降臨(episode181)
女神様『来ちゃった♡』
「それで女神様は相手にして貰えなくて拗ねて構ってもらいに来たんですか?」
『違うわよ! それからなんかまたポンコツとか思わなかった? あのね、この世界で上級回復魔法が使用されたから発動の承認に来たのよ』
「発動の承認?!」
そんなのは水魔法を習った時の教科書のどこにも書いてなかったし、水魔法を教えてくれた先生や教会の大司教の人も何にも言わなかった。
『そっちの世界はそれなりの修練を積んで上級魔法が使えるようになってる子なら自動承認されるように組み込んでるのよ。でもこの世界には組み込んでないからいちいち呼ばれちゃったわけ』
あー、まあ、私の存在自体がイレギュラーだもんね。まあその原因作ったの女神様なんだけど。いや、色々あったけど今は感謝してるよ。キューにも会えたし、凪沙やタケルを始めとした色んな人にも会えたからね。ここなら実家の追っ手も来ないだろうし。出さないか。
「それで承認してくれるんですか?」
『あのね、ここまでして、私が顔を見せた上にあなたがやってる魔法を私が却下する訳ないでしょうが。でもあまりこの世界では上級回復魔法は使わないで欲しいけどね』
「ええ? でも生命が助かるのはいい事じゃないの?」
『魔素を大量に消費するのよ。下手するとあなたが魔法を使えなくなるわよ?』
「えっ?」
『下手すると向こうの世界と融合しちゃうかもね』
「えっ、えっ?」
詳しく話を聞くと、この世界で私が魔法を使えるのは存在自体がイレギュラーで、私の周りには魔素が発生するからだ。詳しい話はよく分からないが、魔臓とかいう臓器があり、そこから魔力が生み出されるんだって。えっ、じゃあ私と凪沙たちって違う生き物なの?
『人間には違いないけど、育ってきた環境の差というやつね。環境適応。育って来たところが魔力に溢れてたからその魔力を使って生きられる様になってるのよ』
つまり、魔臓というのは濃い魔力に浸されて産まれてきたら生成される臓器という理解だろうか。…………あれ? 濃い魔力に浸されて産まれる? まさか!
『そのまさかよ。この子にも魔臓は生まれるでしょうね』
待って待って待って待って! 私、この子をミュータントにしちゃったの? アダマンチウムの爪が生えたり、目からブラスト撃ったり、天候操ったりするの? それとも亀忍者?
『だから人間には変わりないんだってば。ただ、魔法は使えるようにはなるけど』
「それって危なくないですか?」
『危ないわね。だからホイホイやって欲しくないのよ。あ、それと普通の大人にやろうとしたら魔臓が無理やり生まれて異常起こして原因不明の病気になるかも』
「なるかも、なんですか?」
『だって前例がないんだもの。わざわざ作りたくないし。が作られなくて大丈夫かもだけど』
そんなことを言われたら魔法が怖くて使えない。あ、もしかして他の大魔法もダメ?
『ダメなのは上級回復魔法だけよ。あれは魂ごと修復するから魂の形が変わっちゃう可能性があるの。それが魔臓の発生ね』
どうやら攻撃魔法などは体内に直接魔力を叩き込む訳ではなくて事象改変に魔力を消費するので大丈夫らしい。世界の懐が深いんだなあ。
「分かりました。でも、私に近しい人が危ない時はその限りでは無いので」
『まああなたならそういうと思ったわ。まあまたあの世界で話しましょう。お茶とお菓子も用意してるわよ。あと、おこたにみかんも』
「今夏ですよ? クッソ暑くてクーラーつけてないと死にそうなのに」
『あの世界は冷えるのよ。物があんまりないからね。あ、それでも復旧は進んでるからどっかから人連れてこないと。転生局でも行くかなあ』
どうやら人を生れされる為には魂が必要で、その魂は転生局とやらにあるらしい。異世界転生させるつもりなの? いや、私らも異世界転生……いや、転移か。
『あ、そろそろパスが切れるわね。それじゃあ私は行くから後はよろしくね。いわゆる奇跡みたいなものだから何度も願っちゃダメよ。またね』
そんなことを言いながら女神様は消えていった。気付くと私はデイジーさんの上に倒れ込む様にして横たわっていた。
「ティアさん!」
心配そうに声を掛けてくるメアリー嬢。ああ、そうだよね。心配になるよね。私はエコーの写真の画面に目をやる。胎盤はきちんと修復されており、母子ともに健康そうだ。まあ女神様のお墨付きだもんね。
「大丈夫。成功してるからね」
「違います!」
「えっ?」
私はメアリー嬢の言葉にびっくりした。てっきりお姉さんの身体の心配かと思っていたんだけど。
「こんなに、こんなにティアさんに負担をかけるようなものだとは思ってなかったんです。私の、認識不足でした。本当に本当にすいませんでした!」
なんかわんわん泣かれてるんだけど。胡蝶さんに話を聞いたら
「実は、ティアさんのバイタルを観察しようと脈拍を測定してたんですが、その、一時的にフラットになりまして。慌てて蘇生をしようと思ったんですが、なにかに弾かれるように阻まれて、どうすることも出来なくて……ごめんなさい」
……もしかして、女神様と話してる間、私の魂って女神様のところに呼ばれてたとかそんな感じ? なんか『いやだわ、そうでもしないと私と話できないじゃないのよ』とか言いそうではある。弾かれたのはその間に私の身体に危険が及ばないように女神様がガードしてくれたんだろう。
仕事が雑なのかしっかりしてんのか全くわからん。いやまあポンコツであることには変わりないんだけど。
「あ、ええと、あれは一種のトランス状態っていうか。そういうものなので。事前に説明しなくてごめんなさい」
私は悪くないんだけど、女神様が云々言ってもこっちの世界では通じないもんね。
「ともかく母子ともに無事ですから安心してくださいね」
そういうと右記島のスタッフがデイジーさんを検査に連れ出した。様々な検査をした結果、母子ともに健康というのが証明されたわけだ。デイジーさんは完治した後も出産までここに滞在するんだってさ。