第二百十話 騎士
真打こっちも登場。見せ場はあげないとね、
ワープアウトしたその場にはヒルダ様がいた。どうやらおやつタイムだったみたいで何やら甘そうなお菓子を頬張ってる。いや。待って欲しい。頬張ってるのはよく見たらヤッピだった。どうやらはしたなくお菓子を頬張るヒルダ様は私の見た幻だったみたいだ。
「キュー? あなたはテオのところにいたのではないのですか?」
「あ、ヒルダ様、テオドール……様の剣ってあります?」
「剣? ええ、まあ公爵家に伝わる剣がありますけど」
「それって魔剣?」
「当然でしょう。我が家は王国二大公爵家なのですから。テオの剣も当然ながら当主に引き継がれるものとして持ってきてますわ」
あー、やっぱり持ってたのか。というかわざわざ持ってきて良かったの?
「まあ、王国の宝物庫にも一本くらいはあるはずから構わないでしょう。必要なのでしょう? 持って行きなさい」
「そっか。ありがとう!」
私はヒルダ様から剣を受け取って再度、転移する。あれ? 私が行く前とあまり構図が変わってない。それほど膠着してたのかな?
「テオドール、これ!」
「むっ!? それを持ってきたのか。助かる。貸せ!」
テオドールが一発でこれが何かを見抜いたみたいだ。まあ子どもの頃から見てきたんだろうな。何せ公爵家が持ってる秘宝だもんね。
「とうとうオレにこの剣を使える時が来たのか」
しみじみと言ってる。ということは今まで使ったことない剣って事? それはやばいのでは?
「そんな鈍で破邪の剣閃たるラインブレードが何とかなるとでも思ったか!」
「ふう、今までは数打ちの剣だったから防戦一方だったが、これがあるなら話は別だ」
「戯言を! 吠えろ、ラインブレード!」
卍解!? いや、なんかコマンドワード入れたら剣がパワーアップするとかそういうのだろう。
「ふふふ。これを使っては一瞬でカタがついて面白くないと思って温存していたのだ」
「余裕を見せてくれるな。稚拙な貴様の剣技で出来るものか!」
「ふん、剣の格の差というものを教えてやる!」
おおおおお!と吠えながらリシューはテオドールに斬りかかる。テオドールが自らの剣でラインブレードを受け止めた。
「なっ!? 受け止めただと? かわすしか出来ないのではなかったのか?」
「そりゃあ数打ちのボロで受け止めりゃ一発でアウトだろうが、オレの手にこのアロンダイトがあるのだ。受け止めるなど造作もない」
おお、アロンダイト! そんな名前なのか。確か湖の騎士とかいう優雅な名前の人。湖の騎士って言うとクラールヴィント持ってるヴォルケンリッターのお姉さんが浮かぶよね。……いや、この騎士は主君である王の妃と不倫したクソ野郎なんだが。
剣自体は火竜の首を落とせるほどで、『約束された勝利の剣』とまともに打ち合えるのだとか。ん? 待てよ? アロンダイトがここにあるってことはそのエクスなんとかさんが王国の宝物庫にある可能性が。
「吠えろ、ラインブレード!」
「静かに咲け、アロンダイト」
おおっ、テオドールのアロンダイトにも卍解が!? いや、単なるコマンドワードなんだろうけど。
「なっ!? ラインブレードの強化が!?」
「ふん、アロンダイトの能力は鎮静化。強化魔法だけでなく詠唱魔法すら打ち消すぞ!」
おおー、つまり防御結界とか攻撃魔法とかそういうのを平然と斬り飛ばしながら迫ってくるって? テオドールに一番持たせちゃダメな剣じゃん! あ、いや、私には効かないんだろうけど。というかテオドールと戦うとか死んでもごめんだ。
強化が切れたからか、リシューの剣技は精彩を欠くものとなっていく。段々とテオドールの顔が不機嫌になっていく。
「ふん、つまらんな。やはりこんなものか。そろそろ終わりにするか」
「ひぃー!?」
あ、リシューの剣が弾かれた。そのまま入口に向かって剣が滑っていく。そしてテオドールが剣をかざして稲妻……じゃない、リシューに振り下ろそうとした時、何者かが割り込んで来た。
「ご無事ですか、リシュー様」
「おお、お前は、ジュラル!」
そう、そこに居たのは先程転がったラインブレードを手に持ったジュラル王子だった。
「父上、いえ国王陛下もご無事ですか?」
「ふむ、ジュラルよ。その、大変言い難いのだが」
「分かっております。私があなたの子ではない事、そして真の父はこのリシュー様であることも」
おや、どうやらジュラルは気付いて居たようだ。まあリシューと顔似てるもんね。そりゃあ気付くか。
「それゆえ王位継承争いからは身を退いておりましたが王国の危機と思い駆け付けた次第。賊はこの者ですか?」
あー、この人を「観た」時に王位継承争いに興味無いのかと思ったら最初から資格がないと分かってたからなのか。脳筋に見えて頭良かったりする?
「ジュラルよ、その方は……」
国王陛下が困った様に言う。まあそうだよね。テオドールは結果的に国王陛下を助けに来てくれて、国王陛下を弑しようとしたのはジュラルの本当の父であるリシューだもの。
「なるほど。分かりました。ですが口にする訳にはいきませんな。テオドール殿! この国の騎士として、貴殿に一騎討ちを申し込む!」
「分かっているのか? 戦争しているのだぞ? お前にオレと打ち合う資格があるとでも?」
「未熟は承知! だがこの国の騎士として王城に攻め込まれ素直に退くなど出来ん!」
テオドールが口元を歪めた。これは嬉しいんだろうな。テオドールこういうバカ好きそうだもん。というかテオドール自身がバカだし。
「キューよ、後で話がある」
「私にはありませんにょ?」
「ちっ。まあいい。今は機嫌がいいからな。ジュラルとか言ったか。付き合ってやろう。掛かってくるがいい!」
きゃー、付き合うですって! 男女交際かしら? いえ、この場合は男男交際? ヒルダ様振られちゃったねー。ってなんか寒気した! ごめんなさい! とか言ってたら二人が剣を持って対峙していたよ。あ、残りの人が逃げないように障壁張っとくか。