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夜鳥(episode206)

悲しいけど、これ、適者生存(1緑のエンチャントではない)なのよね。

 牙族のコルホだかなんだかそんな奴を氷から解き放った。解凍はそこまで難しくない。私が魔力の結合を解除すればいいだけの話だ。余った水は……いいや。回収しとこう。魔力として回収する。


 解凍したコルホは自分の手を見て、身体を確認して、辺りをキョロキョロと見回して、私に平伏した。お前もか!


「女神の使徒様に逆らうなどという大それたことを。大変申し訳ありませんでした!」


 必死に頭下げられても困る。別に大したことは……いや、やったな。しかも言い訳のしようもないくらい派手にやったな。派手にやるなとは言われてなかったからなあ! いや、言われてなくともダメだって気付こうよ、私。


「女神様など居るはずない、と。いるなら我らの窮状を放置しておくわけが無いと思っておりました。私が間違っておりました」

「あー、いや、まあ、女神様は人の世のことは人自身で片付けるものだ、女神が介入するような事は出来ぬと申しておりました。だからきっと窮状は知っていたとしても手を出すことはしなかったんだと思います」

「おお、やはり。我らに与えられた試練だったのですね」

『きゃー、ティアちゃん、わかってるぅ。そうよそうなのよ。試練! 試練なのよ! けっしてコタツでみかん食べてたらアイスが欲しくなって貪ってた訳じゃないのよ』


 もうお前(女神)は黙ってろ。というか時期はわかってんのね。もしかして原因もわかってたりする?


『あー、うん、その、ね。…………怒んない?』

()()怒りませんよ。安心してください」

『そのー、昔ね。そこに飼えなくなったペットを落としたのよね。あの、調和神様センパイにそんなものを持ち込むなって言われて適当なところがなくってね』

「それを今思い出した、と? そのペットとはどんなものなんですか?」

『ええと、まあサルの顔、タヌキの胴体、トラの手足、尻尾はヘビで鳴き声はトラツグミみたいなヒョーって感じの』


 どう考えてもぬえじゃないですか、やだー。というか平安の頃に源頼政って武士が倒したって聞いてるけど。いや、弓で射たんだっけ。トドメは別の人だったかも。という話を聞きました。


 ちなみに私たちの世界でも「鵺」に似たキメラって怪物がいるんだけど、こっちは種類によって混ざってる動物が違ってたりするからね。鵺みたいに格好が決まってるのは珍しいよ。


 というか頭一個しかない時点で珍しいよね。普通は二つか三つの首でそれぞれ詠唱を……あ、魔法がないのか。なるほど。


 で。なんで女神様はそれをほっといたんですか?


『あのね、後で回収しようと思ったんだけど、思った以上に大きくなってて。それで連れ出すとまた先輩にバレるからこの島なら私の神殿があって外には出れないからいいかなって』


 島に住んでる人の事は何一つ考慮してない人でなしの意見である。いや、女神様としては首狩り族が生きてる、そして他にも生きてる人間がいる、ということ自体が驚きだったのかもしれない。


「わかりました。この島から出れないんですね。何とかします」

『お願いね! あ、セリオース。待って待って、書類ならやるから! 今、ちょっと現場が立て込んでて』

「使徒様、女神様とお話を? 女神様はなんと?」

「……ええ、はい、その、この島に巣食う魔獣の仕業の様で。この島から魔獣が出れないようにしたと」

「おお、やはり女神様は我らをお見捨てにはならなかったのですね! それで使徒様が対策を?」

「あ、はい。私が、やります。やらせていただきます」


 心の中で絶対に次にあったら一発殴るって思いながら島の中に行くことにした。ちなみにこの遺跡は女神様の祝福が掛かってるので鵺は来ないらしい。やれやれ。私が探すか。


「ええと、私は探して討伐しますので皆さんはこちらでお待ちを」

「わ、我々も戦います!」

「いえ、その、危険ですし、足手まといですので」


 正直な話、魔法のことを説明する時間もないし、魔法使いと連携が取れない人物が来ても戦力にならないどころか邪魔になるだけだからね。普通はどこぞの魔法騎士団とかが出張る討伐じゃないかと思うんだけど、まあ今の私なら一人でも出来るかもだもんね。知らんけど。


 とりあえずみんなと別れて魔力反応を辿ってみる。島の中央部付近に高魔力反応。これが鵺? いや違うかもしれないけど私はこの世界に来てから私以外の魔力持ちなんて知らんからね。


 その場所まで行くとキョーキョーという声が聞こえた。聞いているだけで体調不良を起こしそうな嫌な声だ。


「うるさい。風壁遮断」


 木門の魔法ですらないが風の流れを操り、直接聞こえなくする。ぽっかりと空いた空き地にそいつは寝そべっていた。こちらを睥睨へいげいしている。


「威圧眼! でもあまり強力じゃあない? もしかして……」


 キメラの魔眼は麻痺などの効果を持つ。余程の魔力持ちでもない限りは抵抗するのも難しい。だが、この魔眼はちっとも効かない。いや、威圧されてるって感覚はあるんだけど。これは私が覇王色の覇気に目覚めたから? いや、そんな伏線なかったやん! ということは結論は一つだ。


「もしかしてあんた、魔力枯渇しかけてる?」


 この世界には魔力がない。私には体内に魔臓があるから魔力は生み出せる、正確に言えば魔素を魔力に変換して使う事が出来るんだけど、そもそも魔素があるのが不思議。いや、私たちが魔素と呼んでるだけでこの世界での呼び方は違うのかもしれないけど。


「キョ? キョーキョーキョー!」


 その鵺が私を見るなり歓喜に打ち震えた。恐らく私の中にある魔力を感じとったのだろう。もしかしてこの島の人間を襲ったのも魔力を取り込むためだったのかもしれない。こいつも必死だったのだろう。だいたい全部、女神様ポンコツが悪い。


「ごめんね。食べられてあげられないんだよね。だから、すぐ楽にしてあげる」


 私は鵺を殺す。強い言葉だけど仕方ない。私を食べさせたとしてもその後が続かないのだ。ならば今ここで殺してあげるしかないのだ。

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