに支障もない。何が起こったんだ?」


 ロンド氏の手足はしっかりと鍛え抜かれた鋼のようにしっかりしている。普通の再生医療だと筋肉まで戻ったりはしないらしいんだけど、そこは私の操る回復魔法だったからね。筋肉が無くなるなんて世の中の損失だよ!


「奇跡ですよ、そりゃあもう、女神様の奇跡」

「女神様か。そんなものがいるんなら素直に信じられるんだがね。生憎と無宗教なんだよ」


 多分女神様は今頃調和神様の指導の元、仮決算書類を一人で作り直させられているんだろうなあ。でも領収書の整理はしてあるからそこまで大変でもないはず。


 私たちがそんな話をしていると、ものすごいスピードで突っ込んでくる馬鹿がいた。


「ローンードーさーん! うわっ、本当に生きてる、動いてる!」

「もう、アンヌ。走らないでよ。会いたかったのは私も同じなのよ」

「アーシャはもっと身体を鍛えた方がいいと思うんだよね」

「お前ら。なんでここに」


 妖世川アンネマリーとアナスタシア。……アンネマリー・妖世川だっけ? まあどっちでもいいか。私の知る数少ない妖世川の人間だ。なお、アンネマリーは私たちが見ているにも関わらずロンド氏に抱きついている。あ、もう裸じゃないよ。検査の為に病衣を着用してもらってる。


「へへー、タナウスさんからティアが帰ってくるって聞いたからすぐに回復するって信じてたんだよね!」

「アンネマリー、あなた、もっと大人っぽいと思ってたんだけど。あと、私よりも大きいそれを男性に押し付けるのはやめた方が良くない?」

「あはは、これは失礼。アンネマリー・妖世川、ロンド氏の代行として欧州派遣任務より帰国しました。これより引き継ぎしたいのですけどよろしいですか?」

「アンネマリーさん、右記島としては主治医的立場としてまだ退院は認められません。これからリハビリが必要になりますので」

「えー、ロンドさん元気そうじゃない。大丈夫なんでしょ、ティア?」


 私に振るな! 主治医がダメって言ってんだろうが。と思ってたらアンネマリーはガクン、と身体が弛緩して崩れ落ちた。


「帰国早々うるさい。黙れ」

「ガンマ!」

「ティア、お帰り。イオタが馬鹿なことしてない?」


 そしてあまり笑わないはずのガンマがにっこりと笑った。でも目は笑ってないんだよなあ。


「ロンド、目が覚めたか。心配したぞ」

「タナウス! すまんな。迷惑を掛けた。実際に会うのは久々なんだがな」

「なあに。気にするな。お前が爆弾テロにあったと聞いた時には仕事ほっぽり出しちまおうと思ったんだが、今回の話を貰ってな。お前の回復に寄与できた様で良かったよ」


 あー、あの初めてタナウスさんと会った時の卑屈そうな目ってそういうことなのか。ロンド氏を心配してたんだなあ。で、私情が入るといけないから本人には伏せとこうと思ったわけか。いや、船の中で話しちゃったんだけど。

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