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日常(episode19)

日常に戻れー

 目覚まし時計の音で目を覚ます。あの、ジリリリリリって音は音のうるささじゃなくて、魂にガツンと来るのよね。意識なくても起きられる気がする。あ、でも上級者は微睡みながら音を止められるらしいんだけどすごいよね。いや、起こすのが目的なのに起きられなかったら元も子もないんだけど。


 今日もパチンコ店でのお仕事が始まる。朝ごはんに教えてもらったカップラーメンを食べる。なんと三分でご飯が出来る究極の食事だ。それに味も保存食と違って美味しいし。まあカレー味は食べていくと凪沙に「お腹空くじゃない」って睨まれるので普通のノーマル味だ。


「おはようございます!」

「おお、ティアちゃん、おはよう。今日もよろしくな」

「はい、頑張ります!」


 オーナーが朝から店に来てるんだよね。普通オーナーって朝から来ないものじゃない? でもうちのオーナーは朝から来てそれから他にある店舗も回ってるんだって。ここの他にも二十くらい店舗があるらしい。全部回ってるのかな?


「あ、ティアちゃんおはよ」

「おはよう凪沙」

「今日も頑張ろうね」

「そうだね」


 更衣室には凪沙が既に入っている。私の制服は凪沙のものを借りてたんだけど、この度、新しく私の制服が支給されました。凪沙の制服もいくつか新しくなったって。ちなみにサイズ的には私も凪沙も余り変わらなかったり。一人だと目立つから二人いてラッキーとは凪沙の談。


 台の状態を拭き掃除しながらチェックする。ここでチェックするのは釘の位置とかそういうのじゃなくて、ヒビが入ってるかとかの外観的なもの。熱くなってくると台にパンチしちゃう人とかいるものね。だいたいはセンサーが反応してくれるんだけど、たまにあるのよね、反応しない割り方。


「いらっしゃいませ!」


 開店がまだだというのに何故か店の前では人が並んでたりする。今日は十人程度だろうか。新台入荷とかになると三桁の人間が並んだりするので整理券の配布が地味に面倒。やること沢山あるんだけどなあ。


 十時に開店。客が一斉に店の中になだれ込んでくる。なんかいい台は早い者勝ちだとかそういうのらしい。まあ確率の問題で出る時は出るし出ない時は出ないんだけど。遠隔操作? いや、バックヤードにはそんな施設ないよ。防犯カメラを見る場所ならあるけど。たくさん画面があって目が回っちゃう。


『ティア』


 そのバックヤードから指示が飛ぶ。耳に填めてるイヤホンに指示が入るのだ。年配の方が指示を出す時は声が大きくなったりする。オーナーは声静かだけどね。


『はい』

『四十九番台、予定終了だ』

『了解しました。出玉補充します』


 遠い昔は予定終了と言われたら台を替えて遊んでもらってたんだけど、今はそういうのはない。単なる出玉の補充の合図を昔ながらの言い方でしているんだそうな。よく分からないんだけど、補充しますから退いてくださいじゃだめなのかな?


 午前の労働が終わり、昼ごはんを食べに行く。パチンコ屋の周りには食事をする場所が何ヶ所も密集している。だいたいみんな牛丼屋かファストフードのハンバーガー屋に行く。安くて早いからね。昼ごはん抜いて打ってる人もいるけどご飯は食べた方がいいと思う。


 私と凪沙はファミレスに行くのだ。ドリンクバーとかいう色んな飲み物が楽しめる場所だからね。でも楽しすぎて休憩時間過ぎてまで居座っちゃったのは失敗だった。


「ティアちゃん」

「何?」

「男の人が誕生日に欲しいものってなんだろ?」


 誕生日、という概念自体がよく分からない。字面からすれば生まれた日という事だけど、そんなのに意味があるのだろうか?


「生誕の祭りは新年の初めの日にやるでしょ?」

「えっ?」


 凪沙がびっくりした様に言う。そして「そうかー。ティアちゃんのとこはそういう風習なのか」なんて勝手に項垂れてる。ちょっと失礼かも。


「凪沙、その、誕生日なんだけど、プレゼントをタケルにしたいって事でいいの?」

「えっ、なんで、タケルって」


 あからさまに動揺してたけど、凪沙がプレゼントを贈る人なんて二人ぐらいしかいないし、オーナーに贈るんだったら多分こんなに悩んでない。


「タケルの欲しいもの贈ればいいんじゃない?」

「あー、うん、そうなんだけど、ほら、タケルってお金持ちじゃない?」


 これはそう。本当にそう。タケルは古森沢の分家筋ではあり、一般庶民に近くはあるが、母親が超お金持ちの家系で、本人も金を稼ぐ能力に長けているらしい。なんかデイトレとかいうやつをやってるんだそうな。かなり儲けてて欲しいものはそれで買ってるらしい。オタクグッズとか。


「あー、もう。あいつ欲しいものはだいたい我慢しないで買っちゃうから何が欲しいのか分かんないのよ。なんか今期のアニメがどうとか言ってたけど」


 タケルはオタクである。私と出会ったあの日もオタクグッズを買いに行くところだったそうな。


「ええと、多分お金で買えるものにはあまり興味わかないだろうからお金で買えないものをプレゼントしたら?」

「お金で買えないもの? ………私?」


 少し頬を赤く染めながら恥ずかしげに言う。いやまあ確かに凪沙の豊満な身体はプライスレスだと思うけど。


「いや、そうじゃなくて、なんか手作りで作ってあげるとか」

「手作り! そうか、こういう時はマフラーよね!」


 折しも今は夏真っ盛りだし、タケルの誕生日は恐らくその夏の暑さが残る頃になるのではないかと思う。いいのかな?


「そうと決まれば毛糸買いに行かなくちゃ。ティア、付き合ってね」


 今日は私も凪沙も早番だから別に買いに行く分には構わない。でもなんかこの流れだと私も編み物やらされそうなんだよね。私、別に手先そんなに器用じゃないんだけど。


 そのまま仕事に戻り、つつがなく仕事を終えて私と凪沙は一緒に商店街へと向かった。昔ながらのアーケードに包まれた商店街。巨大なショッピングモールが出店を計画したこともあったが、地元の強硬な反対にあって失敗している。商店街の街並みは好きだけど私はスーパーマーケット以外はほとんど行かない。

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