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採血(episode211)

真の龍の血を教えてやろう!(事故)

 祭りが始まった。帰還を祝う歓喜の祭りであり、食料が手に入ったことによる豊穣の祭りであり、死者を悼む鎮魂の祀りである。


 リュドミラを初めとして集落の女どもが料理を出して行く。私? あー、まあ、肉の丸焼きくらいなら手伝えるよ? あ、うん、大丈夫ですか、そうですか。


 どこからか運ばれて来た酒を飲んでいる男たち。何故か脱ぎ出して炎の前で筋肉自慢のマッスルポーズを決めている。いや、掛け声はないよ。せいぜいがヒューヒューとか、すっげぇとかだよ。


「楽しんでおられますかな、使徒様」

「使徒様はやめて」


 話しかけてきたのはザシュニナさんだ。まあまがりなりにもこの集落の長だからね。リュドミラさんには権限は無いんだよね。


「こちらには「龍の血」を得るために来られたとか」


 あー、そういえばそうだった。というかロンドさんが待ってるのは間違いないんだよね。一応右記島の医療班が延命に尽力はしてるけど持つかどうかは分からないんだし。


「こちらをお持ちください」


 持ってきたのは赤い板。なんだろうと思って鑑定かましてみたらこれが「龍の血(仮)」だったよ。えっ、木の実じゃないの!? ってそういや賢介さんも樹液って言ってたな。って(仮)ってなんだよ。ガールフレンドか?


「我が村に伝わる龍の血です。あの龍血樹から採取したものを乾燥させて固めました」


 乾燥させるんだ。まあ樹脂を保存するならそうするしかないんだよね。でも私はそれを受け取らなかった。もしかしたら私が直接取らないといけないのかなって思ったので。


「ええと、あの龍血樹に近付いてもいい?」

「本来は村長しか近付いてはなりませんが、使徒様ならば」


 どうやら女神様の加護が宿ってるみたいな認識らしい。首狩りの風習は消えてもそういうのは無くならないんだなあ。なお、元々は狩った首をこの木に捧げていたとの事。うひゃあ。


 龍血樹は焦がす炎に照らされて踊りあかす瞳の奥にその姿を映していた。心做しか光ってる様に感じる。私は樹に近付いて手を触れる。なんか魔力が吸われる感じがした。


「(あれ? もしかして)」

「どうしたのですか、使徒様?」

「ううん。ええと、この樹を傷付けて樹液を採取していい?」

「もちろんですとも! 使徒様の為さりたい様に!」


 言質を貰ったのでとりあえずまずは魔力を込める。これは手のひらから適当に魔力を放射してるだけだ。放射した端から樹に吸われていく。光が強まった感じがした。


「これは骨が折れそう。あ、なんかお腹空いてきた。イオタさん、そこの骨付き肉取って」

「へいへーい。何やってんの? おっぱい揉む?」

「揉んだらコロス。その肉私の口に咥えさせて」

「別のものでもいい?」

「咬合力には自信あるのよね」

「沢山食べてください。また持ってきます!」


 やれやれ。イオタは下ネタが好きなようだ。これも帰ったらガンマに報告案件だね。訴訟も辞さなめ。


 イオタに三つ目の骨付き肉を取ってもらってむしゃむしゃと食べながら魔力を注いでいると、龍血樹が黄金色に輝き出した。


「おおっ!」

「女神様のご意向か!?」


 女神様なら多分今頃査問会か良くて調和神様の説教中だよ。まあ魔力とか親和しやすい樹なのかもね、元々。


「金門〈斧鉞ふえつ〉」


 字義的には斧とまさかりなんだが、何のことはない。伐採用の魔法だ。私はそれを最小限の魔力で発動させた。樹にちょびっとばかり傷がついてそこから赤い樹液が流れ出る。あ、容器ないわ。アイテムボックスでいける? いけた。


 アイテムボックス内で鑑定する。名前は「龍の血(真)」魔力の満ちた樹液なんだと。いや、もしかして私が回収しなきゃ本物は手に入らなかった?


【龍の血(真):本来なら満月の晩に採取することによって「龍の血」となるのだが、魔力で無理やり性質を励起されて本来以上の効能を手に入れた樹液】


 ……ちょっとやりすぎたみたい。まあいいやこれを持って帰らねば。ここで再生薬作りたいけどアンブロジアは家に置いてんだよなあ。


「どうでした?」

「はい、大丈夫そうです。これで手に入りました」

「そうですか。では急いで帰らねばなりませんね」

「えっ!?」


 タナウスさんが帰らなきゃ行けないって言うと顔面蒼白になったリュドミラさんがガタンと席を立ってこちらを見ていた。あー、まあそうなるか。


「あの、タナウス様、も、帰られる、のですか?」

「え? ああ、そうですな。ロンドの奴の薬を作ってもらわねばなりませんので」


 タナウスさんはあっけらかんと言う。いやまあ帰ったらすぐに作ります。作りますけどそれでいいんですか?


「どうだろう、タナウス殿。この龍の血を初めとしてこの島には様々な薬草がある今後交易などを検討したいのだが」

「珍しいですね。ザシュニナ殿にそう仰っていただけるとは。それはまあ私ども妖世川としても助かるんですが」

「こちらとしては一度そちらにお伺いして詳しい話を聞きたいのだが」

「ふむ、妖世川から人を派遣しても良いのですが、流石に排他的に過ぎますからね、あなたたちは」


 何やら交渉が始まっている。内容的には定期的に貿易したい、とかそういうの? いやまあ私としても月光で照らされた時に取れる龍の血はどんな効能になるのかは比較検討したいものだ。


「まあですから交渉役としてうちのリュドミラをあなたに預けたい」


 ザシュニナさんの言葉に全てを察した。このオヤジ、リュドミラさんの後押しをしてるんだ! 普通「娘は渡さんぞ!」とかなるもんじゃないの、父親って。


「父上!?」

「リュドミラ、世界を見ておいで」

「勝手に話を進めないで欲しいが……まあその提案は渡りに船だ。定期的に確保したいからな、龍の血は。ですよね、ティアさん」


 これ、私の返事でリュドミラさんの運命が決まるんだよね? いやまあ否やはないので素直に頷いとこう。というか実際欲しいんだよ。うちの主力ではないけど秘蔵の商品になりそうだし。


 私が首を縦に振るとリュドミラさんの顔がぱあっと明るくなった。いや、明るくなるのはいいから早く告白してくっつくなり振られるなりしてください。

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