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第百七十六話 突合

突合しないと帰れません(何かを思い出した)

「ま、まさか、東大陸の」

「その通り。ロートシルト王国公爵家のテオドールだ。ああ、もちろんここには国王陛下の名代として来ているから王族が、とか公爵家がとかは受け付けんぞ。来るなら国を背負ってから来るがいい」

「ぐ、ぬぬ、おのれ」

「ふむ? それで私に何か言うことはないのか?」

「なぜこの私がお前ごときに言うことがあると思っているのだ!」


 テオドールに挑発されてラムザは暴言を吐いてしまう。あーあ、こいつやっぱり頭足りないんじゃないの?


「それならそれでいい。謁見の間でお会いしよう」

「ま、待て!」


 事ここに至って深刻さがわかったのかラムザはテオドールを呼び止めた。


「なんだ?」

「貴様をここから行かせる訳にはいかん。そうなれば私の失態が明るみに出てしまうからな。おい、騎士たちよ! ここでこいつらを始末しろ!」


 ラムザってのはこういう時にこういう決断をサラッとできるスマート(?)な奴なのだ。酷薄さの現れともいう。ミリアムさんを殺害しようとしてたもんね。


 騎士たちが廊下に展開する。行く道も戻る道も塞ぐように包囲されている。テオドールの心配はしていない。どう考えても檮杌とうこつの方が上だもの。


「全く、仕方ないな。キューよ、殺すなよ?」

「殺しちゃダメなんですか?」

「どんな理由であれ、殺せば濡れ衣を着せに掛かってくるだろうよ」


 あー、テオドールもそういう頭が回るようになったのか。偉くなったもんだ。後で頭を撫でてあげよう。うわっ、なんか今背筋が寒くなった? 嘘ですよ、ヒルダ! 私の好みはテオドールじゃなくてエドワード様ですからね!


 前から来るやつらはテオドールが剣を抜いて捌いている。しかも怪我させないようにわざわざ剣の腹で打擲している。


 私のほうはというと後ろから襲い来るバカ共を障壁バリアでシャットアウトしている。そんじょそこらの斬撃で砕けるほどやわな障壁でもないんだよね。殺すなって言われたから私からは攻撃しない。だって急所に入ったら死んじゃうんだもん。


 テオドールが前を捌ききって後ろに回ってきた。私は前にスイッチしてラムザを確保。いっそ殺しちゃおうかと思ったけど、それはそれで問題になるって。


「おいキュー」

「なぁに?」

「こいつ縛っとけ。国王陛下に引き渡すぞ」

「ええー、めんどい。確かに縛るものはあるけどさ」


 こんな事もあろうかとロープは準備済みである。嘘です。アーナさんに持っとけって言われて持たされただけです。それをアイテムボックスの中に入れっぱなしにしてただけです。


「お客様、国王陛下の謁見の準備が……ラ、ラムザ王子!?」

「ううー、うううーっ!」

「なになに? 俺の事は気にせず客人を案内してくれ、だそうだよ」

「うううー、ううーううー」

「さあ、王子もこう言われてる事だし、あまり待たせるのも悪かろう」

「そ、そうですね。ご案内します」


 そうして謁見の間に通された。中にはロイヤルファミリーの皆さんとどっかで見たようないかめしい顔の男も居た。


「おお、久しいな天使殿。ミリアムは元気でやっているかね?」

「久しぶりという程でもありませんが、ミリアム様は向こうで元気にやっておりますよ」

「そうか。ロートシルト王国のテオドール殿。遠路はるばるようこそ参られた。ところでそちらの後ろにおるのは我が息子の様なのだが?」


 国王陛下の声がすうっと低くなった。返答次第では、ということだろう。


「はい、ご説明しましょう。この者は先程廊下で私に切りかかりました。ロートシルト王国の使者だと明かしたにも関わらず、です。つまり、国の代表に喧嘩を売ったわけです。これは宣戦布告とも取れますがそれで構わないのでしょうか?」


 テオドールの言葉に謁見の間がシーンとする。そしてエルリックが高らかに笑った。


「兄上、随分な失態をなさいましたなあ。まさか外国の特使にまで突っかかっていかれるとは」


 エルリックは大変楽しそうだ。


「父上、ご覧の通りな有様。これではとてもではありませんが王太子の座など任せられません。是非、ラムザ兄上の廃嫡をお考えください」

「うむむ、確かにその結論もあるかもしれん。その辺をテオドール殿はどうお考えか?」


 案の定、ラムザの廃嫡とかそっちに持っていくつもりだ。この調子で王党派を封じようというのだろう。


「国王陛下、私どもはその様な些細な行き違いよりも、攫われていった我が国の国民の行方の方が先決です。どうなっていますでしょうか?」


 テオドールはそんな言外の要求を突っぱねた。飽くまで目的は我が国から連れ去られた奴隷たちなのだ。


「ふむ、それもそうだ。こっちがリストになる。確認してもらおう」


 テオドールが受け取るなり私に書類を回す。いや、自分で見ろよ。まあテオドールじゃあ見ても分からんのかもしれんが。どうやら西大陸の言葉は魔道具で何とかなったが字は無理だったみたいだ。


 ええと、ええと。照合照合……名前の書いてある順番とかもバラバラだから突合したものにチェックをつける。うん、リストにある人物のチェックが終わった。


「どうだった?」

「行方が分からない人間が三人ほどいます」


 そうなのだ。ゆっくり数えていたんだが、三人ほど足りない。これが一人だったら数え間違いかな?って思うけどそういうものでも無い感じ。ちなみに三人は一家である。父と子と聖霊……じゃなくて父親、母親、娘である。


「さて、敢えて三人を隠蔽しようとした理由を聞かせて貰えますかね?」

「バカな! 三人だと? そんな報告は上がっていない!」


 どうやら国王陛下としても予想外だったようだ。となれば貴族派の連中が隠してるのかもしれない。


「ええと、それじゃあ国王陛下、国内をフリーパスで探し回る許可をください。貴族の領地にも立ち入れる様な」

「なっ! 貴様、何を馬鹿なことを!」

「やめよエルリック。そうさな。この期に及んではそうやって無実を証明するしかあるまい。お好きにされよ」


 国王陛下が頭を下げた。この人も苦労してるんだろうなあ。頭のてっぺんがハゲている。誰か毛生え薬持ってない?

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