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野犬(episode201)

女神様ポンコツ『来ちゃった♡』

 事の顛末はこうだ。この村というか集落の人々は狩猟をして暮らしている。幸いにして岩塩は近くで採れる事になったのだが、日頃食べているものが同じだと飽きるということで、何ヶ月かに一回は隊を組んで島の中心部に行くのだそうな。


 で、ザシュニナさんは頭領になったばかりの初仕事ということで隊を率いて島の中心へと向かったらしい。日頃は一週間くらいで戻ってくるらしいが二週間経っても戻って来ない。


 それで救助隊を出して探しに行こうということになったのだが、島の中心に何がいるのか分からない。もしかしたら外から来た人間たちが何かをしているのでは? などと考えてたところに私たちが来たのだという。


 あー、そりゃあまあ矢も射掛けられますわ。頭領いなくなってピリピリしてたんだもんね。


「ふむ、どうですかね、ティアさん?」

「私が決めるんですか?」

「それはまあ。龍の血が欲しいのはあなたどすから」

「ええと、イオタさんはどう?」

「いやあ、おれっちはタナウスさんの護衛っすからね。タナウスさんが行くなら行くっすよ」


 イオタはニコニコしながら言う。まあタナウスさんの護衛ってのは間違いないから私を守るためには動かないよね。優先順位が違うんだもの。それにガンマから私が強いとか聞いてたみたいだし。


「分かりました。私が行きましょう」

「小娘には無理だ!」


 いや、リュドミラさん。あなた私よりも歳下ですよね? というかバストサイズも下ですよね? あ、いや、そっちは関係ないけど。


「龍の血が欲しいのは私ですから。タナウスさんは留守番しますか?」

「いえ、私も向かわないと。何があったのか解明しないと以後も同じことが起こるかもしれませんし」

「タナウスさんが行くならおれっちも行くっすよ。仕事っすから」

「なら、私も、行きます!」


 私たち三人の後に名乗りを上げたのはリュドミラさんだ。というかまあ父親が心配なのもあるが、タナウスさんと離れたくないという理由だろう。正直遠慮はして欲しいんだけど。


「そうじゃな。島の案内役は必要じゃろう。頼んだぞ、リュドミラ」

「わかった、おじい!」


 おじいは孫に甘いものらしい。いや、元からリュドミラさんを行かせようと思っていたのかもしれない。さっき「調査に協力」と言っていたんだもの。いやまあそれがリュドミラさんとは言ってなかったんだけど。


 リュドミラさんと数名の若い男が同行する事になった。名前は……自己紹介された気もするけど覚える気ないし、別にいいか。ザコAからCくらいにしとこう。あ、アルファベットでわかる通り数名じゃなくて三人です。数すらどうでもよかったんだよね。


「それじゃあ出発するぞ!」


 リュドミラさんが元気に号令をかけた。この隊の指揮はリュドミラさんが任されたようだ。私たちも一応は指揮下に入るがそれなりに自由に動いていいそうだ。


 島の中心部に向かう道は舗装こそされてはいないがならされている。まあ狩猟班が二十人くらいは行ったって話だからなあ。それだけ行って集落の存続は大丈夫なんだろうか。あ、若い男が帰ってきたら勇敢な男を婿に欲しいと引く手数多になる? なるほど。婚活的な側面もあるのか。


 途中で夜営をする事になる。水が確保出来るように川のそばだ。水に寄生虫がいるかもしれないために煮沸して飲んだり料理に使ったりするんだそうな。


 私? あ、魔法は使わないよ。こっそりしか。あまりポンポン使って警戒されても嫌だしね。まあ細かいことは若い男たちがやってくれるので楽ではある。


 夜。私たちの近くに獣の気配がした。野犬? いや、それよりかは少し大きい個体だ。私は目を覚まして辺りを見回す。犬よりもふた周りは大きい四足の獣がグルルと唸りながらこちらに近づいてくる。お腹すいてる?


 私は手元にあったビーフジャーキー(おやつ用に買ってた)を投げるが見向きもしない。それどころかこちらに的を絞ったのかゆっくりと一体が近付いてくる。


 ……いや、犬っころなんぞに負ける訳も無いんだけど。犬が飛びかかってくる。私の腕に噛み付いた。ぶしゅーっと血が出る訳ないじゃん。鋼質化クライフで強化してあるもん。


 歯が通らなかったのが相当不思議みたいで私を警戒したのか何匹かで私を取り囲んだ。その間に他の人の方に向かおうとしているのが数匹。なかなかに戦術的な動きをしている。


 もちろんそれを黙って見ている私ではない。水を得るためという理由ではあるが、ここは川のそばなのだ。つまり、水門の魔法使いに水場のそばで戦いを挑んだのだ。


「水流よ、流れ押し流すものよ、我が命に従いて、澱みを押し流せ。水門〈濁流波フラッド〉」


 川の水が膨らんで氾濫し、ひとつの流れが形作られてそのまま何匹かの犬を巻き込んで川の下流へと流れて行った。魔法名に濁流とは書いてあるけど、この場合のは「純水」という魔法で作った混じりもののない水に比較しての事だから。元からある水を利用しますよってことね。


「ぎゃわん!?」


 私の魔法に不利を悟ったのか群れのトップに君臨してるらしき一体がひと吠えして一斉に潮が引くかのように走り去っていった。まあ私も犬っころを捕まえて食べるような趣味は無いからね。あ、いや、割と美味しいって聞くけどアク抜きが大変なんだっていうからさ。


 翌朝起きて少し地面は湿っているがそれなりに静かに始末出来たのでみんなにはバレてないと思うんだよね。魔力の残滓を嗅ぎ取れる人間とか居ないだろうし。


 案の定、リュドミラさんは何も気付かず先頭に立って道を行く。しばらくすると遺跡のような場所に着いた。狩猟班の人はここを拠点にするんだって。まあ確かに近くにはオアシスというか池みたいなのがあるし、ちょうどいいのかも。


 しかしそれにしてもここの遺跡はどんな文明の代物なのかは興味あるよね。神殿とかだったりしない? 祈ったら女神様ポンコツが応えたりして。ああ、女神様。なんつって。


『私の事呼んだ?』


 呼んでません!

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