合流(episode207)
脳筋グスタフ「呼んだか?」
巨躯を喜びに震わせて鵺は叫ぶ。その声は歓喜だろうか。やっと、やっと、魔力を持つものが現れた、これで長らえられる、と。もしくは私を通して異世界に移動するのが目的なのかもしれない。
何が来るか。巨体からしてつめつめかむかむしっぽはやってきそうだ。まあまずは距離を詰めてくるだろう。私も詠唱を準備……
「キョー!」
どかん!と音がして何かが光った。咄嗟に防御膜を張る。ズドン、と音がして私の足元の地面から焦げ臭い臭いがした。もしかして、これ、落雷? 鵺を凝視してたけど、攻撃のおこりなんてわかんなかった。天候干渉とかしてくんの? それもう神レベルじゃね?
とか思ってたら鵺が突っ込んで来た。飽くまで落雷は牽制。それで倒しては私が黒焦げになって魔力が吸収出来ないと思ったのだろうか。
高速で突っ込んで来ながら牙を剥く。見た感じヨダレが多く分泌されてるような気がする。いや、私の見た幻覚かもしれない。ガチン、と間一髪でかわした横で歯と歯がぶつかり合う音がした。食らったら一溜りもない。
「これは本格的にヤバい。様子見とか言ってる場合じゃねえ!」
私はすぐさま詠唱に入る。相手は何もしないでこちらの出方を待ってるみたいだ。
「天にまします雷霆よ。御身によって敵を穿つ神の槍を今ここに。雷帝の雷霆を来定させん! 木門〈雷霆槍〉!」
クラーケンすら一撃で屠った雷撃の閃光の槍が鵺に突き刺さった。よし、パーペキ(死語)、完璧の母! いや、岸壁の母って表現があってシベリア抑留がね、ってどうでもいいわ!
世界大戦的には結果的に八洲が勝ったんだけど露帝国の捕虜になった人たちはシベリアってところで酷い目に合ってたらしい。まあ私が会ったのは良いロシア人だったからなあ。昔は酷かったんだね。
そんな事を考えてたのはなんでか。それはね、鵺がなかなか倒れなかったからだよ。まだかなーって思いながら見てたんだけど……あれ? もしかして効いてない?
鵺は私が放った雷撃の槍を微動だにせず受け止めてっていうか直撃して、そのまま何事も無かったかのように振る舞った。いや、違う。身体に雷を纏っている。
「あれ、雷纏!?」
私の驚嘆に答えるかのように鵺が鳴く。周りに雷撃をばら撒き始めた。わー、なんだよ、こんなの聞いてないぞ!? 色んなゲームでは雷が弱点だって……あ、そう言えばタケルが言ってたな。
「雷を使ってくる場合は雷が弱点じゃなくて得意属性になる事もあるから使う時は注意してね」
って。いや、そんな事忘れてたよ、この世界でそんな事注意しなきゃいけない状況になるとは思わなかったんだもん。元の世界みたいに魔獣が闊歩する様な世界じゃないし。
いやまあ近代兵器とか社会的圧力とかそういうものはあるけど、運用するのは人間だからなんとでもなると思ってたんだよ。
「雷って事は木門、つまりこいつは木門属性。ということは金克木、つまり、有効なのは物理攻撃!ってあの巨体に接近攻撃挑めって!?」
流石に同じくらいの体格であれば勝負にはなるんだけども……まてよ? 同じくらいの体格? それならば材料さえあれば何とか。
私は木を切り倒して材料を作る。自然破壊だと言われても仕方ないでも、後衛職たる魔法使いはこうやって戦うしか……えっ、剣も使えるだろうって? いやいやいや! あんなのに突っ込んでいきたくないよ! どこの脳筋だよ!
私は組み上がった木に命を吹き込む。三体のウッドゴーレムが立ち上がり、鵺を抑えに行く。よし行けぼくらの夢守るヒーローさ。正義の魂をどこまでも貫こう。ビルの街にガオー、夜のハイウェイにガオー。空だ海だ地の果てだ。いや、鉄製じゃないけど。
そしてそんなウッドゴーレムたちは……鵺に触れるなり焼け焦げて燃えてしまった。あー、やっぱり木製じゃダメか! って延焼しそう。水門でブシャー。
しかし困ったぞ。多分方向性的には間違ってない。となれば後は材料の鉄がどこにあるか……ん? やつの様子がおかしいぞ? もしかして進化しようとしてる? Bボタン、Bボタンはどこ!?
鵺は震えると何と二つに分離した。うわぁ、そんな事も出来たの? っていうか魔力は大丈夫……あっ、もしかして私がいるから魔力使えてるってオチ? うーわー、その発想はなかったわ!
「キョー!」
鵺は一声鳴くと背中に何が黒いものを呼び出した。なんだろう、あれは。もしかして何かヤバいものでも呼び出そうとしてる?
その黒い穴からは得体の知れないものが出てくるに違いない。私は思わず身構えた。
「うわぁ、なんなの、もう。ここどこだよ!」
あれ? どこかで見たような顔と声の持ち主。有り体に言えば女神様のところで見掛けたというかお茶した相手。
「キュー!?」
「えっ? そのバカでかいおっぱいはティア!?」
人をおっぱいで判断するな! この世界には私よりも大きい人間なんて沢山。
「どうしてここに?」
「どうしてもこうしても。テオドールがララネ連れて来いって言うから連れてってお役御免とばかりに帰ろうとしたらこのザマだよ。ってティアが居るって事はもしかして」
「内容はよくわかんないけど、そうだよ、キューが元いた世界」
「うーわー、帰ってきたくなかったのに。また向こうの世界に行けるかな?」
目の前の鵺にはさほど驚いてないらしい。そう言えばキューは四凶の檮杌を倒したんだっけ? そりゃあ鵺すらも小物に見えるでしょ。
「キュー、あいつ倒すから手伝って!」
「うーん、別にいいけどそれなら何したらいい?」
「鉱石とか持ってない?持ってないよねー。あはは」
「えっ? こないだ鉱山に居たから大量にあるけど?」
なんですと!? 出して今すぐ出して! なんとキューが私に出してくれたのは大量の鉄鉱石と他にもいろんな鉱石。これだけあればジオンはあと十年戦える。いや、ジオン関係ねえわ。
よし、反撃開始だよ! 誰に喧嘩売ったか教えてあげ……あ、ダメですか。