闘合(episode197)
タイトルの読みは「はなしあい」です。
人形遣いに関してはepisode119をご覧下さい(ダイマ)
「なっ、なんなのよ、これは!?」
船艙に入るなりドナが叫んだ。そりゃあそうだ。男どもが死屍累々なんだもん。そして立ってるのは私たち二人。どっちも女二人だ。驚いたねェボウヤ。奇しくも同じ構えだ。
「へぇ、やっぱり強かったんだねえ、あんた。この惨状はステフには無理だろうからあんたがやったんだろ?」
まあダニエルとスティーブは私がやったけど、ハーミスとジョエルはステフの仕業だからね。まあそんな事は言わなくてもいいんだけど。
「第二ラウンドといこうか、ティアちゃん」
「私は穏便にいきたいんだけど」
「そりゃあ無理でしょ。私が見逃してもドナが許さない。そーでしょ?」
「当然よ! 裏切り者のステフも含めて、ゲオルグに楯突く奴がどうなるか思い知らせてやるわ!」
ドナは眉間に青筋を立ててこっちを睨んでいる。ステフはもうそれだけで縮こまった。これは実際の強さがどうこうで決まることじゃない。今まで積み重ねられて来た経験の蓄積なのだ。
「ステフは殴れないからティアが相手だね!」
「やっぱり私なの?」
「そりゃあそうだよ。友だちには手を出せない」
あれ? ミシェルはステフの事を友だちだと思ってるの? 敵対状態になってるのに?
「当たり前だよ! ドナとは損得関係だけで組んでるし、この襲撃だってゲオルグの尖兵たるバルナバの役目を全うする為だもん。純粋にステフは大事な友だちだから殴りたい訳ないよ。それでも仕事なら仕方ないんだけど」
「みっちゃん……」
ステフがうるうるとなっている。いや、聞いてたか? 友だちとしてよりも組織としての利益を優先するって、命令ならステフもやっちゃうって言ってると思うんだけど?
「まあ、それはそれとしてティアみたいな強い奴とはヤリたいんだよね。あのイオタってのはそれなりに強かったけど女を舐めすぎてる」
「何があったの?」
ガンマに認められたイオタだ。そう簡単には絡め取られないであろう実力者なのは間違いない。実際にミシェルを一時は拘束してたんだから。
「ちょっと演技で色仕掛けしたらあっという間に隙晒して飛び込んできたんだよね。後はお察し」
……ダメだ。フォローする言葉が見つからない。本当に帰ったらガンマと一緒におしおきだべー。
「じゃあ早速ヤリ合おうかっ!」
ドナの横に居たはずのミシェルがいつの間にやら私の眼前まで来ている。直撃コース!? ヤバい、〈鋼質化〉!
「かったぁ! これでも硬気功纏ってんのにまるで鉄でも殴ったみたいな感触だよ。どうやったの?」
「秘密に決まってるじゃない」
「いいね、いいね。さあ闘おう!」
私の顔面に一撃入れたはずの彼女はあっという間にしゃがんでそこから腹に肘打ちを入れようとして来た。慌てて腹を鋼質化させる。
肘の軌道が逸れた!? そのまま背中で体当たりが来る! 中国拳法で言うところの「靠」ってやつだ。ゲームで見たよ。場外に落とされて「十年早いんだよ!」って言われるやつ。私には功夫が足りなかったわ!
ドン、という衝撃で私の身体は吹っ飛ばされた。背中に風を纏わせて衝撃を吸収する。追撃してこようとしたミシェルがその足を止めた。
「あれ? おっかしいなあ。手応えの割には吹っ飛びが足りないんだけど? 何やったの?」
「だから秘密だってば」
「へぇ、なかなかやりますね。でも戦闘ってのは運だけじゃ勝てないんだよっ!」
再び加速して来て私に肉薄する。そして私の腹に手を当てた。えっ、当てるだけ? ほら某バスケ漫画みたいな左手は添えるだけみたいな。たあ添えられてるというか両拳が腹に密着してるんだけど。
「吩哈!」
ドゴン、と腹に物凄い衝撃が走った。私の身体がくの字に折れる。膝を着いた。腹にものが入ってたらゲーゲーと虹のエフェクトがかかる状態になってたかもしれない。
「ふふふ、寸勁はさすがに交わせないか。モロに食らったねえ。普通はあれでおしまいなんだけど、まさかこれでおしまいとか言わないよね?」
楽しそうに笑ってるミシェル。私は腹に水門の治癒魔法を掛けて立ち上がった。
「さすがにすごいダメージが来たよ」
「おおっ、やっぱり立ち上がるんだ。すごいねぇ。どうやってんの? 私にも出来る?」
「出来るかどうかで言うなら条件次第で出来るかな。まあ同じことは無理そうだけど」
「うーん、よく分からないけど今度教えてね。まあドナの命令次第だけど」
そう言ってドナの方を見るミシェル。ドナは命令し慣れた様子だ。
「生かしておくわけないでしょ。ステフ共々海に捨てるのよ。あ、いや、ステフはやる事があるから捨てなくていいわ」
「良かったあ。ステフは手にかけなくていいんだよね。なら思いっきりやろうっと」
勝手な事を言ってるがまあミシェルの強さをみたら仕方ない。これは私も出し惜しみしてる場合じゃなさそうだ。ジョキャニーヤさんとやるつもりで真剣にやらなきゃね。
「〈加速〉&〈筋力増加〉」
私はコマンドワードを唱えて実行に移す。そしてミシェルの視界から私が消えた。
「なっ!? 何処に」
「ここだよ」
大振りのパンチをミシェルの横顔に叩き込む。ミシェルは咄嗟に顔面をブロックした。あれが間に合うのか。
「うひゃあ、何今の!? すごいゾクゾクする。堪んないなあ。これならリミッター外してもいいよねえ、ドナ?」
「ちょっと、あんた、殺すんじゃないわよ!」
「やだなあ、殺そうと思っても死なないよ、壊れないよ、多分?」
ミシェルの身体から何かが立ち上った。リミッターを外すというのはなんなのだろう? ぷすり、ミシェルは懐から取りだした注射器を自らに刺す。中身の液体がみるみる無くなっていく。
「あはは、あはははは、あHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
ジョキャニーヤさんが人形遣い発動した時の空気にそっくりだわ! あれはヤバい!