第百九十九話 装飾
日付の感覚がアレですけど、冒険者ギルドの件は一日で片付いたって事で。
ぺぺルさんのところに行くと三日後に城に来る様にと言われたそうな。じゃあそれまではヒルダ様も城に置き去りなんだね。城に戻ろうっと。ってお茶会の日程明日じゃなかったの!? ヤバい、これは早急に何とかしないと!
「ヒルダ様」
「あら、遅かったじゃない。それであなたの手配してくれたアクセサリーは?」
「その、登城の許可が出たのが三日後だとか」
「あのねえ、それじゃあ間に合わないでしょう? というか敵かそういう手できたって事なんじゃないの?」
あー、物理的に排除出来ないから、用意を出来ないようにして恥をかかせようってか! 全くこんな事になるとは。
「連れて来るって言って帰ってこなかったのはあなたでしょうが。まあいいわ。行くわよ」
「何処にですか?」
「決まってるじゃない。その商人のところよ。それともキューが私たちのために見繕って届けてくれるのかしら?」
「すっ、すぐにお連れします!」
私に審美眼なんてあるわけないじゃん! 平日の服装だって「働いたら負け」みたいなシャツ一枚で平気な女だよ? いやまあ、私の場合は研究室での服装がそんな感じのものだったから抵抗がないってだけの話なんだけど。任務の時はギリースーツとかだったし。
ヒルダ様とヤッピを連れて転移。宿屋でぺぺルさんの部屋に行く。
「おかえり。それでヒルダ様はなんと?」
「邪魔するわよ」
「どちら様で」
「公爵夫人のヒルダよ」
「ひっ!?」
まだ公爵夫人じゃないじゃんってツッコミはもう天丼なのでおなかいっぱいだろう。ぺぺルさんはヒルダ様の突然の登場に腰を抜かしているようだ。
「あ、あのあのあのあの、その、この度は当商会をご利用いただきまことに」
「御託はいいから早くアクセサリーを見せなさい!」
「はひい、ただいま!」
慌ててアクセサリーが詰まったカバンを開く。本人はわたわたしていても、審美眼には曇りはないようだ。幾つかヒルダ様が手に取って矯めつ眇めつしている。
「なるほど。確かにこれならば藍染のドレスに映えそうね。気に入りました。買い取りましょう」
「ありがとうございます!」
そしてヒルダ様がアクセの入ったカバンごと買い取ると言い、相場の倍近いお金を出した。ぺぺルさんは目を丸くしている。
「あら、驚く事はなくてよ? ここは敵地だもの。武器を調達するのに割高でも文句は言わないわよ」
「武器、なんですか?」
「ヤッピ、あなたも貴族になるのだから覚えておきなさい。貴族の戦場は社交場。お茶会の席もそうね。他人と接する場は全て貴族の戦場なのよ」
男子は敷居を跨いだら七人の敵がいるみたいなことは言われるみたいだけど、女性、それも貴族の女性は一挙手一投足に敵が食いついて来るものらしい。だから隙を見せない様に武装するんだと。
まあ実際、アクセサリーを身につけたヒルダ様って神々しい程に素敵なんだよね。本当にテオドールにゃもったいない。
「あ、ぺぺルさん、このまま私たちは城に行きますのでぺぺルさんはもう帰ってもいいですよ」
「そんな訳にはいきませんよ。もう面会の予約もしているんですし」
「あー、そうか。なんか追加で売りたいものがあるなら持ってきてください」
「無茶言いますね。まあ王都で頼んであった新作のアクセサリーが仕上がってくると思いますのでそれをお持ちしますよ」
どうやらぺぺルさんは別にアクセサリーを仕込んでいたらしい。なかなかやりますね。さすがはやり手の商人だ。
城に帰ってヤッピにもヒルダ様が手持ちのアクセサリーで着飾っていく。ヤッピはヤッピで可愛く似合ってる。これなら明日のお茶会も。あの、ヒルダ様? それにヤッピ? なんで笑顔で服を握りしめながらこっちに近寄ってくるの? いや、まだ私は転移をあと二回残している。この意味がわかるな?
ガシッと背中から掴まれた。誰だ? ジャクリーンだった。ってジャクリーンは何してんの? えっ、私を捕まえるようにヒルダ様から命令されてるから仕方ない? 薄情者! ジャクリーンを助けてあげたのは誰だと思ってんの?
いや、まあ、ヒルダ様のオーラには逆らえませんよね。まあ私がいない間に仲良くなったのかも。あっ、いや、現実逃避してる間に服脱がされてる!? いや待って。やめて。お願い。お嫁に行けなく……は、前もやったか。とにかくぎーにゃー!
お茶会の日です。おはようございます。昨夜は昨夜の事は……私の記憶の中にしまっておきます。その、下着まで色々する必要はなかったんじゃないかなって思うんですよ。
「あら、起きたのね。遅かったわね」
「ヒルダ様は早いですね。やっぱり歳をとると朝が早く……あ痛ァ!」
額を鉄扇でバチンと殴られた。いや、鉄扇じゃないって? あんなに痛いんだから鉄扇でない訳がないよ! えっ、鉄扇なら顔が凹んでる? それもそうか。
次にジャクリーンが起きて朝ごはんを取りに行き、最後にヤッピが起きる。みんなで朝ごはんを食べて軽く運動をする。お茶会は午後からなのだ。
「とりあえず説明しておくけど基本的に受け答えは私がします。ヤッピは問われたことにだけ答えなさい。それも私の許可がある場合だけね」
「分かりました。具体的には?」
「個人的な質問、家族に対しての質問、後はマリナーズフォートの今後の展望について」
「そんな難しいこと」
「考えてないわけじゃないでしょう? きっちり考えないでこんなことをしたい、でいいのよ。予算とかも気にしなくていいわ。賛同してもらえるなら金はどこからか出てくるものだから」
ヒルダ様のお言葉は確かに貴族としてのものだった。普通は元手とかを気にして事業とかやるものだけど、出資者を募るんですね。というかそれで言うとヒルダ様もパトロンの一人って事?
「私が投資するかはこの国の人間がどうするかを聞いてからよ。でないと内政干渉になってしまうもの」
そうこうしてるとメイドさんのお呼びがかかった。みんなで戦場に出陣します!