快復(episode180)
久々登場。生きとったんかいワレェ。
水門の魔力操作で体内の水を走査する。操作で走査して捜査するとかシャレかよって思われるかもしれない。八洲語って難しい。
胎盤の異常ということで子宮の辺りを走査する。羊水に満たされていて子どもの健康はまずまずだ。よく見ると胎盤の形が変な感じになっている。これは胎盤が割れてるのかな? なんか強い衝撃を与えられたみたいな。
「あの、もしかして、妊娠した後にお腹に強い衝撃を加えられませんでしたか?」
「……もう別れたんだけど旦那だったやつが子どもを流産させようとして蹴られたわ」
妊婦を蹴った!? いや、確かに貴族のどっかのボンボンか庶民の娘を孕ませた後にそんな仕打ちをして流産させようとしたとかいう話は聞いた事あるんだけど。
そのボンボン河どうなったか? 貴族の仕事は血筋を残すことだ。庶民腹だとしても胤は貴族なんだから魔法の才能が発芽するかもしれんじゃん。だから庶民の腹から生まれても引き取られることがあるんだよ。つまりそのバカは貴族の血を絶やそうとしたって話で。折檻されて勘当されたんだって。アホすぎる。
「胎盤が割れてますね。このままだと胎児を受け止めきれないかもしれないので胎盤を修復しないといけません。ちょっと手間ですね」
手間がかかる。それだけの話だ。恐らくだが羊水で満たされた子宮なら魔法の通りもいい。いや、この世界の人に魔法が通じるかどうかというのは微妙だけど、何とかなるなら何とかしたい。やれるよね? 女神様?
「ええと、出来ればでいいんだけど、体内の様子を見ながら魔法使いたいんで、胡蝶さん、何とかならない?」
「えっ、魔法? 魔法って何?」
私の言葉にデイジーさんがびっくりしているんだけど、他の人は全然それに動じてない。まあそりゃあそうか。
「でしたらエコーで画像を映しながらやりましょう」
「できるの?」
「右記島の技術は世界一、です!」
胡蝶さんが誇らしげに言う。で、そのまま近づいてきて耳打ちをされた。
「出来ればティアさんが魔法を使うところをビデオに収めて、あと、各種センサーまでくっつけさせて欲しいんですけど」
「どれくらいつけるの?」
「そうですね。コードにして三十本もあれば」
却下だよ! そんなにゴテゴテついてたら集中出来ないでしょうが!
残念そうにしている胡蝶さんではあったが、直ぐにデイジーさんをエコー室に搬送してくれた。デイジーさんを先に眠らせるのだ。麻酔? そんなのは使わない。私の眠りの魔法だよ。木門にもあるけど、それよりかは直接睡眠状態に叩き込む水門の方がいいからね。
デイジーさんが眠ったのを確認するとエコーの機械にデイジーさんを横たえる。あ、デイジーさんの許可は搬送前の睡眠の魔法をかける前に取りましたよ。母子ともに失敗しても異常にはならないって約束したからね。まあメアリーさんが「私はまだお姉様と一緒に居たいのです」って涙を流してくれたから通じたんだと思う。
さて、デカいモニターにデイジーさんの子宮が映し出された。白黒なのは仕方ないよね。まあ位置が分かればそれでいいんだけど。
私は体内に魔力を再び走らせる。ぶっちゃけこの段階が一番問題だったりする。過剰な魔力をこの世界の人間に通した時に、魔力を持ってない人間がどうなるのか。そんなのは誰も試したことなどないのだ。
だが、治療には体内に魔力を充填しないといけない。まあ一種の賭けである。分が悪くはない。ポーションは効果を発揮してるし、普通に魔法も使えてるからね。でもここまで影響を及ぼす魔法は初めてだ。
先ずは子宮に魔力を満たす。羊水があるからかこれはあっさりと出来た。子どもに魔力が発生してしまうかもしれないが、多分この世界の人間には活性化する様な魔力因子と呼ばれるものはないのだろう。手応えがない。害にはならないとは思うんだけど。
胎盤の破損部分を確認して気付いた。私、正確な形の胎盤知らない。胡蝶さんに助けを求めたら医学書を持ってきてくれた。あと、正常な胎盤の写真も他の患者さんのを持ってきてくれてた。プライバシーとか大丈夫なのかな? バレたら怒られるじゃ済まない? ですよねー。
胎盤の形を確認しながら修復していく。材料がないのが辛い。本来ならどっかから動物の胎盤を触媒に使って移殖させれば早いんだけど。メアリー嬢? なんで脱いでお腹を出してんの? メアリー嬢の胎盤はまだ無理よ? あなた、生理来てないでしょう?
額に汗をかきながら慎重に再生をさせていく。徐々に喪った部分が復元されていくなんてわかりやすい変化はしていない。全部修復するのにどれくらいかかるかは見当もつかない。でも出来るまで魔力を注ぎ込むだけ。
五時間くらいはやってるだろうか。ただ見てるだけのみんなには退屈だろうが、私は連続使用でぶっ倒れそうだ。魔力回復ポーションそういえば作ってたな。
そう思いながら私の荷物を持ってきてもらってポーションを煽る。苦味が口の中に広がった。味はともかく長靴いっぱい飲みたいとは思わないんだけど、今はこのポーションが頼みの綱だ。作っといて良かった。
魔力を込め始めて体内が魔力で飽和状態になったのは八時間ほど過ぎた辺りだ。私は三本目のポーションを飲みながら今度は魔法を回復重視に絞っていく。
水門の回復魔法は自然治癒を基本とする。でも私がやるのは上級の回復魔法。いわゆる喪った組織の再生。魔力が満たされる前とは反応が明らかに違う。再生能力がちゃんと機能しだした。
「水のめぐみよ、生命の母よ、一粒一粒の水に込められた女神の慈愛よ。産まれてくる生命を救う為の護りを体内に与えたまえ。そは水なり、生命の元手なり。水門上級回復魔法、〈再生治癒〉」
『もう、仕方ないわね。女神の慈愛とか言われたら手を出さない訳にはいかないじゃない』
私の魔法に頭の中に声が響いた。この声は……ポンコツ女神様?
『ちょっと。誰がポンコツよ。失礼しちゃうわ』
「またサボって食っちゃ寝してたんでは?」
『そんなことないわよ! ただ、最近出番がないから寂しいなって』
あー、まあ行ってなかったもんね。