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第百七十九話 選択

それぞれの奴隷の選択。

「みんな、聞きなさい。こちらにいらっしゃるのは東大陸の公爵様。そうです、あなたたちの中で東大陸に帰るものを迎えに来たのです」


 クマラさんの言葉にざわめく奴隷たち。これはどっちかと言うと歓喜よりも戸惑いの方が多いだろうか。


「東大陸のリンクマイヤー公爵家、次期公爵のテオドールだ。まだ公爵ではないから不敬には当たらん。帰りたいものは私と一緒に来れば元の家に帰してやる。どうだ?」


 その言葉にざわめいてはいるものの殆ど誰も動かない。テオドールは東大陸語で話しているので言葉が分からないわけではないと思う。というか分からない人達は該当者ではないのだから構わないのだ。


「テオドール様、と仰いましたか」


 背の曲がった男が進み出てきて質問を投げかける。


「そうだ。お前は東大陸のものか?」

「はい。東大陸で家畜を飼っておりました。そのテオドール様に質問でございます」

「なんだ?」

「ワシらはここに連れてこられました。世話をしとらん家畜などは既に死んでしまっておるであろう。もちろん畑なども荒れ果てておるに違いない」


 それはそうだ。人は食べ物がなくては生きられないが、それは家畜も同じだ。家畜だって食べるものが無くなれば死んでしまう。畑だってきちんと整えなければ雑草に埋め尽くされる。


「む、そうだな」

「では、ワシらが帰ればその失ったものは戻って来ますかな?」

「それは……」


 言い淀むテオドール。一人や二人ではないのだ。家畜を集め、農地を復旧し、生活が軌道に乗るまでのサポートをする。そんな予算が必要なのだ。お金なんてどこからかわいてくるものでもない。もちろん公爵だから出せない額ではないだろう。しかし、下手したら自分の国ではないのに援助をしないといけなくなってしまう。


「残念ながら確約は出来ん」


 テオドールは苦しげに絞り出した。


「良いのです。予想は出来ておりました。迎えに来てくださったのはありがたいです。取り返しのつかない者たちはここに残りたいと思います」

「なっ!?」


 テオドールがそれに反論しようとしたがそういう訳にもいかないみたいだ。テオドールはクマラさんに頭を下げた。


「我が国の国民たちだったものを丁重に扱って下さりありがとうございました。今後もよろしくお願いします」

「この農園に来たからにはどこの出身だろうと私の家族です。礼には及びませんよ」


 入ってまだ日が浅く帰りたいと希望した者は三人程度だった。テオドールはそれでも構わんと馬車を手配し、マリナーズフォートに帰した。


「この先の貴族の中には酷いものもおります。どうぞお気をつけください」

「ありがとうございます。また寄らせていただきます」

「その時はまた別の茶葉を用意しておきましょう」


 私たちはクマラさんと別れて旅路に戻った。テオドールは馬車の中で終始俯いていた。


「まあ、キューさん、どうしたんですか?」

「ヒルダ様、こいつお願いします」

「テオ、大丈夫ですか?」


 野営地に着いたのでテオドールをマリナーズフォートに戻す。ヒルダ様に癒してもらうためだ。ヒルダセラピー。


「ヒルダ。すまんな、弱気なところを見せて」

「何をおっしゃいます。夫を支えるのは妻の勤め。存分に甘えてください」


 うん、抱き締めるのは勝手だけど、ヒルダ様のおっぱい未満じゃ肋骨が痛い……あ、嘘です。ごめんなさい。膝枕、膝枕なんかいいんじゃないですかね?


 翌日。テオドールは必要な時に迎えに行く事にしました。暫くはヒルダ様に甘えさせとくよ。


 次の領は同じく農園を経営している貴族らしい。どっちかというと商品作物、染料の元になる花とか綿花とかそういうやつ。もちろん食べられないよ。


 働き手の人たちは見当たらない。領主は伯爵位らしく偉そうに出て来た。


「ワシの農園に何の用だ!」


 居丈高にこちらを訝しむ領主。隣には騎士たちが武器を構えて警戒している。こちらは二人しかいないっての。


「ええと、東大陸から参りましたキューと申します。この度は奴隷となっている我が大陸の民を迎えにあがりました。今まで保護していただきありがとうございました」

「ふん、そういうことか。いくらだす?」

「は?」

「だから、今まで掛かった金を補填しろ、と言っているんだ。いくらなら買い取ってくれるのだ?」


 こいつ、自分が違法に奴隷を入手しといて金をよこせだと? 損失を補填しろだと? しかもよく見たら両足に鎖が嵌められている。足枷だ。あれではまともに走れまい。


「こちらには国王陛下からの指示書もありますが?」

「ふん、国王陛下だと? 貴族よりも国民を大事にする王など王として認められまい。すぐにこの国はエルリック様のものになるだろう!」


 なるほど。ここの奴らはエルリックの手の者か。となれば交渉にならないかもしれない。


「だいたい貴様のような冒険者風情が貴族であるこのワシと五分で話すなど有り得ん!」


 つまり私が冒険者だから悪いのね? いやまあこれはテオドール連れて来た方が早いよね。チョイトオジャマシマスヨ。


 転移テレポートでマリナーズフォートに帰ってきたらヒルダ様が幸せそうな顔でテオドールの頭を膝に載っけて耳かきをしていた。なんだか宇宙を感じます。そう、邪魔しちゃいけないオーラ。


「あら、キューさん。テオドール様ですか?」

「いや、呼ばないで。今呼ぶと私がヒルダ様に八つ裂きにされるから」

「はあ、まあ、いいですけど」


 ミリアムさんに声を掛けられたのでとりあえずご飯を食べながら報告をする事に。


「それはメルニ伯爵ですね」


 先程の話をしたらミリアムさんがそんな事を言った。メルニ伯爵。エルリック陣営の中でも潤沢な資金を持つ大貴族。エルリックが王になった際には財務を取り扱う大臣にでもなるのではないかと言われているらしい。


 となれば経済的に屈服させてやれば向こうが音をあげるって事かな? キャインと鳴かせてやる! そう思いながら作戦を立てる事にした。見てろよ見てろよー!

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