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檻罠(episode204)

牙一族はどっちかと言うと象形拳の方ですね。獣使いはまた違うか。

「ううっ、リュドミラ……なのか? 何故来た」

「何故って父上が帰って来ないから」

「くっ、私のことは放っておいて逃げるんだ!」

「何言ってんだよ、父上。一緒に帰ろう?」


 そこに上から檻の様なものが降ってきた。そしてリュドミラさんと父上……名前なんだっけ?まあいいや。大した情報でもないし。


「ザシュニナとその娘を捕らえた。お前たち、族長と次期族長の生命が惜しければ抵抗はやめるのだ!」


 そんな声が奥の方から聞こえて来た。犬の顔というか毛皮のようなものを被ってる男だ。もしかして、華山群狼拳!? となればそのトップである奴の特技は頭突き! いや、違うか。頭硬そうじゃないもんな。


「この牙族のコルホ、ついに長年の悲願を果たしたぞ!」


 どうやら奴はコルホって名前らしい。しかし長年の悲願とは?


「……やつは我々と対立する牙族という部族のトップです。我らの縄張りに散々攻撃を仕掛けて来たりしてましたが、我々の方が強いので返り討ちにしておりました」


 ザコの一人が説明してくれる。あー、ザコとはいえそれなりに強いのね。


「しばらくは襲撃もなかったので諦めたものと思っておりましたが」

「そうなんだ。あいつらはどうやって生活してたのかな?」

「知りません。我々に狩りの獲物を取られていたので餓死寸前だったのでは?」


 これは一概にどっちが悪いとは言えない問題になって来た。いや、強いて言えば「奪われる方が悪い」「弱い方が悪い」になってしまうんだろうけど。それを認めちゃうとこの場で捕まった族長さんやリュドミラさんを助けるのも筋違いになっちゃうし。


「ええと、すいません。私らは他のところから来たのであなたたちの部族間の争いには関係ないのですけど」

「どこから来ようと関係ない。首狩りの一族とつるむ様な人間は全て敵だ!」


 リュドミラさん、こいつらあなたたちの事を首狩りの一族って言ってるけどもしかしてまだ首狩りしてたりする?


「もうしてない! 多分。女神様に受け取って貰えなくなったし」

『私は最初から受け取ってませんよ!?』


 頭の中で抗議が来たが私にしか聞こえてないみたいなのでスルーした。今そんなのは関係ないしね。というか覗いてないで真面目に仕事してろ。


「嘘をつくな! マッジもサッジも帰って来なかった! お前たち以外に誰がやってるというんだ!」


 まあこの島に他に部族がいるというなら分からんでもないが。いやまあ牙族とかいうのが居るのも今知ったんだけど。


「ともかくこっちはそんな奴らは知らんのだ。早く族長たちを解放してくれ!」

「いやだな。こいつらはオレの可愛い(やまいぬ)たちの餌になってもらう!」


 やっぱり豺たちはこいつが操っていたのか。人間は出れないけど檻の中に豺はするりと入っていく。何匹も何匹も。


「さあ、そのあぎとで喉笛に食いつき、食いちぎれ!」


 クイズ、の次に辞書に載ってるのは「食いすぎる」だったかな? いや、食いちぎるのはダメだよ。こうなったら私がやるしかないかな。


「木門〈風槌(エアハンマー)〉」


 私の魔法で風のハンマーが檻の中を襲う。私の風もちろん決まった形なんかない。檻なんかものともせずすり抜けて豺たちを吹っ飛ばす。豺たちはそのまま檻の鉄格子に激突した。


「ほえ?」


 なんとも間抜けな声が相手から出た。残った豺たちは檻に入るのを躊躇っているみたいだ。そりゃあそうだ。今私が吹っ飛ばしたのは正確に檻の中に入ってた奴らだけだからね。


「な、何が起こったんだ?」

「女神様の怒りよ!」


 ここぞとばかりにリュドミラさんが反論する。いやまあ私には女神様の加護が(勝手に)ついてるので女神の怒りと言ってもあながち間違いでもなかったりするんだけど。あ、怒ってるかどうかは知らんわ。


「女神様だと!? 女神様等いるわけがない! 居るならば、我々の窮地を放っておく訳もない!」


 あー、女神様は居るんだけど君たちの存在まで把握してるかどうかは確かではない。というかリュドミラさんたちの存在も多分忘れてたろ、あれ。


「お前たちに女神様は微笑まん! 女神様のご威光は我らの頭上にのみ輝くのだ!」

「戯言を! 貴様らがまだその檻の中にいるのに何が女神様だ!」

「くっ、女神様がすぐに我々を助け出してくれる!」


 なんか話がどんどん進んでるけど、多分女神様ならセリオースさんに見張られて書類の束とにらめっこしてるんじゃないかな?


 もしかして私が女神の地上全権代理としてなんかやらなきゃいけない感じ? やだなあ。でもリュドミラさんは味方だし。というか見殺しにしたら龍の血が手に入んないし。


「水よ、その姿を刃と成せ。全てを切り払う刃となりて我が敵を打ち払うものなり! 水門〈水流刃(ウォーターエッジ)〉」


 私は真面目に詠唱して檻に近付き、檻の鉄格子をぶった切った。いや、詠唱したのはそうしないと硬度が足りなくなるからなんだけど。人の肉体を切るくらいなら無詠唱で出来るけど、鉄とかは無理だもんね。


「鉄が……切れた?」

「おお、女神の御業!」

「ばっ、ばかなっ!?」


 三者三葉……あ、いや三様の反応に私はふう、と失敗しなくてよかったと安堵のため息をつく。いや、本当に切れるとは思わなかったよ。私が向こうの世界に居た頃の実力だと鉄に食い込むくらいは出来たけどこんなにすっぱり切れなかったもんね。


「リュドミラさん、ザシュニナさんを連れて退って」

「えっ、ティアさんは?」

「私? あのわんわんたちをけしかけてきた奴にお仕置しないといけないからね」


 不慣れなウインクをかましてゆっくりと彼に近付く。彼は正気を取り戻したかのように豺たちに号令を降す。


「やれ! やるんだ! 遠慮は要らん! 全身をお前たちの牙で穴だらけにしてやれ!」


 集まってきた豺たちは二十頭ほど。さっきの包囲網から考えたらもう十頭くらいは居そうだけどこの場に居ないのは待機させてるからかそれともまださっきの稲光から回復してないからか。

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