第二百五話 情実
ちょっと赤裸々な夜のお話。グレイ君は間違いなく王様の子です。
テオドールはこちらに居る国王に向かって言った。リシューたちは無視だ。
「国王よ、この様な形での再会はオレの望むところではなかったのだがな」
「面目次第もない。奥方様に対する非礼の数々、我が首を持って治めていただきたい」
「ふん、そもそもそなたの白髪首なんぞ要らんぞ。貰っても困るからな。それよりもキュー! 状況を説明せよ!」
あら、お鉢がこっちに回ってきた。仕方ないなあのび太くん……じゃないテオドールは。
「どうもこうも。そこのリシューとかいう男がヒルダ様を面罵した側妃の情夫だよ。王様とは没交渉だったんじゃないかな?」
王様に視線を向ける。王様は頷いて口を開いた。
「確かに。二度三度程情を交わそうとしたが、元々は貴族派の奴らに押し付けられた妃。正直な話をいえば一度も使い物にならんかったわ」
国王というか王族って子孫を残すって事にかけては一番熱心だと思うんだけど、側妃には食指が動かなかったみたい。
あれ? てことはグレイ君も王様の胤じゃないってこと? それはそれでどうかと思うけど。
「なんだと!? あの女、オレの他にも男を囲っていたのか!」
とはリシューの弁だ。でもグレイ君と王様ってどことなく似てる部分はあるんだよね。まあグレイ君が痩せてたらだけと。
「その辺のことはオレには関係ない。さて、素直に落とし前をつけてもらおうか」
きゃー、テオドールさーん、まるでヤクザだね。この世界にはそんな職業ないんだけど。あ、でも犯罪組織はあるんだよね。盗賊団とか。
「じゃあどうすんのさ。側妃連れて来る?」
「出来るなら頼む」
「はいはーい。というかそれでいいなら攻め込まずに最初から私が連れて行けば良かったんじゃ?」
「阿呆。国の全権代理の妻が公衆の面前で面罵されたんだぞ? 秘密裡に行っても何にもならんだろうが。示威行為という言葉を知らんのか?」
いやまあテオドールの場合は示威行為だけで人が殺せそうだけど。ちなみに私みたいな暗殺者に示威行為なんかある訳ないじゃん。そんなことやってる暇あったらさっさと殺すよ。
「わかったー。じゃあテオドール、この場は任せた」
「なるべく早く帰ってこい。そこのリシューとかいう奴らが逃げない内にな」
「あー大丈夫大丈夫。爆裂魔法でも傷つかない、百人載っても大丈夫な障壁だから」
「何処に百人載せるつもりだ?」
はい、とりあえず答えないで側妃迎えに行きましょう。転移
転移。
側妃の部屋に行くとそこには居なかった。あ、そういえばさっき衛兵たちに連れて行かれたんだっけ。ということは地下牢かなあ? 改めて転移。
地下牢に着くと牢の中で膝を抱えて、部屋の片隅、不安に震えているララネがいた。
「ララネさん」
「ひっ、お前はっ、何の用なのだ! もう私を放っておいてくれ!」
「いやいや。そういう訳にはいかないから。テオドール……様がお呼びなんだよね」
「侵略者が何の用だと!」
「決まってるじゃない。あなたの犯した罪の再確認だよ。あ、命乞いの練習、しとく?」
「ひぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
甲高い悲鳴が聞こえた。いやまあテオドールは侵略者だもんね。今現在。というかそんな未来を引き寄せたのはお前らだろうがよ。ヒルダ様を、そしてヤッピを丁重に扱っていたらこんな場面は来なかったんだから。私? 私は別にいいよ。実際冒険者なんだし。
「はーい、それじゃあ連行しますね」
「ちょっと何を……そ、そういえばこの檻の中にどうやって入って来たというのだ!?」
あー、はい。鉄格子の中に転移アウトしただけなんですが。まあ細々と説明するつもりもなくてそのまま転移。
出たところはさっきと同じみんながいるところ。私が居て、みんながいる。そんな幸せ。いや、違うがな。
「おお、リシュー様!」
側妃が歓喜の表情でリシューに駆け寄る。面白そうだから障壁は解除しといてあげよう。
「助けに来てくださったのですね」
「ララネ。聞きたいことがある」
「な、なんでしょうか?」
「グレイは誰の胤だ?」
「何を仰います。王様の胤でございます。あなたに抱かれるまで王様以外とはそういうことはしておりません」
「し、しかし、国王はお前と没交渉だったと」
「一度だけ、宴会の席でお酒に酔わせて人事不省にしてから及んだことがあります。間違いなく王様の胤です」
ララネの告白に国王の顔が真っ青に。どうやら思い当たる節はあったみたいだ。
「ララネ。お前という奴は」
「元はと言えば王様がふにゃちんなのが悪いのではありませんか! 私では勃たないなどと言われてどれだけ女としての矜恃が傷付けられたことか」
あー、うん、よく分からないけど王様が悪そう? 経緯はどうあれ嫁いで来たんだから相手はしてあげないと。
「ララネよ。お前のつけている香水の臭いがダメだったのだ。あと、グイグイくる交渉の仕方も。王妃はワシに全てを委ねて色々させてくれた」
「あの、陛下、そんな事をここで言われても」
「すまんな、どうやら無理やり搾り取られていたらしい」
「まあ、王家の血筋であった事は喜ばしいことですから」
なんか色々複雑な事情だし、下半身事情も聞いていいものか。テオドールとヒルダ様はどうなのかわかんないけど、ヒルダ様がされるがままにされてるのかな? いや、案外テオドールがバブバブ甘えてるとか?
「キューよ。帰ったら話がある」
「私には無いです。ヒルダ様とイチャイチャしててください」
「ちっ。それで国王よ。茶番はもういいか? オレは怒りの振り下ろし先を何処に定めていいか迷っているところだ」
まあ国王の責任って事で国王陛下に、黒幕って事でリシューに、直接の加害者であるララネに。どれを選んでもいいと思うよ。私は知らね。
とか思ってたらテオドールが部下の剣をカランとリシューの方に投げて寄こした。
「拾え。お前とオレで一騎打ちといこうではないか。負けても恨みには思わん」
「なんだと!?」