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第百八十五話 武話

テオドール、素手でも強いんですよ

「お待たせしましたお兄様。どうぞ」

「入るぞ」


 相変わらずの偉丈夫だ。というかここにはパーティに来たんじゃないのかよ、なんで金属鎧のままなんだ?


「お久しぶりですジュラル兄様」

「ふむ、息災そうで何よりだ。そういえばスターリングが居らんな」

「あ、スターリングさんでしたら館の警備の見直しをしております」

「なるほどな。生真面目なやつよ」


 どうやらこのジュラルさん、スターリングさんと知り合いのようだ。まあこの街の領主にスターリングさんを推薦しようとしたんだもんね。あ、スターリングさんの名前が出たらヤッピがビクンと反応したのは見逃さなかったよ!


「それにしても」


 そう言ってジュラルさんはテオドールを見た。


「そちらの御仁はなかなかの手練と見える。名を伺っても?」

「人に名を尋ねる時は自分から名乗るものだが。まあいい。ロートシルト王国公爵家のテオドールだ」

「おお貴殿が王城にて兄上殿たちを小指で捻ったという」

「兄上たち?」


 あー、そんなこともあったね。テオドールの脳内からはあの時の事は消えてるかもしれないけど。三歩歩いたら忘れちゃいそうだし。


「……今なにか良からぬことを考えなかったか?」

「とんでもありません。かっこ棒読み」

「棒読みを口に出して言うな。で、貴殿は何者で、なにか御用かな?」

「ふむ、私はグランドマイン王国第三王子、ジュラル・ミンディアル・グランドマインと申す。テオドール殿には一手ご教示いただきたい」


 深々と頭を下げるジュラルさん。テオドールの強さがわかるのだろうか。


「ふむ、なるほどな。よかろう。相手になるとしよう。最近はちょっとなまり気味だからな」

「おお、ありがとうございます! では早速」


 そう言って別荘の裏手の広場にテオドールと一緒に向かうのだった。こいつらの基本会話って剣なの? 剣で語ればなんとかなるとでも?


 あ、ちなみにさっきの会話はテオドールがこの国の言葉で喋ってたよ。相手に合わせてあげるなんて優しいよね。


「それではジュラル様とテオドール殿の模擬試合を始めます。双方構え、始め!」


 審判とかいないという訳にもいかないのでジュラルさんの引連れてきた騎士団から人が出された。開始の合図を出すだけみたいな感じだ。勝敗? 飽きたら二人とも辞めるんじゃない?


「おおおおおおお!」


 ジュラルさんが吠えて剣を上段に構えながら走っていく。そして真っ直ぐにテオドールのところまで行ったと思ったら真っ直ぐに剣を振り下ろす。


 チェスト、という言葉こそなかったが、ジュラルさんの攻撃は正しく示現流。いや、本当に示現流かどうかなんて素人の私にゃ分からないけど。一直線に走って目標に愚直に二の太刀要らずの一撃を叩き込む。天下の剛剣である。


 テオドールはそれを受けて弾き返そうとしたんだろう。少し「ぐっ」とうめいたかと思うと、そのまま刃を滑らせるように傾けてジュラルさんの一撃を逸らしていく。


 ジュラルさんの剣はそのまま地面にめり込んだ。あの地面割れてますけど、どんだけ力任せなんですか?


 テオドールがくるんと回ったかと思うとジュラルさんの後頭部に剣を叩き込もうとする。威力を流しながらやってのける。やっぱり戦闘技能にかけてはテオドールは天才の部類だろう。


「ぐぬっ!?」


 ジュラルさんはその一撃をかろうじて身体を捻って交わした。攻撃する方もする方だが避ける方も避ける方だ。結果としてジュラルさんは剣を失った。


「ふむ、被弾よりも剣を手放すことを選んだか。騎士かと思ったら戦士だったか」


 テオドールは嬉しそうだ。騎士と戦士の違いは何かと聞きたいところだが、今のやり取りからすると、剣を手放さないのが騎士であり、武器を手放しても被弾を避けるのが戦士ということになるのかな? じゃあ剣士はどうなんだろう。とか思ってたら打ち合いが始まった。


 テオドールはそのまま剣を振り、ジュラルさんは腰に差していた予備の剣を使い始めた。もちろん模擬戦用の剣とかではないので当たれば怪我をするんだと思う。


 それでいいのかと言いたいところだが当の本人が良さそうなのでスルーしておく。テオドール的には勝負というより稽古をつけてやってるみたいな気分の方が大きいんだろう。


 何合目かの打ち合いで、ジュラルの剣が弾き飛ばされた。テオドールは容赦なく横薙ぎの一撃をかます。ジュラルさんは転がりながら地面に突き刺さった剣をとり、そのままテオドールに投げつけた。


 テオドールは難なくそれを避ける。避けたところにジュラルさんが素手で向かってきた。テオドールはやれやれという顔を浮かべながらも、その腕を取り、一本背負いで投げ飛ばした。柔道技もあるの?


「いやあ、参りました。さすがにお強いですな」

「ジュラル殿もなかなかだった。うちの騎士団にもこれほどの人物は居まい」


 テオドールの騎士団はテオドールが直々に鍛え上げた騎士団だ。森林暴走オーバーランも経験している猛者たちだ。そこにもいないほどだと褒めるのはとても評価している証拠だろう。


 なんか意気投合したのかジュラルさんとテオドールは肩を組みながら酒場へと出掛けた。なんで知ってるかって? 私に街の酒場まで送れって言ってきたからだよ! あと、迎えもよろしくだってさ。もう、ヒルダ様に頼まれてなけりゃやってないよ。


 ジュラルさんの次に来たのは宰相閣下。こちらはちゃんとノックした上で入って来たし、普通に挨拶して行った。ただ、ヤッピを見る目が底冷えするくらいに不気味な目だったんだよね。


 ヤッピのドレスが出来て、試着も終わり、とうとうパーティの日になった。私もドレスを着せられた。着ない訳にはいかないんだけど。まあ少し胸が苦しいけど借り物のドレスだからね。だから私はそこまで貧乳じゃないんだってば!


「本日は私の就任パーティにお越しいただき、ありがとうございます。このマリナーズフォートの街を復興していきたいと思っておりますので皆様ご協力をお願いします!」


 あらかた招待客が入ったのでヤッピの挨拶から式典が始まった。


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