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第二百十一話 剣士

???「ボクと契約して貴族になってよ!」

 まず響いたのは互いの剣がぶつかる音。テオドールは動かず、ジュラルが一瞬のうちに間合いを詰めて斬りかかった。テオドールはその剣を平然と受ける。


「ふん、なるほど。あのリシューとかいうのよりはマシだな」

「我が剣が未熟なのは百も承知!」


 受け止められることがわかっていたのかジュラルは素早く身を引いてテオドールの反撃を誘ったのだろう。だが、テオドールは斬り付けさえしない。


「何の真似だ?」

「今貴様が言っただろう。自分の剣は未熟だと。未熟な剣に付き合ってやる時間などない!」


 テオドールは言葉尻をとらえてジュラルを挑発する。自分で未熟と言っていても他人から指摘されれば腹が立つに違いない。というか私なら腹が立つ。特に自分が自信あることに関しては。


「なるほど。では。私に教練を付けてくださるということですかな?」

「ふん、この国にはまともな戦士は居なさそうだからな。仕方あるまい」

「くっ、言い返せん」


 テオドールの挑発のはずなんだけど、ジュラルはいちいち謙遜してなのか自覚してなのか自分が格下という態度を崩さない。


 テオドールは軽口を叩きながらもなんか焦ってる感じ。そういえば私の元の世界の書物によれば、彼を知り己を知れば百戦殆うからず。というのがある。彼我の戦力、そして趣味嗜好、更に言えば弱点などそういうものを知っていれば百戦したところで危なくはならない、ということだ。


 これには続きがあり、彼を知らずして己を知れば一勝一負す。というものと、彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず殆うし。


 つまり、敵の事を知らなくとも己を知っていれば勝ったり負けたりする。敵のことも自分の分限も知らないで戦うのはバカのやることだ、という意味だ。


 ジュラルは己を知っているのだろう。相手の強さに届かないとわかっていながらそれでも尚状況を打開するための何かを模索しているのだろう。


「テオドール殿、御免!」


 ジュラルは手を翳してその手から光を放つ。物凄い大光量の目潰しだ。私なら見逃しちゃうね。あ、いや、クッソ眩しかったからね。これはテオドールも危ないのでは?


 本来なら剣技で正々堂々と戦うべきなんだろうけど、この場で大事なのはテオドールを倒すこと。ジュラルは自分の矜持を捨てて勝ちに動いたのだ。


「くっ!?」


 テオドールはまともに食らったのか、目が潰れている様だ。ジュラルはその隙を逃さない。


「テオドール殿、覚悟!」


 叫びながらジュラルはテオドールに斬りかかる。だが、テオドールはその剣を受け止めて弾き、空っぽの胴に剣の腹を叩き付ける。


「ぐはっ!」


 テオドールは衝撃で吹っ飛ばされて転がった。


「ジュラル、狙いは良かった。が、詰めが甘かったな。目潰し程度でオレかどうにかなるとでも思ったか?」


 テオドールのセリフを考えたら目潰しされたくらいじゃあジュラルと自分との差は埋まってない、ということなのだろう。一勝一負す。その「一負」が今回なのだろう。


「な、ぜ、」

「ふん、声を発すればタイミングも位置もわかるというもの。単純にアドバンテージを貴様が捨てたに過ぎん。目が見えずとも迎撃くらいは出来る」


 平然と言ってるが多分テオドールぐらいしか出来ないんじゃないかな? つくづく剣士としては物凄い奴だよ。


「馬鹿な! あのジュラルが負けるだと!?」

「大馬鹿な貴様よりかは随分とマシだったが人生経験の差というやつだろう」


 テオドールだって大した経験してないじゃん、とか思ったけど、それについてはそっとしておいた。何しろお母さんの影響で随分暗君生活してたもんね。


 ジュラルの手からは剣が離れている。既に勝敗は決したのだ。


「おい、キュー。オレの目を治せ。出来るんだろう?」

「あー。うん、まあ出来るよ。というか本当に見えてないの?」

「ああ、真っ暗だ。アロンダイトは永続的な物は消せても一瞬で作用するものを打ち消すには不向きだからな」


 まあ魔法使いが今の大光量目潰しをどうやって防いでるのかは分からないが、とりあえずテオドールの目を治してやる。


「さて、リシュー。お前の息子がお前を助けようとしていたのに、お前は倒された息子に駆け寄るでもなく一人で逃げようとしたな?」


 そう、こいつはジュラルがこの部屋に入って来たから障壁バリアが解除されてるとでも思ったのかもしれない。ジュラルが勝つか負けるか確かめてから逃げを打った。まあ当然逃げられないんだけど。


「小便をする時間ぐらいは与えても良かったが必要なさそうだな?」


 リシューの座ってる床には水分で濡れたあとがある。おっさんのおもらしは性癖でもなんでもないから単に汚い。


「待ってくれんか?」

「なんだ? トドメを刺すのをやめろとでも言いたいのか?」


 待ったを掛けたのは国王陛下だ。リシューの助命嘆願だろうか?


「都合のいい事を言ってるのはわかっている。だが、その剣を振り下ろすのをやめて欲しい」

「この様な奴は生きている価値もないと思うがな」


 テオドールは吐き捨てる様に言った。ワイトもそう思います。


「国として、その者は国家転覆を企んだゆえに我らの手で処断しなければならないのです。そちらの王国が我が国を全て併合するというのでないならば是非にも」

「ちっ。仕方ねえな。それなら任せるとしよう」


 テオドールはアロンダイトを鞘に収めた。この国を占領して飛地領地を確保するにしても、いきなり他国と国境を接するのは良くないんだって。将来的にはそうなるかもしれないけど、今はマリナーズフォートで十分らしい。


「併合も視野に入れてはいるがそれは周辺の状況を把握してからだ」

「なるほど。まあ私は難しい事分からないんだけど」

「なんならお前に新しい属国のトップになってもらっても構わんのだがな。国王陛下もお前を貴族にしたがっていたし」


 なんてこと言うんだ! 私は貴族なんて真っ平御免だよ。というかそういうのはミリアムさんにでも投げといてください。衛兵たちがジュラルも含めて一派を全員捕縛し、この動乱は集結した。

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