第百八十九話 城凸
テオドールとキューばかり一緒なのでヒルダ様は若干拗ねてました。
(2025-08-25修正)何故か城に行ったのがテオドールになっていたので修正しました。ごめんなさい。きっと疲れてたんです。
私は宰相を引っ掴んで転移した。目的地はテオドールのところだ。
「捕まえてきたよ」
「いや、誰だよ」
「え? テオドールは会ったじゃない。この国の宰相だよ」
「顔面がボコボコで原型とどめてねえじゃねえか!」
あー、まあそこは気絶させるために苦労したからね。なかなか上手くいかなかったんだよ。テオドールなら簡単に出来たのかもしれないけど。
「あー、まあ、気絶させるくらいなら剣の柄で後頭部殴りゃいいんだがな」
なるほど! 剣の柄。そういうのもあるのか。今度試してみよう。なお、ヒルダ様は木門の魔法使うんだって眠りの風を吹かせるんだとか。
「で、こいつがヤッピとかいう領主を殺そうとしたのか?」
「そうそう。マンティコアの毒の針は見たじゃない」
「いや、なんでわざわざ宰相が直々に手を下すんだよ」
「たしかに! あ、でも人がいなかったんでじゃ?」
「国政の中枢にいる人間が手足となる人間を飼ってない訳ねえだろ!」
どうやらテオドールとは見解の相違があるみたいだ。いやだって、テオドールだって手下とか居ないじゃない?
「居ねえ訳じゃねえ。騎士団がいる」
「それはまた別じゃないの?」
「権謀術数は苦手なんだよ」
全く、次期公爵ともあろう人がそんなんでいいのかね? と思ったらヒルダ様が優しく微笑んでる。「テオドール様はそれでいいんですよ」って言ってるみたい。あの、ヒルダ様、もしかしてそういうのの担当って全部ヒルダ様が?
私の考えていることがわかったのかどうか分からないが、私の視線を感じてニッコリと微笑まれた。こえええええええええ!
「では、キュー。行きましょうか」
「行くってどこに?」
「決まってます。王城ですわ。ほら、あなたもいらっしゃい、ヤッピさん」
「えっ!? 私もですか?」
「生命を狙われたのはあなたなのですから」
「わ、分かりました。キュー、お願い」
ヤッピが乗せられてふんすとしている。ヒルダ様の口が上手いなあ。
「よし、キュー。オレも連れて行け」
「テオドール様はお留守番です」
「なんでだよ!」
私もテオドールは留守番だと思う。下手すると王城で剣を振るい始めないとも言いきれないし。
「テオドール様はもし私が帰らなければ兵を率いて王城に進軍してください。テオドール様にしかできませんから」
違ったらしい。まあテオドールでもさすがに王城で剣を振り回したりしないか。
「キューが居るから万が一もないとは思うが気を付けろよ。オレはお前以外の伴侶を貰う気は無いからな」
「テオ……」
いや、そこ、イチャイチャしてんなし。
「私も行きます! そしてお父様やお兄様たちにビシッと言ってやりますわ!」
「いや、そこにミリアム殿が居ると外患誘致という罪になるやもしれん。ミリアム殿は知らぬ存ぜぬで頼む」
「しゅーん、ですわ」
あー、まあ、確かに王族が他国の軍隊司令といたらそう思われてもおかしくないよね。今でこそたまたま同じ場所にいるだけですみたいになってるだけだもんね。
とりあえずヒルダ様とヤッピ、そして宰相みたいなボロ雑巾を連れて転移だ。何度かの転移を繰り返して、王都に到着した。ここからは門番に来訪を伝えるのだ。出ないと門破りでこっちが犯罪者認定だからね。
「こんにちは」
「ムッ? 確かお前は」
「こちらは東大陸の公爵子息閣下の伴侶です。国王陛下へのお取次ぎをお願いします」
「!? しょ、少々お待ちください!」
門番が慌てて駆け出して早馬が王城に飛んだのか、そこから半刻程度で城からの遣いが来た。
馬車の中に私、ヒルダ様、ヤッピの三人とボロ雑巾が乗り込む。
「あの、そのボロボロの人物は」
「国王陛下に説明します」
この一言で馬車の中では何も詮索されなかった。まあ平民の私だけなら無理やりでも聞かれたのかもだけど、ヒルダ様が居るからね。
「ヒルダ殿、だったかな。、 その、そちらの天使殿の手にぶら下がってる人物の詳細を聞きたいのだが」
入ってくるなり国王陛下そう声を掛けた。いや、たしかに前回はラムザ王子をふん縛ってたからね。
「本物かどうか分かりませんが、この国の宰相と名乗っていましたね。このヤッピ……マリナーズフォートの領主を暗殺しようとした者です」
「なんだと!? しかし、これでは顔の判別が出来んな。そういえば今宰相は何処におる?」
宰相が出てくるわきゃないよね。ここに居るんだもん。原型留めてる時の顔はしっかり見てるんだからね。
「お呼びですかな、国王陛下」
そんな声とともに宰相が出てきた。あるぇ? ということはこいつは誰なの?
「影武者。なるほど。暗殺者を影武者に仕立てて送り込んできたのですね」
ヒルダ様がブツブツと言ってる。あー、影武者。ならわからんでもない。まあだいたい宰相が自ら手を汚すなんてあるわけないよね。
「おお、宰相よ。こやつらがお主を捕らえたと言っていたのでな。しかし、何処におったのだ?」
「はい、マリナーズフォートの領主就任式典に行くように言われていたのですが、体調を崩してしまいまして。それで代理の人間に行かせたのですが、どうやらアクシデントがあった様で」
こいつ、「部下が勝手にやりました」とかそんな感じのしっぽ切りをするつもりかな?
「ふうん、なるほど。ところで宰相殿は今は病状は回復しておいでですか?」
「ええ、お陰様をもちまして」
「ならばこの者の顔面を修復したいのでそちらで手配して貰えますか?」
「顔面を修復? その者は死んでいるのでは?」
若干宰相の声が震えているように感じた。
「いえ、まだ生きています。色々聞かねばならないですから。国王陛下、治癒の出来るものを呼んで貰えませんか?」
「よし、宰相、治癒術師を」
「申し訳ありません。現在事故がありまして治癒術師は出払っております」
「そうか。それは残念だ。ヒルダ殿、申し訳ない」
このまま逃げる気かな? ならば私がやりましょう!
「あ、私、やりますよ?」