借金(episode21)
白スーツ男のモデルはこち亀の白鳥さん。
結局、凪沙は編み物が煮詰まってしまったのでちょっと休むそうだ。おばあちゃんも、こんを詰めなくていいよと言ってくれてるので私も好きなことをしよう。
そう、魔法具の開発だ。というかこの世界では私ぐらいしか使えないだろうからお守りみたいに作るだけなんだけど。お守りも中には神様の名前の書いた紙とか神様の絵姿だけみたいだし、余り変わらないよね。
材料は紙と筆。そして宝石。これは魔道具用に荷物と一緒に持ってきたやつだ。正直、二束三文にしかならないクズ石ばかり……えっ、こんなのでも売れたりするの? ま、まあいいや。
まずは宝石に魔力を通す。宝石によって発動しやすい魔法の種類があるんだけど、特に何も考えずに魔力だけを込める時はどんな宝石でもいい。
魔力込めすぎると破裂しちゃうのでちょうどいいところで紙を貼り付ける。で、貼り付いた紙に発動したい魔法の内容を書く。今回は運気の上昇、まあステータスの上昇かな。つまりは金門だね。運気なんて聞いた事ないけど、多分何かしらは上がるんじゃないかと思う。
中身ができたので外側を作ろうと思う。材料はこのお店にあるものを使っていいよって言われた。おばあちゃん、商売する気あるの?
後で精算してもらうとして、とりあえず布や糸を適当に選ぶ。私はピンク色が良かったんだけど、タケルにあげようと思ってって言ったら反対された。ピンク色可愛いのに。
これがいいよ、って選んでもらったのは緑色の布。緑が好きなのかな? よくわかんないけど凪沙が言うなら間違いないだろう。
御守り袋を作るのに、チクチクやっていたら凪沙もやる気が復活したみたいで、編み物を再開していた。対抗心なのか、私のやる気に触発されたのかは分からない。なんにせよ、やる気になってくれたのはいい事だ。
ん? なんか外から騒がしい声がする。なんだろうか? 確か車が止まった時にする音も聞こえたのだけど。
「おい、ババア、出て来い!」
「おやおや、随分と乱暴な物言いだ事」
「悪かったな、育ちが悪ぃもんでよ」
「それであんたはどちら様だい?」
入ってきた男は白いスーツに白いズボン、なんか長めのマフラーだかを首からかけて暑苦しさを演出している。いや、あれは演出だよね? かっこいいとか思ってないよね?
「この俺を知らないのかい? 全く、あんたに金を貸した赤鷺金融のもんだよ」
「あたしゃあんたらに金なんて借りてないよ」
「いやいや、何言ってんだ。ここにこうやって借用証書だってあるんだからな」
おばあちゃんが借りてないのに借用証書があるというのはこれ如何に? 本当はおばあちゃんは経営が苦しくて借金していたとか? いや、そんな風でもなかったと思うんだけど。
「……貸してみな」
「それはコピーだから原本は会社にあるがね」
「なるほど。そういうことかい。こりゃああたしじゃなくてバカ息子の字だねえ」
バカ息子、つまり、ここを離れて皇都に居るという三人の息子のうちの誰かなのか。つまり、その誰かがおばあちゃんの名前で借金したってこと?
「まあ、そうなんだろうよ。だがなあ、そんな事関係ねえんだよ。うちにこの借用証書がある。それだけでうちは被害者なのさ。分かるかね?」
「ああ、ああ、それがあんたらの手口かい。そういやこの辺に再開発の話も来てるみたいだねえ。誰も話を聞いてないみたいだけど」
「いやいや、皆さん素直な方たちばかりで。その内立ち退きにも快く賛成してくれると思いますよ」
言ってることは紳士的なのかもしれないが、やってることは非常に極悪だ。恐らくありもしない借金をでっち上げたりしてこの辺の土地を買い叩こうとしてるのだろう。書類の偽造なんて簡単に出来るんだろうな。
「とにかく帰ってくれんかね。この通り、客が居るんだよ」
「これは失礼……おほぉ! なんだよこいつら。いいモン持ってんじゃねえか。おい、お前ら、今晩付き合えや」
分かりやすく目の色を変えて男はギラついた。明らかに私と凪沙の胸を見ている。なんで男ってこんなにわかりやすいんだろうね。オーナーとかタケルはそんなことないのに。
「お断りよ! 誰があんたなんかと」
「へえ、拒否権があるとでも思ってんのか? 俺らは力づくでもいいんだぜ?」
男の後ろにいる屈強な男たちがポキポキと指を鳴らしている。恐らく強さを誇示しようとしてるんだろうけど、剣の心得もない素人同然の足運びだ。
「凪沙、こいつらぶちのめしていいの?」
「ティア? 危ないからさがって」
「やれるもんならやってみな!」
男の号令でボディガードらしき奴らが向かってくる。私はなんか先っぽが曲がってる鉄の棒を手にしてそれで足を払った。
「ぐわっ」
ボディガードは足を払われてそのまま床に転がった。他のやつがまごまごしてるうちに私は白スーツの男の方に走った。そしてそのまま白スーツの男の腹に鉄の棒をめり込ませて地面に転がした。
「てめぇ!」
「ええと、下手な動きしたらこいつの腹をこのまま刺し貫くけど、それでもいい?」
鉄の棒は先が鈎になってるから貫けるのかどうかで言えばこのままだと不可能だろう。でも金門の形状変化を使えば簡単に出来る。悪人だし殺しちゃってもいいよね?
「ま、まて、待ってくれ! わ、わかった、帰る、今日のところは帰るから!」
私の足の下で白スーツの男が苦しそうに叫んだ。そしてボディガードの男たちに撤収する様に指示を出した。ボディガードの男たちは渋々ながら撤収していったので、白スーツが最後の一人になったら解放してあげた。
「くっ、今日のところは遅れを取ったが、こっちには借用証書があるんだ。絶対にこの辺一帯は手に入れてやるからな! 首を洗って待ってろ、そして俺に歯向かったお前らもだ!」
どうやら殴り足らなかったらしい。ぶちのめそうと構えたら白スーツの男は慌てて車の中に避難し、そのまま帰って行った。
「すまないね、こんな馬鹿なことに巻き込んじまって」
「大丈夫です。おばあちゃんが悪いわけじゃないでしょ」
凪沙の言う通りだと思った。とりあえずは現状を把握しなければ。