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第二百一話 布告

あれ? 戦争になっちゃった?

「ところで、いつまで経ってもヤッピはんの席が用意されないのですけど?」

「あら、一地方領主如きが側妃たる私と席を囲もうというのでしょうか?」


 側妃はさも当然の事の様に言い捨てる。それに倣って側妃の後ろにいる取り巻き連中がクスクスと笑い声をあげる。


「なるほと。それが皆様なりの貴族のあり方というやつですのね」

「物事には序列というものがあります。ついこの間まで卑しい商人の娘だった者に勧める席などございません」


 そうして高らかに笑う。周りの女どもも同じく笑う。いや、お前らの席も用意されてへんのやぞ? このタイミングで笑うってのは「商人の娘」たるヤッピと同じレベルに価値がないと言ってるようなものなんだが。


「はあ。仕方ないわね。キュー、ある?」

「ええ、ありますとも。出発前にヒルダ様に言われた通りに用意はさせて頂きました」

「まあこの程度の小物ならやる事くらいは想像つくわよ。やって頂戴」


 小物、と言った辺りで「なっ!?」とか声を上げてたけどヒルダ様は意に介さず。私はアイテムボックスからでかい椅子を出した。ヒルダ様はその椅子に移る。空席となった椅子にヤッピが座るように促して、微笑む。


 私? 私はボディガードなんだから座らないって。というか座っちゃダメでしょ。いざという時に素早く動けなくなる。あー、まあでもこの程度の相手なら素早く動けなくても何とかなりそう。


「何をしておられるのですか?」

「分からない?はあなたと同じレベルの席なんて私には役不足にも程があるのよ。ヤッピさんとも釣り合ってはないけど、立たせたままよりはマシだもの」


 ヤッピは居心地悪そうにオロオロしてんだけど。大丈夫だよ、ヤッピ。ヒルダ様に任せといたら悪い様にはならないって。


「あなたね、側妃たる私にその様な態度を取って……」

「三度。この意味がわかる?」

「何の数よ?」

「外交非礼の回数よ。まず、我が国の人民を奴隷として攫った。まあこれに関しては海賊の仕業ということにしてあげたけどね」


 本当は貴族の息の掛かった悪徳商人がやってたのは知ってんだぞ、と暗に言ってるのだ。


「二つ目、我が夫テオドールを王宮に招いておきながら王子様方に寄る非礼の数々」


 もうテオドールはまだ正式な旦那になってないでしょってツッコミはいい加減飽きたからスルー。まあラムザは王党派だったはずだから側妃のいる貴族派とは袂を分かっているんだけど、そんな事、外部からしたら関係ない。国内の事は国内でやれって事だ。


「最後はこれ。このお茶会の招待状。私だけでなくヤッピの名前も書いてあるわね」

「え、ええ、それは、まあ」

「なら、ヤッピの席も用意するのがホストの役目。それをやらないのは単なる怠慢であり、ましてや私という他国の人間がいる場所でその様な不手際を見せるというのは私に対してそこまで気を配ってないという軽視」


 ある意味言い掛かりのような気もしますがヤッピを擁護してくれてるので特にツッコミません。当の本人は何が起こってるのか目をぱちくりさせてますけと。


「これだけの非礼をやらかしてくれなのなら外交交渉の決裂も視野に入ってくるわね」

「なっ、田舎の蛮族如きが調子に乗って……」

「本音が出たわね。只今を持って、我が国、ロートシルト王国は、グランドマイン王国に対しての宣戦を布告するものである!」


 いや、待って!? ヒルダ様、そんな事こんなお茶会で決めていいの?


「安心しなさいキュー」

「あ、ブラフなんですよね。いくらなんでもこの程度で戦争などと」

「テオからは戦争を起こしてもいいと許可は貰ってるわ」

「全然良くないじゃないですか!」


 あまりにもあまりな言い分に頭が痛くなってきた。軍隊? あー、多分テオドールの手勢だけで王城制圧とかやってのけるんじゃないかな? だってここの奴らが檮杌とうこつとか一つ目巨人(サイクロップス)とかと比べて強い様に感じないもん。


「戦争、起こす気なんですか?」

「あら、生命を狙われたのにその謝罪も無しに友人を貶められたのよ? 戦争するには十分な理由でしょう?」

「生命を狙ったのはこの人じゃないかもしれないんだけど」

「関係ないわ。狙って来たのはこの国の人間。外の者からはどの派閥だとかは関係ないわ」


 ひー、ヒルダ様が好戦的すぎる! というかテオドールの伴侶なんだからこの展開は予想するべきなのかも。最早止められるのはテオドールくらいしか居ないのでは?


「それでは側妃殿下、ごきげんよう。次にまみえるのは処刑台の上かしらね。どちらの首が横たわるのかは時の運でしょうけど」


 そう言いながらくすくす笑うヒルダ様。これ、どう考えても断頭台に上がるのはお前だって言ってるよね?


「ふ、ふん、あなたの国は海の向こうでしょう? どうやってここまで軍隊持って来るのよ! その前に私があなたを殺してやるわ!」


 あー。言質取れちゃったよ。一国の代表に対して殺してやるはないよなぁ。ヒルダ様はとことん相手の側妃に対して直接的に害するみたいな言葉は使ってないのだ。


「木門〈風鎚エアハンマー〉」


 ヒルダ様の魔法。効果はバツグンだ! それでもテーブルの上に置かれた食事やお茶などを散らばすこともなく、側妃だけを椅子ごと転ばせた。


「あなた、良くも」

「これ以上は戦場で、ですわね。前線に出てくる勇気があるならお待ちしております」


 私はヒルダ様とヤッピを引っ掴んでそのまま転移テレポートした。マリナーズフォートのミリアムさんの別荘に着くや否や、ヒルダ様はこう言った。


「よろしい、ならば戦争クリークだ!」

「ヒルダ様、それは今使う言葉じゃないです」

「あら、教えてくれたのはキューじゃない」

「それはそうですけど、本当に戦争起こすとは思ってなくて」

「……ヒルダ、それとキュー。どうなってんのかオレにも分かるように説明してくれるか?」


 テオドールが頭を抱えながら尋ねてくる。ミリアムさんもわたわたしている。ついでにいえばヤッピも混乱している。

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