島嶼(episode186)
アイランドクルーズ。きょうみはあるんですけどね。
「落ち着いてください。説明の途中です」
「すまない。だが、手足の欠損がどうにかなるなんて聞いたこともない」
あー、この世界はそうなのか。私の世界だと高等治癒院にでも行けばそれなりの寄付金は必要だけど、再生はしてくれるんだけどなあ。まあ今回はそれをポーションで行っちゃおうって話なんだけど。魔臓があればもっと単純に再生させられそうな気もするけど。
「大変興味深い話だ。私としてもロンドに個人的にも組織的にも回復してもらわねば困る人物だと思っているからね」
個人的にも、というのを先に持ってきた辺り好感が持てる。つまり、組織の有益な駒である以前に大事な友人というところなのだろう。
「そうですか。それでこの治療を成功させる為に必要なものがあるのですが」
「それを求めてくるということは輸入品ということかな? 妖世川で手に入れれるものならば尽力させてもらおう」
「ありがとうございます。では早速。『龍の血』という単語に聞き覚えが?」
大河氏はしばらく考えた後に「聞いたことがあるんだが思い出せない」と言っていた。太平洋の島で買い付けたみたいな話をしたら一人の男性を呼び出してくれた。
「太平洋上交易班の妖世川タナウスだ」
「おお、タナウス。待っていたぞ」
「はあ、総帥の及びとあれば来ない訳には行きませんからね。それでうちに何の用なんでしょうか? また予算削ります?」
タナウスと呼ばれた人物は腰が曲がった低身長の男で少し卑屈な目をしていた。まあイケメンでもマッチョでもないので興味は無い。
「右記島の賢介氏を知っているかね?」
「右記島……ああ、あの研究バカとしか言いようがない若者」
身も蓋もない。まあ私としても異存も何も無いんだけど。
「そうだ。その時に交渉で手に入れたという龍の血という植物を手に入れたいのだが」
「龍の血ですか。なるほど。ですがあれは本来外には出してはいけないものとかで。私どもはその時に島主の娘さんの病気を治したので特別に分けてもらえたのです」
現地の人に「門外不出」と言われた龍の血。なんだか興味が湧いてきた。
「あの。その島の場所は分かりますか?」
「ええ、まあ、行くこと自体はそこまで難しくはありません」
「でしたらそこに連れて行って貰えませんか?」
私の申し入れにみんながびっくりしていた。
その後、なんだかんだがあって、タナウスさんと護衛に十条寺から一人を派遣してもらい、私たち三人で行くことになりました。アンネマリーとガンマが居れば連れて行くんだけど二人とも法国で忙しそうって話なんだよね。
ジョキャニーヤさんも行きたがってたけど、あなたはメアリー嬢のボディガードでしょうがって却下したよ。
出発当日。空港に現地集合でした。私は一番最初に来てたみたいで空港の中でぶらぶらと歩き回っていた。あまり空港内とか見てなかったもんね。
しばらくしてタナウスさんから空港に到着したと連絡が入った。そこにはスーツをビシッと着こなした背は低めだけどダンディな男性が居た。
「やあ。またせた様だね」
「もしかしてタナウスさんですか?」
「ああそうだ。交渉に行くのに下手な姿ではダメだろう?」
ああ、この人はオンとオフの使い分けをちゃんとしてる人なのだな。と思ったら後ろの方から一人の少年が走って来た。
「タナウスさん、走っていかないで欲しいっす!」
「やあ、ごめんごめん。あ、この人がティアさん。今回の顧客だよ」
「ティア・古森沢です。よろしく」
「……でっか」
確かにそんなことを呟いた。何がデカいかなんて言わなくてもわかるよ。視線がそこに釘付けだからね。いやそこまで露出高い服着てるわけではないんだけど。
「あ、も、も、申し遅れました。十条寺より派遣されたイオタっす。よろしくお願いしますっす」
どうやら歳はそこそこ若い……のかどうかは分からないが実力はあるのかもしれない。まあもしかしたらそこまで重要視されてないのかもしれない。一応のボディガードだからね。
こうして三人の旅が始まった。と言ってもまずは飛行機に乗るのだ。出国管理局とかにパスポートを提出したりしないといけないらしいが、その辺の複雑な手続きはタナウスさんが外交特権とやらですっ飛ばしてくれた。いいのかなあ?
まずは太平洋上のある島に到着。米連邦の領土なんだそうで街中はそれなりに賑わっている。観光客もいるみたい。とはいえ、ここは目的地ではなくて経由地なのだ。宿屋をとって本日は休み明日朝からアイランドクルーズの手続きをとる。
件の島は定期的な就航はしておらず、希望者がいる時のみ人数を集めてまとめて運ぶんだとか。聞いてみると、そっち方面を希望している人達がもう二組いるそうで、島は違うけど航路が同じ様な組で行くことになった。
島に上陸した後に何があるのか分からないので適当に買い物はしておく。こういう時にキューみたいなアイテムボックスとかあればいいのにとは思う。
いや、待てよ? 私の錬金術使えば出来るのでは? 今度試しに作ってみよう。今は材料無さそうだし別にいいか。
絶好のクルーズ日和に、海岸に集まったのは老夫婦と若い男女のグループだ。老夫婦はとても上品そうな方々でおじいさんやおばあさんや、などと仲睦まじく話している。歳とってからのハネムーンだろうか。
若い男女のグループはいかにも陽キャって奴らだ。歳の頃は大学生ぐらいだろうか。男子が四人に女子が三人と男子の方が数が多い。先生、男子が若干女子より多いです!
「おほー、お嬢さん、おっぱい大きいねえ。オレたちと一緒に来ねえ?」
頭が空っぽそうな夢でも詰め込んどけって奴が近寄ってきた。
「おい、何やってんだスティーブン」
「ああん? いい女がいたから声掛けただけだろ? お前らは相手がいるんだから良いじゃねえか」
「いや、流石に他の旅行客には迷惑掛けるなよ」
「ちっ。お堅い奴め。オレはスティーブンだ。ツレの奴らよりは楽しませてやるからいつでも来なよ」
そう言って奴は去っていった。本当になんなんだか。私たちはそのまま船に乗り込んだ。