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外交(episode185)

総帥トップはカタカナ名じゃなくしました。

「あの、賢介さんに聞きたいことがあるんだけど?」

「うん? なんだい? まあ予め言っておくと、ボクには恋人とかは特にいないよ」

「そんな事は聞いてません!」

「賢介兄さん、婚約者ならいるじゃありませんか」


 なんだって!? それは初耳。というかこの人結婚とか考えてるってこと?


「胡蝶ちゃん、ボクは伽藍堂の娘とかには興味ないんですよ。絶対脳筋で話し合わなそうじゃないですか」

「わがまま言ったところで賢介兄さんがいつまでも結婚しないのが悪いんですよ」

「胡蝶ちゃんが結婚してくれたりとかは」

「私にも婚約者は居ますから無理ですね。というか賢介兄さんは生理的に無理です」

「それは酷くない!?」


 目の前で賢介さんと胡蝶さんの漫才が始まってた。まあなんだかんだ言いながらも胡蝶さんは賢介さんに気を許してるみたいなのは間違いないんだよね。腹黒さが薄まってるというか。


 あれ? ということはもしかして、本当は胡蝶さんは賢介さんの事が好きで、結婚したいと思ってたけど親から言われて政略結婚の駒になってるとかそういうストーリーがあったりするのかな? もしかして名前が「けんすけ」で同じだから話を受けたとか?


「いえ、あの、聞きたいことっていうのは『龍の血』と呼ばれる植物についてなんですが」

「ほほう? 『龍の血』とは随分とマイナーな植物を知っているもんだ。そもそも八洲には成育してないだろう?」


 割とすんなりと出てきた。というか賢介さんは知っているのか。これはこころづよい。


「知ってるんですか、賢介さん?」

「うむ。かつて師に聞いた事が……じゃなくて、昔取り寄せた事があるよ。樹液が血液みたいに真っ赤だったんだよね。なかなか珍しいやつだったよ」


 聞けば止血剤の材料として輸入していたらしい。でも他にもっと効率的な止血剤の化学物質が開発されたのでそっちは高いコストと煩雑な手続きを経て輸入する必要が無くなったのだという。まあ確かにそれだけ聞けば手間をかける必要も無いよね。


「まあ、薬効成分的には止血とか傷薬には重宝するだろうね。商売の軌道に乗せるにはちょっとコストが高くなるけど」


 なんでも太平洋の島の現地住民と交渉をして手に入れたのだとか。通訳の妖世川の人間を雇うのが大変だったとか言ってたっけ。


「一応交易ルートぐらいは教えてあげられるけど今はそのルートがどうなってるのかは分からないよ」


 そう言うと賢介さんはなんか紹介状のようなものを書いてくれた。ここから先は右記島ではなくて妖世川の方に行かないといけないらしい。


「賢介兄さんは来てくれないんですか?」

「いや、それがね。最後に大喧嘩しちゃってさ」

「どうせ賢介兄さんが変なことしたんでしょう?」

「酷いなー、ボクは単に別れ際におっぱいを一揉みして挨拶しただけだよ」

「やってるじゃないですか、このド変態!」


 胡蝶さんの華麗なドロップキックが賢介さんの顔面にヒットした。うん、どこかのレインメーカーを彷彿とさせる高い打点のドロップキックだ。


 私と胡蝶さんはその紹介状を持って妖世川のビルに向かった。というか賢介さんの紹介状で相手の逆鱗に触れたりはしないのだろうか? 早まった?


「ティアさん、大丈夫です。これでも私は右記島の中でもそれなりの発言権は持ってますから。だから、少々の人物なら問題ありません。それに元々妖世川の大使を救う為のものですから。その事も兼ねて挨拶はしておかねばなりません」


 あー、まあ大使さんは妖世川の人間だもんね。何とかしてあげたいものだ。ビルのロビーに入ると様々な国際色豊かなブースがいくつもあった。ヨーロッパ風、米連邦風、中東風……私たちは総合受付に向かった。


「いらっしゃいませ。訪問目的をお伺いしてもいいですか?」

「右記島胡蝶と申します。現在入院中の妖世川ロンド氏の治療についてご説明に上がりました。責任者の方をお願いします」


 ロンド氏の名前を出した瞬間に受付のお姉さんの顔がぴくりと硬直したがすぐに「少々お待ちください」と連絡をしてくれた。


「三番応接室でお待ちください。すぐに降りてまいります」


 そう言って私たちを三番応接室とやらに案内してくれた。そこは割と高そうな調度品が置かれた部屋だった。基調は私のいた世界と似てるかな。


「お待たせしました。右記島のお嬢さん。私が妖世川の総帥、妖世川あやせがわ大河たいがだ」


 入って来たのはがっしりとした肩幅の堂々とした壮年男性。年寄りではなく、若すぎる訳でもない。それ以上に身体中から発せられる覇気のようなものが凄い。


「右記島胡蝶でございます。お初にお目にかかります」

「噂に名高い右記島の黒曜姫とお近付きになれるとは光栄ですなあ。で、そちらの方は?」

「あ、はい。私はティア・古森沢と申します」

「ほほう、あなたがティアさんですか。アーリャやアンヌから話は聞いておりますよ。随分お世話になったようで」

「はあ、どうも」


 笑顔は浮かべているが圧は全く変わらない。圧を掛け続ける事で交渉を有利に運ぼうと思ってるんだろうか。これでも私は貴族の出だからそういうのは慣れてるんだよね。


「では、本題に入りましょう。妖世川ロンドさんの現状と今後の方針についてです」

「お聞きしましょう」


 あれ、圧が弱まった。これは交渉じゃなくて医者からの説明だから聞かなきゃみたいな感じ? まあ病状説明するのに圧とか掛けられてたらまともに話せないもんね。


「現在、再生医療を試みていますが、手足の欠損については治療の目処がついておりません。義手や義足の使用も考えておりまして、現在は調整中です」

「ふむ、以前説明された時と同じだね。それでも来たのは何か進展があったからかな?」

「はい。その手足の欠損についての回復が見込めるかもしれない、という見通しが出てきました」

「なんだと!?」


 本当に驚いた顔をする大河さん。もしかしたら右記島での治療を打ち切って妖世川で引き取ってもらうみたいな話しでもしに来たとでも思ってたんだろう。

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