会合(episode182)
材料揃うのか、は分かりませんね。外科医なら「ざいぜん」
検査も終わってまだ出産を控えているデイジーさん。まあまだ育ち切ってないのに産まれても困るよね。私の水魔法の影響はそこまではなかったよ。
一応、出産促進魔法とかいうのもあるらしいんだよね。一刻も早く跡継ぎが欲しい貴族に時々施されるらしい。後は王家にも。まあ出産促進魔法を使うと性格的にはちょっと困ったちゃんになるって噂もあるけど。というかちょっと困ったちゃんがそれで生まれたんじゃないかって陰口叩かれるってのが本当だろうけど。
「あの、まだ産まれてきてないけど、ありがとうね、ティアさん」
「ああ、いや、それほどでも。健やかな赤ちゃん産んでくださいね!」
なお、両方とも英語で話してる。デイジーさんは八洲語があまり堪能ではないそうで。一応の話す事は出来るんだけど、私が英語もわかるって言ったら堰を切ったように話された。
というかジョキャニーヤさん以外はここにいるメンバー全員英語喋れますけどね、ジョキャニーヤさんは八洲語すら覚束ないもんなあ。
そうそう、デイジーさんなんだけど、すごく穏やかで優しそうな顔になったよ。前の時のちょっと気が立っていたのは子供をとるか自分の命をとるかで究極の二者択一を迫られてたからなんだろう。いや、本人すっぱり子供をとったんだけど。
「あ、これ、本日の常備薬です」
あれから私は母体の状況が心配で一日一本のハイポーションを作って持ってきていた。まあ私も錬金術の練習になるし、妊婦への影響も実験出来るしね。
あ、もちろん危ないってことじゃない。何故なら向こうの世界では大貴族とか王族では妊婦が一日一本のハイポーションを飲むように習慣ができてたからね。
というのも子供を身篭った女性というのは体調を崩しやすいのだ。それは二人分の生命を一つの体で運用しようというのだから当たり前だろう。その代表格みたいな副作用が悪阻なんだと言われている。他にも破水とかいう厄介症状もハイポーション飲んでたら割となんとかなる。
そんな訳で実験みたいな感じでデイジーさんには飲んでもらってる。今のところはポーションの味以外は文句がないらしい。ポーションの味は何とか改良したいものです。でも良薬は口に苦しっていうらしいからわざと苦くした方が有難がられる?
そんな右記島医科大学付属総合病院のカンファレンスとかいう会議に呼ばれたのはその週の終わりのことだった。胡蝶さんがどうしても会議に出て欲しいというので出たのだ。
「では次に産婦人科より。胎盤破損のデイジー・パラソル様の病状について」
それを発言された時、辺りがしんと静まりかえった。みんな患者のネームバリューと症状の重さによる責任の所在が気になるらしい。産婦人科の医師の何人が更迭されるのかなどそんな話まで出ていた。
「産婦人科からお伝えします」
立ち上がった医師はとても明るい表情をしていた。ニコニコだ。ついにおかしくなったのかとヒソヒソと話が聞こえる。
「デイジー・パラソル様の胎盤破損につきましては、我々スタッフの尽力の甲斐もあって完治しました!」
その言葉に会場にどよめきが生まれた。そんな馬鹿な、ありえない、もうダメかと思っていたのに、などだ。
「証拠として彼女のレントゲンの写真を見ていただきたい!」
私の処置のすぐ後に撮ったレントゲン写真にはきちんと修復された胎盤が写っていた。どうよ!
「これは……素晴らしい。どこが破損していたのか分からないくらいだ。まるで別の人の写真みたいだね」
「何が言いたいんでしょうか、外科部長」
意味ありげな顔をしながら褒めてきたハゲは外科部長というやつらしい。
「相手はパラソルグループですからな。責任逃れに治ったフリをして別の病院に搬送する。それで米連邦内の病院で死ぬなりなんなりしてくれれば我らに失点はつかないということ。そういうことなのでしょう?」
外科部長さんは要するに捏造して退院させて乗り切ろうとしているって思ったらしい。いや、そんなことしても助けられないじゃん。
「デイジー様は出産までこの病院、産婦人科で面倒を見ます」
「馬鹿な! さっさと放り出さないと大変なことになるぞ!」
そう言って激昂する外科部長。
「罪善部長、大変なこととはどういうことでしょうか? 産婦人科の皆さんは尽力をしてくださってますよ?」
「頑張ったでは何も解決しないこともあるのです。私が見た時には完全に手遅れでした」
「ではレントゲンは嘘をついている、と?」
「写真などいくらでも細工できますからな」
まあこの外科部長は常識の範囲で考えて結論を出して、それを信じているのだろう。長年の経験による判断も混ざってるんだろう。
私らの役目はその思い込みをブレイクスルーする事だ。胡蝶さんは続けた。
「外科部長、私たちがあなたのところの救いようのない患者を救ってみせたら信じていただけますか?」
「簡単に言ってくれる。いいだろう。一人でも何とかなるなら私は喜んで膝を折ろう」
胡蝶さんと外科部長の舌戦が終わったと思ったら外科部長が口を開いた。
「では、外科からは妖世川の事故で運ばれてきた大使の治療についてだ。爆弾テロにより、一命は取り留めたものの、手足を吹き飛ばされて寝たきり状態だ。とりあえず義手や義足の手配をしては居るが、なかなかに難しそうなのだ」
そうして胡蝶さんに顔を向けた。
「胡蝶様、口出しするならこの患者を救ってみてくださいませんか?」
爆弾テロで手足を吹き飛ばされた人の再生? あー、うん、まあ、出来ないことはない、と思うよ。まあアンブロジア使った再生薬が必要になると思うけど。とりあえず帰ったら出来るのかどうかを鑑定してみなきゃなあ。
「分かりました。どこまで出来るか分かりませんが、右記島の名にかけてこの胡蝶が責任を持ちましょう」
胡蝶さんはそう答えて私に微笑んだ。いや、答える前に私の意見も聞いてほしかったよ。あー、忙しくなりそう。というか材料揃うのかな?