第百九十一話 冥途
黒幕は宰相ではなくラムザの方でした。ってアホかい!
「騎士様方ですか? 乙女の寝所に夜分に押し入ろうとするとは一体どういうご用件で?」
「こちらの部屋から物音がしたのだ! だから立ち入って調べる!」
物音がした? する訳ないんだよね。箱庭で音は遮断してあるから。恐らくこのメイドさんが入ってしばらくしたら成功失敗に関わらず突入して、どさくさ紛れにヤッピを殺すとかそういう感じだろう。もしかしたらこのメイドさんの生命も危ないかもしれない。
私の生命? 最初から勘定にも入ってないと思う。邪魔するなら殺す程度だろう。そうは問屋が卸さないけどね。この分だとヒルダ様も心配だけど、流石に他国の公爵夫人(候補)は殺害しないだろう。やってたらテオドールが文字通り軍隊集めて攻め入って来るぞ?
「女性の騎士様なら入っても構いませんが」
「そんなもんはおらん! 女に騎士が務まるものか!」
あー、この国には女騎士というものがありませんか。それならくっころな文化もないのか。まあザラさんが騎士ではなくてメイドである以上はそうなんじゃないかと思ってはいたけど。
「ではまた明日の朝お越しください」
「減らず口を! 構わん! ドアごと壊してしまえ!」
どうやら騎士の皆さんは強行突破を選んだらしい。透視で見てるとドアに自らの剣を叩きつけようとする大男が。それは剣と言うより鉄塊であった。ドラゴン殺しじゃなさそうだけど。
「アンガス、やれ!」
「うおおおおおおおお!」
裂帛の気合いと共に鉄塊がドアに叩き付けられる。えっ? 「裂帛の気合い」っていうならもっと甲高い声? フライングバルセロナアタックみたいな? ちょっと何言ってんのかわかんない。
訂正。野太い声と共に鉄塊がドアに叩き付けられた。いやまあどっちにしても「ドアはビクともしてない」って結果にしかならないんだけど。だって私の箱庭だよ? 普通の武器で突破できるわけないじゃん。もちろん魔法でもダメだよ。
「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。炎神の名のもとに原初の崩壊を顕現す。終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者。我が前に統べよ! 火門〈爆裂魔法〉!」
なんか厨二病臭い詠唱来たなあ。古来よりエクスプロージョンと名のつく呪文は詠唱者それぞれの個性が出るという。本当かどうかは知らない。なんならエクスプロージョンの発声だけでも発動しそうではある。もちろん魔力は膨大に必要になるらしい。
扉に爆発の魔力が集中していく。まああのアンガスとかいう人の鉄塊でどうにもならんかったから爆破しようとしたんだろうけど。当然ながら爆発が収まったあとの扉は傷一つついていない。多分私の障壁抜くのは無理だと思うんだよね。
「バカな! 爆裂魔法でも傷一つつかんだと!?」
「ありえん。なんなのだこれは!」
外で騎士たちがおどおどしてるところに別の騎士たちが来たようだ。
「何をやっている!」
「隊長! こ、これは違うんです」
「何が違うというのだ? そこの部屋はヒルダ様のお連れの天使様のお部屋ではないか!」
私のことを天使と呼ぶな! いやまあ国王陛下は未だに天使殿と呼んでくるのでもう仕方ないのかもしれないけど。
「ここの部屋に賊が入ったという情報を得まして急いで助けなければと」
「何? 天使様、大丈夫ですか?」
隊長さんの声がしたのでそれには返事を返してやる。まあそれなりにイケメンだったからね!
「はい、大丈夫です。賊は……特に見ておりません」
嘘では無い。賊ではなく、暗殺者なのだ。まあ技量が色々足りてないので専属ではなくてメイドさんがやらされてたという感じだろうけど。
「そうですか。お騒がせしました」
「いえ、大丈夫です。部屋の結界は朝まで解けませんので詳しい話は朝にでも」
「分かりました。ごゆっくりお休みください。行くぞ!」
そういうと隊長さんは騎士団を引き連れて去っていった。多分逆らえなかったんだろう。このまま終わるとは思わない。
「さて、それじゃあお話を聞かせてもらえるかな?」
私の笑顔にメイドさんの顔が思いっきり歪んだ。
メイドさんの名前はジャクリーン。メイドの中でも下っ端のほうだって。働いてる理由は実入りがいいから。こう見えて弟がいるらしい。メイドになる前は裏通りでゴロツキみたいなことをしていたらしい。そんな人がメイドさんやって大丈夫なの?
で、こんなことを仕出かした理由もやっぱり金らしい。成功報酬もさることながら、前金でもたんまり貰えたらしい。しかも相手は寝ているお嬢様だからって事で。技術も要らない。終わったら逃がしてもらえるって話だったらしい。
「なるほど、逃げられなくてよかったね」
「はあ? こうやって捕まってんのに良かったって何よ?」
「あなたの逃げる先があの世でも?」
「なっ!?」
まああの騎士団の奴らの剣幕だと恐らくそうだろう。どさくさに紛れて私とヤッピだけではなくこのジャクリーンも殺そうとしたに違いないのだ。
「だから私の側につきなさい。もしそうするならあなたを護るわ。ミリアム様もこちら側だし」
「聖母様が!? 聖母様を攫ったのがあんたらじゃなかったの!?」
「ミリアムさんならピンピンしてるけど?」
どうやら聖母様を攫った奴らがこの城に来てて、それを殺せば聖母様が戻ってくるとでもいわれてたのかもしれない。誰が言ったかって?
「皆は認めてないけど、自称聖母様の二代目、アルマ様だよ」
えっ? ということはこの暗殺企んだのはラムザ? ということは……まずい!
「ヤッピ、私ちょっとヒルダ様のところに行くね! 後よろしく!」
「後よろしくってこの子どうすんの!?」
「二人でおしゃべりでもしてて!」
そう言い捨てると私はヒルダ様のところに転移した。お腹から血が流れている。そしてヒルダ様が屠ったのか騎士らしき奴らが三人黒焦げになっていた。屈強そうな男と対峙している。残り一人か。
「遅いわよ」
「すいません」
「貴様、どこから!」
「うるさい!」
障壁で閉じ込めておいてから治癒でお腹の傷を塞ぐ。幸いにして内臓まで達するような傷ではなかったようだ。