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第百八十七話 箱庭

逃がすと思った?

 とりあえずあの宰相の野郎を追わなければ。邸宅内には居ないのかな? あ、街中も分からない。とりあえずこの街から出たかどうかは確認しておこう。そう思って門番さんのところに跳んだ。


「門番さん!」

「おお、キューちゃんじゃないか。今日はちゃんと門から出るのかい?」


 私が自在に門をスルーして出入りすることは予め言ってある。門番がそれを黙認していいのかって話なんだけど、王女殿下ミリアムさん領主様ヤッピも咎めてこないんだもん。そりゃあお墨付きってことだよね?


「いや、ちょっと聞きたいんだけどね。偉そうな馬車がこの街から出たりしてない?」

「偉そうな馬車? うーん、入ってきたきりで出てはいないかな。だいたいまだセレモニーの途中じゃないの?」

「あ、うん、そうなんだけど」


 その時にガラガラと大きな音を立てながら馬車が近付いてくる。四頭立ての大きな馬車た。


「はい、止まって止まって」


 門番さんが仕事に戻る。私はぼーっと見てるだけ。バレないのか? ドレスは脱いできたからね!


「おい、門番。貴族の馬車を停めるとは何事だ!」

「いや、お貴族様だろうと何だろうと荷物の確認はしないと。この街で子どもたちの誘拐が続出したのは聞いてるだろう?」


 どうやらヤッピがその辺を徹底する様に通達したそうな。さすが偉い! 今度あったらはなまる満点をあげよう。スタンプカード方式にしようかな?


「この馬車には宰相閣下が乗っている。国王陛下に全て申し上げるが良いか?」

「そ、そんな……」


 門番さんは困惑した顔をしたが私にとっては朗報だ。この中に居るんだね。ヤッピの生命を狙ったクソ野郎が。


 私はつかつかと馬車に歩み寄った。そして馬車の車輪に手を伸ばした。


「おい、貴様何やって」

念動サイコキネシス


 別に口に出して言わなくてもいいんだけど、念動で二つの車輪を破壊した。まあ木製だからね。


「なっ!? き、貴様、何をした!」

「何って逃がすとでも思った?」

「領主に雇われたか? ならば倍額出してやるからこっちにつけ、いくらでも構わんぞ」


 私がお金欲しさにヤッピを裏切るとでも思ったのか?


「友人を助けるのに理由なんかないし、ましてや金なんか要らない。あんたはここで捕まるの」

「なんたと? そんな事が許されるとでも思ってるのか? 宰相なんだぞ?」

「私はこの国の人間では無いからね。宰相だろうがなんだろうが知ったこっちゃないよ」


 宰相がその言葉を聞いて馬車から顔を出す。そして私を見るとなにかに気付いたように言った。


「貴様、東大陸の冒険者! この国から出たのではなかったのか?」

「一旦は出たけどまた戻ってきたんだよ。観念した?」

「するものか! 死ねい、木門〈鎌鼬〉」


 風の刃が私に向かってくる。見えるか見えないかで言えば見えないんだけど、私の周りには障壁バリアが展開しているので攻撃は弾かれて落ちる。


「流石に無駄だよ。不意打ちは悪くないんだけどね」

「いたいた、こちらでしたか宰相閣下」


 私がドヤ顔をしているとやられ役の人たち……あ、気が早いって? ともかくチンピラっぽい冒険者の奴らが追い付いて来た。というかなんで国の遣いなのに騎士団を連れて来てないんだよ。


 いや、そういえばパーティでは騎士団の人らしき奴らも居たなあ。ということはこいつか騎士団を置いて王都に逃げ帰ろうとしてたのかな。


「ちょうどいい。貴様ら、この小娘を殺せ!」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 流石にそれは見逃せない」


 門番の人がびっくりして咎めてくれたのだが、冒険者たちはそんな事を気にした様子もない。


「うるせえんだよ、口出してくんじゃねえ!」


 冒険者の一人が剣を抜いてそのまま門番の腹に剣を突き立てた。


「ごふっ」


 門番さんは刺された腹を抑えて蹲る。あっさり刺しやがった! 私は急いで駆け寄って障壁バリアを展開し、お腹の傷に治癒ヒーリングを掛ける。傷の治療は体内の治癒能力を高めるだけの話だからそこまで難しくはない。


「くっ、なんだこりゃ」

「見えねえ壁が」

「何をやっておる、貴様ら! とっとと始末してしまえ!」


 モタモタしてる冒険者に宰相が憤慨して指示を出すがどうにもならないと思う。とりあえず治療終わるまで大人しくしてくれるかな?


 なんだかんだでお腹の傷は塞がった。でも痛みはそれなりに残ってると思うし、ショックも大きいだろうから安静にしといてもらう。失った血は取り戻せないからね。


「障壁展開、箱庭」


 私は全力で相手全員が入る様に障壁を展開する。頭上も地面も含めて十メートル四方の空間内に閉じ込める。もちろん私もその空間内に居る。


「これで、誰も、逃げられない」


 私はクスクスと笑う。こういう時どういう顔をすればいいのか分からないと思うんだけど、笑えばいいんだよ。それが一番効果的だ。


「何をしておる。あの術者を倒してしまえば結界は解けるに違いない! やってしまえ!」


 確かに間違ってない。間違ってはいないんだけど、そう簡単にやらせる訳がないでしょう。私は向かってくる冒険者を相手取る。


 正直、ゴールド級の人たちレベルならどうしようかと思っていたけど、こいつらはそんなことはないみたいだ。いや、それなりには強そうだけど、強すぎるってこともない。


 モンスター相手とかは苦手だが、人間相手なら慣れている。簡単だ。首を切れば血が出て死ぬんだから。それはこっちの世界でも元の世界でも変わらない。


 先ずは態勢を崩して一人ずつ処理しないといけない。まとめて三人掛かってきたのを分断する。突っかかってきた三人は無視するんだけどね。狙いは後衛だ。


「なっ、いつの間に!?」


 転移で後ろに待機していた魔法使いのところに跳ぶ。素早く口を塞いで喉にナイフを突き入れる。つぷり、と音がして血が吹き出した。魔法使いは力なく膝から崩れ落ちる。


「ケイン! 野郎、よくも!」

「私は野郎じゃなくて女なんだけど」


 そんな事を言いながら向かってくる冒険者の足を引っ掛ける。

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