龍血(episode184)
賢介兄さん、久々の登場。いやまあいつかは出そうと思ってたんですが。この人植物研究のエキスパートって設定なんで。
「あーあーあー、テステステス。マイクテス。ただいまマイクのテスト中。本日は晴天なり。天気明朗なれど波高し。創造神様、聞こえますか?」
『ティア、今、私はあなたの心に直接語り掛けています。脈拍を止めるなって言われたので頑張ってメッセージだけ送ってます』
「出来るなら最初からやってくださいよ!」
『なかなか疲れるのよ、これ。この後は仕事にならないかも。あーあ』
「仕事してないのはいつもじゃないですか?」
『失礼ね、週に一度くらいは仕事してるわよ』
週に一度で仕事してる感出さないで欲しいんだが。
「それで創造神様に聞きたいことがあるんですけど」
『なによ。ルビもふってないし、まともに呼んでるわね』
あー、お見通しなのか。いやまあいいか。今はそれどころじゃないし。
「この世界にドラゴンって居るんですか?」
『何言ってんのよ。いる訳ないじゃないの』
あっさり否定された! いやまあそりゃあそうだよね。ドラゴンがそこらをほっつき歩いているような世界じゃないもんね。
「あー、そうですよね。どうしよう」
『何を悩んでるの?』
「いや、手足の欠損を回復する薬に『龍の血』が要るって出たんですけど、どうやって手に入れたらいいか」
『ん? なんで龍の血を手に入れるのにドラゴンが関係あるの?』
女神様の言葉に私はキョトンとした。えっ、だってテレビ番組とかネットとか見てたら龍ってのはドラゴンの事だって。だからドラゴンの血液を手に入れなきゃいけないと思ってたんだけど。
『はあ? ドラゴンなんかこの世界に作ったらたちまち焼かれて終わりでしょ。いや、戦車とか戦闘機とかあればなんとかなるかな。アンチマテリアルライフルとかそういうのも使えば』
「待って待って、じゃあ龍の血って一体何なの?」
『えっ? 植物だけど?』
まさかの答えが返ってきた。植物? ドラゴンって動物だよね? いや、動物って範疇に入るのかどうかも疑わしいんだけど。
「ドラゴンって動物でしょう!?」
『まあティアのいた世界のドラゴンはどちらかと言うと霊的生命体なんだけどね。身体は単なる器だし』
「なんかサラッと世界の真理を知ったんだけど!?」
『まあまあ、どうせ向こうの世界には帰らないんでしょ? ならいいじゃない』
女神様はカラカラと笑う。こいつは人の気も知らないで。
『だいたいあなたの鑑定の能力はこの世界にあるもの限定なんだからこの世界に無いものが表示されるわけないでしょ』
「ぐぬぬ、確かにその通りだ。あれ? でも薬草とか魔力水とかは無いよね?」
『あなたがいるんだから問題ないじゃない』
「ほへ?」
どうやら魔力水は私がここに居るから存在してることになるらしい。タマゴが先かニワトリが先か。いや、私が居てそこに能力が載っかってんだから不思議では無いか。
「ええと、じゃあ龍の血ってどんな植物なんですか?」
『さすがにそれくらいは自分で調べなさいな。私はただでさえ世界に干渉なんて出来ないんだから』
じゃあ今私とくっちゃべってるのはいいのかよ! えっ? 私とキューには女神の加護があるから話すくらいなら大丈夫なの? また喋りに来る? いや、愚痴じゃないならいいんだけどさ。
『ゆっくり三人で喋ってもいいんだけどね。なかなか機会が無いわよね』
「そりゃあまああの世界に行くタイミングがないのでなかなかね」
『話すだけならこのままでもいいんだけどね』
なんですって!? そ、それってもしかしてこのままキューと会話が出来るってこと?
『言ってなかったっけ?』
「聞いてません!」
『まあ試してみなさいよ』
「どうやるんですか」
『あなたの加護の能力に焦点を合わせて語り掛けるのよ』
「うーん、まあやってみますね。ええと、キュー、キュー、聞こえる? 聞こえたら返事してほしいんだけど」
しばらくザザッとかいう耳障りな音が聞こえたけどやがて何かの声が聞こえた。
《えっ、何この声? もしかしてティア? いやなんでもいい。助けて、お願い、このままじゃ私……》
ぶつりと交信が切れた。辺りを沈黙が包む。
「何今の? もしかしてキューが危機に陥ってるの? なんとか助けないと!」
女神様は何かを見たと思ったら、『あー』と一声鳴いて首を横に振った。
「女神様、向こうの様子が見えたんですか? キューは大丈夫なの?」
『あー、うん、そうね。生命に別状はないわ。というか、まあ、肉体的には特に何も問題ないわよ』
「肉体的にはって事はじゃあ精神的にはダメって事なんか催眠攻撃でも受けてるの?」
『精神的には……まあそのうち立ち直るでしょう』
そのうち立ち直る、ということは生命の危険はないということだろうか。ならばそっとしておこう。どの道世界超えて助けに行ける訳でもないし。
「ま、まあいいわ。ともかくキューと連絡が取れるのはわかったから。それで龍の血はこの世界にあるんですね?」
『ええ、もちろんよ。頑張って探してね〜』
そして女神様は消えていった。とりあえず龍の血って植物について調べなきゃいけない。こういうのに詳しいのはやはり胡蝶さんかな?
「胡蝶さん居ますか?」
「ああ、ティアさん。すいません、今ちょっと来客中でして」
「おお、ティアさんじゃないか! 相変わらず見事なおっぱいをお持ちで!」
胡蝶さんの「来客」は確かに私も見た事がある人物だった。イケメンなのにおっぱいをこよなく愛し、爆乳の海に揺蕩たゆたいながら、生まれてきた喜びを噛み締めたいという野望を持つ男。
右記島賢介氏である。珍しくこの病院に来たらしいんだが。なんでここにいるの?
「私が呼びました。一応アンブロジアを右記島で研究してるのは賢介兄さんだけですから。不本意ですが」
「やだなあ、胡蝶ちゃんの頼みだもの。協力するよ。それにアンブロジアを使って手足の欠損を治療するんでしょう? ワクワクするじゃないか!」
白衣をなびかせてメガネをクイッとしてポーズをとる。このまま放置して話したい。ん? もしかして賢介さんなら龍の血が何かわかるかも?