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第百八十四話 研磨

ティアの声は幻聴!(キュー談)

 着せ替え人形になって意識が遠のく刹那、ティアから話し掛けられた気もするんだけど、あれは幻だったのだろうか。こんにちは。キューです。


 今、私は綺麗に着飾っています。ええ、本当に。いくつかの衣装を取っかえ引っかえされてあれでもない、これでもない、とばかりに何着も何着も。ドロー、新しいドレスカード! HANASE! もう、私のライフはゼロよ!


「ほら、やっぱり何着ても似合うんだから」

「キューの肌って綺麗だもんね」


 あー、まあ、肌が綺麗なのは私の身体にオートで治癒ヒーリングが循環してるからじゃないかな。ヒルダ様に言うととんでもない事態になりそうなんだけど。


 そんな感じでピンクのワンピースにしてもらった。ドレスってほどでは無いがこれはこれでちょうどいいのだろう。だって私は貴族じゃないもん。


「よし、じゃあドレスが決まったからお肌の方を整えましょうか」

「ザラ、準備は出来ていますか?」

「お任せ下さい。きちんとスタッフを用意しております」


 ザラさんの後ろにニコニコした笑顔の女性たちがズラリと並んでいる。嫌な予感がする。


「よし、じゃあ二人を運びなさい」

「えっ? 運ぶって?」

「お二人共、こちらでございます」


 ヤッピは手をひかれて、私は逃げられないようにか両脇をがっちりと掴まれて、そのまま運ばれて行った。場所はお風呂だ。あー、まあ磨かないといけないからかな。


「お、お風呂なら一人で入れます!」

「ご心配ならさず。見えないところにもきちんと手が入るのが一流の世話係というものですから」

「そ、そういう心配はしてないよ!?」


 ヤッピが問答無用で連れ去られた。扉の向こうでくぐもった声が聞こえる。こういうの妙にえっちな声に聞こえるよね。


「まあヤッピ様ってば綺麗なお肌」

「ひっ、やめて、そこは、そこは、まだ、誰にも」

「ええーい」

「あっ、あっ、あっ、嘘、嘘、こんなの、我慢、出来なっ」


 ……確かに私は透視クレヤボヤンスを使う事が出来る。だが使わないのと使えないのには大きな差があるというものだ。私は友の名誉の為に敢えて、敢えて中で何が起こっているのかは見ないことにした。


 ……別に見たらまともにヤッピの目を見れなくなりそうだとか、この後に自分が味わう事態を直視するのに耐えられなさそうだからとからそういう理由ではない。


「ううっ、もうお嫁に行けない」

「ヤッピ、大丈夫だった? ……ピカピカだね」


 悲しげな顔とは裏腹に肌はすごく綺麗になっていた。確かにこれは必要なのかもしれない。なんか保湿クリームとかそういうのがあるんだろうな。


「次は、あんたの番よ、キュー」

「あっ、私、ちょっと用事を思い出さないといけないことを思い出しました」

「それ、用事思い出してないじゃない!」


 逃げの一手だとばかりに言い訳を言ったら即行で却下された。なんかペナルティで入念にやるらしいよ。ぎーにゃー!


 お風呂が終わった後は私たちと入れ替わりでヒルダ様とミリアムさんがお風呂へ。私たちの時より倍以上の人間が入って行ったんだけど大丈夫なんだろうか。


 えっ、私の方はどうだったのかって? そっちはご想像にお任せします。でも、私もお嫁にいけない身体になったんじゃないかと思います。というか自分の身体でも自分でどうなってるかわかんない場所があるなんて知りたくもなかったよ。


 ヒルダ様もミリアムさんもなんの葛藤もなく出てきたので、やはり大貴族とか王族って凄いんだなって思いました。


 ヤッピはドレスが出来るまでこの屋敷に滞在することになりました。仕事はここに運び込んでくれるんだって。というかヤッピも仕事してるんだ。


「だいたいは領主館の皆さんに方針を伝えてそれにあったものを提案して貰ってそれにハンコを押すっていうのが仕事かなあ」

「まあヤッピさんは元々商人でしたものね。でも決裁をする時はそれによって街の未来も左右することになるっていうのは肝に銘じておきなさいね」

「そうですね。怖いですけど街のみんなのために頑張ります」

「その意気なら心配はいりません。何かあったらミリアムさんを頼りなさい」


 突然話を振られたミリアムさんがびっくりしている。なんで驚いてんの?


「わ、私よりもヒルダ様の方が」

「私はゲストなのよ? 忘れているの?」

「そうでした……」


 当然の指摘にしょぼんとするミリアムさん。なるほど。可愛い。子犬みたい。


「邪魔するぞ。ふむ、綺麗だな、ヒルダ」

「テオ!」


 入って来たテオドールがまっさきにヒルダ様を褒め、ヒルダ様が嬉しそうに飛び付く。


「テオドール、私には何も無いの?」

「ふむ、キュー。そういえばお前も女だったのだな」

「……一発殴っていい?」


 さすがにそれはあんまりだろ! ってテオドールがわざわざ女性たちの部屋に来るってのはなんかあったのか?


「ミリアム殿下、マリナーズフォートの領主就任パーティに来客した貴族たちが面会を求めていますが、どうされますか?」

「全ての方に会う訳にはいきませんので二、三選んでお会いしましょう。特に兄様方には会わないといけないでしょうし」


 疲れたとばかりにため息をつく。向こうにいた時はそこまで兄のことを嫌ってなかったはずなのに、いや、そりゃあ色んな裏が見えてきたら嫌にもなるか。一番顕著なのは第一王子のラムザに対する態度だろう。


「第三王子、ジュラル様、ご到着!」


 ジュラルって確かあの脳筋兄かよ。こりゃあ何かありそうだわ。


「ジュラル様、いけません。姫様が許可を出されてから」

「うるさい。兄が妹を訪ねるのに許可など必要なものか!」


 バタバタと廊下がうるさくなってきた。


「おい、ミリアムいるか?」


 それでもドアの前でノックはするらしい。まあいきなり開けて着替えしてたりしてたら気まずいもんね。


「ジュラル兄様、お久しぶりです。少しお待ちいただけますか?」


 ミリアムさんはそう言うと部屋の中の一同を見回した。うん、こちらの準備は万端だ。というかあの王子なら警戒しなくてもいい気がするんだよなあ。脳筋だから何も考えて無さそうだし。

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