第二百十二話 帰郷
久々のエッジ!
一先ず国王陛下にはそのまま玉座に座ってもらうことにした。こういうのは別の人間を据えるものなんじゃないかと聞いたらテオドールは言った。
「そんなことをしたらオレの仕事が増えるじゃねえか」
あんたの仕事が増えたってあんたやんないじゃない。全部ヒルダ様に任せんじゃん!とかいいたかったけど、それをヒルダ様も望んでるんだよなあ。テオドールに必要とされてる、これでテオドールに捨てられないだろうみたいな。心配しなくてもテオドールはヒルダ様を手放したりしないと思うよ。
なお、この度の領土の獲得で私自身には貴族の称号かテオドールの側室か選べって言われた。いや、どっちも御免こうむる。私は逃げるよ? まあその辺はテオドールとヒルダ様が交渉してくれるらしい。
なお、私がテオドールの側室にって言われた時にヒルダ様は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、それでも私ならと半ば自分を強制的に納得させたような作り笑顔を浮かべ、私が真っ平御免って答えたら、テオドール様に何の不満があるのかって怒りとテオドール様を独占できるって喜びが入り交じった顔をされたよ。こういう時どういう顔をしていいのか本当に分からないよ! 多分笑っちゃダメなんだと思う。
結局、私の分はヤッピの権限を強くしてもらうことで落着した。これにより、属領ながら比較的自由な都市にマリナーズフォートはなった。そして税金も免除されたらしい。すげぇな。
私はメッセンジャーとして元の大陸に帰り、国王に面会を申し出た。国王陛下は手紙を読むと鷹揚に頷いた。
「なるほど。やっとキューが貴族になる事を承諾してくれたってか」
「承諾してません!」
「ははは、冗談だ。打診したが断られたと書いてある。全くどんだけ広かったら貴族になってもらえるやらなあ」
「広さが問題じゃなくて貴族になりたくないだけです」
「ん? 貴族はいいぞ? 民衆がみなひれ伏してくれる」
「それ、別に嬉しくないです。王様もそう思ってません?」
「そうなんだよ。気軽に飲みにも行けねえんだよなあ」
こういう所は気さくでいいと思うのだが、宰相閣下に窘められた。
「マリナーズフォートの件は了解した。まあ元々全部テオドールやヒルダに丸投げするつもりだったしな。なんなら向こうで公爵家を新たに起こしてもいいくらいだ」
「いや、そんな事になったらリンクマイヤー家はどうするんですか?」
「ん? もう一人息子がいただろう。奴に継がせればいい」
エドワード様の事か。まあ観賞用であるけどある意味王子様みたいな人だから公爵とか似合うんじゃないかなあ。ちょっとブラコンっぽいところがあるからテオドールが向こうの大陸につきっきりになっちゃったらどうなるかわかんないけど。
「まあそれはオススメしないんで大人しくヤッピに権限強化してあげてください」
「ま、どうやら向こうの嬢ちゃんはキューの友人っぽいからな。恩を売るにはうってつけだ」
「あー、まあ、確かにヤッピは友だちですけど。って私に恩を売るってなんですか?」
「いや、ちょっと教団絡みで困ったことになっててな?」
すごく嫌な予感が頭の中で警鐘を鳴らす。ダメだ。これは関わったらダメなやつだ。
「現在、エッジの街の冒険者ギルドが動いてくれてるんだが」
待て? エッジの街? そこはエレノアさんが、べるちゃんさんがいるところだ! ビリーとリリィちゃんもいるところだよ! いや、だいたいグスタフさんが居たら大丈夫な気がするんだけど。あと、一応ギルドマスターのアリュアスさんもそれなりに強いみたいだし。檮杌戦では役に立たなかったけど。
「エッジの街がどうかしたんですか?」
「正確にはエッジの街というか魔の森でな」
魔の森。前に大規模な魔物の氾濫である、森林暴走が起こった場所である。あの時、森にいる魔物はそれなりに間引いたと思っていたんだが。
「なんでも得体の知れない魔物の目撃情報が出てきたらしい。それが見たことも無い姿なんだそうな」
見たことも無い魔物。いや、でもあの森ならなんでもありそうな気はするけどなあ。
「どんなの?」
「いや、キメラっぽいんだが頭はひとつだけだったんだと。その代わりに頭が猿っぽく、背中は虎の様な模様があり、尾は狐のもの、足は狸みたいな感じの生き物だとか」
細部は違うけど、そういうものを私は相手取った記憶がある。何よりついこの間ティアと共闘して倒したばかりだ。
「もしかして、鳴き声はキョーキョーとか鳴いたりします?」
「おっ、知ってんのか? そりゃあ都合がいい。向こうの大陸には別のやつを寄越すからお前はエッジに帰ってやってくれや」
どうやらビンゴらしい。いや、細部は違うけど私が元の世界で倒したやっだよ。トドメをさしたのはティアの水門最源流魔法とかいう凄いのだったけど。
ともかく何をおいてもエッジの街は私のふるさとみたいな場所だ。海のものとも山のものとも分からなかった私をグスタフさんが連れ帰ってくれてエレノアさんやベルちゃんさんが受け入れてくれた。
私は国王陛下の前を辞するとそのまま転移でエッジの街に向かった。門は今にも閉じられようとしていた。
「もう閉門だよ……ってキューちゃん?」
「あ、どうもお久しぶりです」
この人には私は裸を全部見られている。この世界の常識に触れる前に着ていた服を風呂敷代わりにして取ってきた薬草を持ち帰った時のことだ。まあ今でも裸くらいでどうこう騒ぐ気もない。まあ恥ずかしいことだというのはベルちゃんさんやエレノアさんに説教食らったから理解している。
「用事は冒険者ギルド?」
「あ、はい。入っても?」
「ダメって言っても君はすんなり入るだろ。止めないから行くといいよ。ただし冒険者ギルドもそろそろ閉めるんじゃないかな?」
もうバレテーラ。いや、助かるんだけど。しょっちゅう転移で出入りしてたからなあ。門番は入市出市する人の顔を覚えているのが基本技能らしい。私はいつの間にやら街の中にいたりかと思えば外から帰ってきたりしてたから混乱したらしい。その節はご迷惑をおかけしました。