第百八十二話 衣装
アスレチックス侯爵は金に糸目をつけずにやってます。
前に買ってきた藍染のドレスが出来上がったそうだ。ヒルダ様に試着してもらう。藍色のドレスはマーメイドラインとかいうデザインでスレンダーなヒルダ様にバッチリフィットしていた。
コルセットなどはもちろんついていない。というかコルセットなんか要らないくらいにくびれが強調されている。なんだかんだでヒルダ様はスタイルがいいなあ。私? 私はその、まあ、くびれとは縁のない生活してるし。ご飯美味しいもん。
「うわぁ、ヒルダ様。すごくよくお似合いですよ」
「そうかしら?」
「もう素敵すぎて見とれちゃいそうですよ。ねえ、テオドール……様?」
「あ、ああ、ヒルダ、とても綺麗だ。よく似合ってるよ」
「テオ!」
私が申し訳程度にテオドールに様を付けたのすらどうでもいい感じでヒルダ様を褒めちぎっていた。ヒルダ様は感極まってテオドールに抱きついて……あー、お客様、困ります、お客様、あー、あー、困ります、お客様!
真っ昼間からおっぱじめそうだったので避難してきました。ミリアムさんも藍染のドレスを新調していた。こっちはくびれとかあまりないからスカートがふわっとしたドレスだ。おっぱいが大きければ一層映えるんだろうけど、まあ成長期なんだからこれからだろう。うん、心做しか初めて会った時よりも膨らんでる気もするし。今のうちに芽を摘んでおくべき? いや、そんな物騒なことはちょびっとも考えてないからね!
「どう、でしょうか?」
「お似合いですよ。ええと、マリナーズフォートの領主が就任した記念のパーティでしたっけ?」
「はい、そうです。ですので私はどちらかというと脇役ですけどね」
あれ? それって主役はヤッピなんじゃ。ちょっと様子見て来ようかな。
「助けて、キュー!」
ヤッピを訪ねて来たら涙目のヤッピが出てきた。あー、まあ、領主だからヤッピ様とか言わなきゃダメかな? でもそんなことしたら嫌がりそうなんだよね?
「いかが致しましたか、ヤッピ様?」
「何その他人行儀! ちょっと冗談はやめてよ!」
やっぱり嫌がられた。まあヤッピは盟友だもんね。
「あはは、冗談冗談。それでどしたんヤッピ?」
「どーしたもこーしたも……ほら、私の領主就任式典があるじゃん?」
「あるねえ。それでヒルダ様もミリアムさんもドレス新調してたし」
「それよ! ド、レ、ス! 私も着なきゃいけないの?」
いや、あなたも貿易商の娘としてドレス着てた事あるよね? それでいいじゃん。なんか抵抗あるの?
「庶民のドレスと貴族のドレスは意味合いが違うのよ。それで叔父様が私のためにドレスデザイナーを何人も寄越してきて、この中から選べって」
あー、今まではヤッピが好きな店に行ってそこのドレスを買って着てたのが、貴族の仕来りとかで自由に出来なくなったとかそういうのかな?
「選べばいいんじゃない? そこまで難しくは無いでしょ?」
「キュー、ちょっと何も言わずについてきてくれる?」
ヤッピがにこーっとした顔で言う。顔は笑ってるのに目は全然笑ってないんだけど?
ヤッピに案内されて通された先はヤッピの私室らしい。ベッドルームは他にあるのでベッドはない。そこに所狭しと飾られた服、服、服、服、服服服!
「こ、これは、ジャングル?」
「ジャングルが何かは分からないけどこれが全部私の服。サイズも合わせてあるし、選ぶだけなんだけど……」
「けど?」
「どれがいいのか私じゃ判断つかなくて。叔父様に意見聞いてもお父様に意見聞いても「ヤッピは何を着ても似合うよ」としか言わないんだもん」
あー、まあ、ヤッピは客観的に見て美少女の分類に入る。だから実際何を着ても着こなしてしまうのは間違いない。というか主役なんだから一番目立つドレスでやればいいと思うんだけど。どこかの演歌歌手みたいな派手さとかインパクトは要らないんだけど。
「しかし、見る限りでは赤色ばっかりね」
「上流階級では赤色が主流なんだってさ。私にはよく分からないけど、赤色ってあまり好きじゃないんだよね。血の色に似てるから」
まあヤッピの年齢と目鼻立ちなら赤色はまだ早いんだろうね。赤系で言えばピンクとか似合いそうだけど。ピンク? ピンクと言えば桜だよね。この世界に桜ってあったっけ?
「まあヒルダ様やミリアムさんは藍色の染料使ってるから色被りはしないと思うよ」
「藍色? そんなのがあるの?」
「そうだね。今流行らそうと思って企んでるところだよ」
「なんでそんな面白そうなこと私に黙ってやでてるの?!」
いや、だってどうなるかわかんないし、とりあえず出来たからいいものになったなあって思ってるんだけど。
「私もそのドレス見たい!」
なんてヤッピが言うものだからミリアムさんのところに連れて行きました。
「まあ。これはこれは領主様。ようこそいらっしゃいました」
「あの、ミリアム様? その言い方はやめていただけると」
「うふふ、冗談ですよ。何か困ったことでも?」
「あ、はい。その、今度のお披露目会のドレスに悩んでまして。そしたらキューがミリアム様とヒルダ様が素敵な色のドレスをお召しになるとか」
そう言うや否やドアがガチャリと開いてヒルダ様が顔を出した。ドレスを着たままだ。というかテオドールはいいの?
「話は聞かせてもらいました」
「うわっ、綺麗」
「あなたもこのドレスの価値がわかるのですね。審美眼は悪くない様です」
ヒルダ様は誇らしげに言った。それでヤッピのドレスを選ぶ為にヤッピの家にみんなで行く事になりました。運ぶのは私。テオドールはお留守番です。まあヤッピの裸を見せる訳にはいかないもんね。
転移してヤッピの部屋に戻ったらまたドレスが増えていた。どうやらアスレチックス侯爵が運び込ませたみたいだ。
「また増えてる……」
「この量はさすがに」
「素敵なドレスばかりですけど、どれもいまいち似合う感じがしませんわ」
ヒルダ様がビシリと指摘する。どうやらファッションリーダーはお気に召さない様だ。