再生(episode212)
胡蝶「私出てきたのに出番これだけ?」
帰りの船の中。リュドミラさんとタナウスさんを同じ部屋にする訳にもいかないので、私と同室になりました。いやまあ帰りの船にはあのバカどもは居なかったから平和そのものでしたよ。
問題は八洲に行くための飛行機に乗る時。なんと、リュドミラさんはパスポートを持ってなかった! いやまあそりゃあそうだろう。あんな島にいたんだもん。国に所属してるっていう概念すらなかったんだと思う。
飛行機に乗る際にそれが発覚した時はリュドミラさんが暴れに暴れた。結局一先ず私だけが先に八洲に戻り薬を作る事になりました。まあタナウスさんとしてもロンド氏の薬を早く作って欲しいと思っていたからね。
タナウスさんはどうしてるかと言うと、米連邦に留まって現地の移民局とやらて八洲への移住手続きを取ってるらしい。良いのか?って思ったけど、外交官の妖世川からしたら、自国の保護下に置いてからパスポートなりを発行する方が簡単なんだと。
私は一足お先に八洲行きの飛行機へ。なお、イオタも一緒だ。これはタナウスさんがイオタの護衛はもう要らないと言ったからなんだけど。まあ大使館の中に居るから居るから危険もないって話らしいし。
「ティアちゃんはおれっちが護るっすよ!」
「あー、ハイハイ。お願いしますねー」
やる気のイオタを適当にあしらう。八洲の空港に着くと予め連絡入れてたからかガンマが待ってた。
「おかえり、イオタ」
「ガンマ姐さん!? め、珍しいですね。仕事っすか?」
「ううん、プライベートよ。ティアは友だちだもの。それに……」
底冷えのするような笑みを浮かべてガンマがイオタに話し掛ける。ついでに微笑みかける。こういう時、どういう顔をすればいいか分からないの。笑えばいいと思うよって奴だ。
「姐さん?」
「あんたが女の子にうつつを抜かしてまともにボディガードしてなかったって聞いたんだよね?」
「あっ!? えーーーと、それはそのー」
「言葉はいらないわ。身体に聞くから」
「ひぃー、おたすけぇ!」
なんだかんだでガンマに引き摺られて行った。お前背ェ低い癖に普通にひきずられて行く。そして私が向かったのは右記島の病院。
「お待ちしておりました」
「胡蝶さん?」
空港を出る時にタクシーを捕まえようとしたらそのまま捕獲されて連れてこられたのだ。
「無事のお帰り何よりです。それで例のものは手に入りました?」
「はい、今から家に帰って他の材料も用意します」
「お待ちになって。準備ならばできております」
胡蝶さんにそんな感じで有無を言わさずに連れてこられたのが病院の研究棟である。
「魔力水以外のものは手に入りました。魔力水に関してはティアさんが出せるということでしたのでそれでいいかと」
あれ? そんなこと話したっけ? いやまあ今は再生薬を作るのが先決だ。なんでもこの研究室は私の為に用意された場所なんだとか。いや、四季咲にもそういう場所あったよ?
「じゃあ作って来るから」
「お待ちください。その、私も出来たら見学というか見届けたいのですが」
「うーん、まあ胡蝶さんならいいか」
そして部屋に通して椅子に座ってもらう。応接用のふかふかの椅子だ。私は材料をテーブルの上に準備する。あ、液体だから容器が要るよね。
大きめの水槽が備え付けてあったのでそこに入れることにした。なんでそんな水槽があるのかは聞いてない。熱帯魚でも飼うつもりだったのかな? それとも寿司屋みたいに寿司ネタを泳がせとく為?
……海水ないとか水がないと生きられない生き物が必要になった時の保管庫みたいなものなんだって。つまり、生体材料を確保するためのものってことか。
とりあえず水をドバドバと手のひらから出す。私の身体から溢れる水は全て魔力水だよ。胡蝶さん? あ、汲みたい? それはまた今度ね。
次にアンブロジアを煮込む。魔力水に浸して弱火でコトコトと。アンブロジアの薬効成分を取り出すにはこうするしかないんだって。なお、刻んだらダメみたい。錬金術さんが言ってた。
アンブロジアの煮汁に龍の血を少量入れる。これは数滴でいいそうだ。というか(真)になっちゃってるから入れすぎに注意ってことらしい。
そこから何種類かの漢方成分らしきものを粉末にしてコトコトとまた煮込む。水の色が紫色に染まっていく。とても怪しい色だが失敗ではないらしい。
そうして出来たのがこの品です。【再生促進薬:治癒魔法の水門〈再生〉の効果を魔力のない人間にも適用するための薬。再生箇所を浸した状態で使うと魔力がよく通る】
そう来たか。つまり、私が魔法使わなきゃいけないんじゃないですか、やだー。私今頑張って薬作ったのにまだ働けって言うのか! いや、流石にやらないと大河殿やタナウスさんに合わせる顔が無くなっちゃうんだけど。
とりあえずこんなのみんなの前でする訳にはいかないから、胡蝶さんだけ伴って夜の病棟に足を踏み入れた。夜の病棟ってこう、何かオバケとか出そうだよね。まあレイス系ならなんとかなるからいいけど。
生命維持装置に入れられているロンドさんを静かに中身ごと横にある処置用カプセルに移す。カプセルの中に再生薬を投入してロンド氏を浸す。服が濡れるので裸にひん剥いた。まあ医療行為をするんだから裸がどうとか言ってられないんだけど。
「体内に宿りし、名も無き生命の精霊よ。失われし機能を蘇らせんために肉体の記憶を復元せよ。我は今ここに願う。不遇により、失ってしまった部位を再び取り戻さん。水よ、満ちて、全てを癒せ。水門〈再生〉」
私の力ある言葉に紫色の液体が泡立つように暴れる。だが、零れる様子はない。恐らく体内に作用して新しい腕や足を作ろうとしているんだろう。
私たちはそのまま部屋から出ることにした。胡蝶さんは渋ってたけど、多分グロ画像になるだろうからオススメは出来ないんだよね。というか私も見たくない。
音が止んだ。私達は再びドアを開けると五体満足な状態で横たわっているロンド氏がいた。一部下半身のある部分なんか大変元気に屹立していらっしゃる。