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登記(episode175)

キックオフって言われてもネタがわかる人がどれだけいるか。

 佐賀伊さかいシェフの法国料理が虹色の光を放ってそこに鎮座しているのを見て、とても高揚した気分になった。気絶したまま運ばれてきた二人も美味しそうな匂いを嗅いですぐに目を覚ましたみたいだ。あれが噂の仏跳牆パッチューチョンってやつか! えっ、違う? 単なるコンソメスープ? ドーピングとかされないよね?


 ジョキャニーヤさんと瑞麗さんは真っ先にお肉の塊にかぶりついた。どんだけ肉食なんだよ。あ、でもあのローストチキンは美味しそう。どれどれ私も一口……うわっ、肉汁がアドレナリンみたいにドバドバ出てきそう。とってもジューシーだ。


 次はこっちのステーキ……柔らかい。口の中で肉が溶けるようだ。これがいわゆる飲める肉ってやつか。さすがA五和牛。よく分からんけどそういう等級らしい。というかそんな高級なやつをこんなところの末端施設で使っていいものなの?


「いいものを食べてそれを知るのも修行の一環なんです」

「なるほど!」

「もちろんティアさんたちは講師側なので食べなくてもいいんですけど」

「それはちょっとあんまりじゃない!?」


 博美さんの言葉に絶望が見えたが「冗談ですよ」ってクスリと笑われた。ううー、食い意地張ってたと思われる。いや、私の後ろから漂ってきていた剣呑な雰囲気が霧散したからそっちを抑えるためのものだったのかもしれない。


 ご飯食べてお風呂入って寝て起きて。朝早くにハヤト君は起きていた。私? 私は朝の空気が好きだからね。嘘です。たまたま目が覚めたらハヤト君が居たので。


「先生、おはようございます」


 まさかハヤト君の口から先生なんて言葉が聞けるとは思っていなかった。まあハヤト君はこのまま四季咲のトップになるべく教育されるんだろうな。


「上には上がいるんだなってこの合宿で教えられました。ティア先生やあのジョキャニーヤさんとかいう方と瑞麗さん。どの方も雲の上の存在です」


 あー、まあ私でもあの二人の間には割って入りたくないよ。止めれるならガンマさん辺りが止めてくれれば良かったんだけど。あ、でもガンマさんはジョキャニーヤさんより弱いって自称してたっけ。


「今後は学校生活で頑張っていきます」

「そうだね。それが一番だと思うよ」


 私はハヤト君の頭を撫でてやった。ここから恋が始まる……訳ないって。私の好みはタフガイなんだから。もう倍くらい筋肉つけてからだね。


 帰路は特に何も無く、鷹月歌たかつかの本邸に着いた。ハヤト君は裕也さんに面会を求め許されなかったものの、伴侶たるメアリー嬢へのちょっかいを謝罪した。


 鷹月歌の方では個別特訓で山林の施設に行かずに頑張ってたメアリー嬢とクロエさんが新しい道着に身を包んでいやーとかとりゃーとか声を上げてた。あの裕也さん、ハンディビデオ回したいのは分かりましたからもっとアングルを高くして貰えますか?


 ハヤト君の謝罪にメアリー嬢もクロエさんもハヤト君は許すことにしたみたい。これは四季咲とことを構えたくないというものと、そもそもメアリー嬢もクロエさんも争いを好まない性格だからということだ。


 あ、そうそう。プランシャール家の執事連中もそれなりには鍛えられています。うん、まだやってるんだよ。時間足りなかったかな。


 クロエさんのボディガードはガンマさんが引き継いだ。元々ガンマさんは裕也さんのボディガードだったんだけどジョキャニーヤさんならメアリー嬢のついでに守れるだろうって話みたい。あと、瑞麗さんもスポット参戦するらしい。


 私はお役御免……ああ、私は私でやることがあるからね。久しぶりに開放されたので未涼みすずさんに会いにいく。


「この忙しいのに何やってたんですか?」

「あ、えーと、山篭りを」

「もう、こっちは色々用意していたというのに」


 登記申請書、定款、発起人の決定書、取締役の就任承諾書、会社の印鑑届出書……私抜きでも出来るやつはだいたい整ってる。私の担当は資本金の払込証明書と取締役の印鑑証明書だ。資本金は私の財布から払えばいいんだけど……正直銀行とか行ってないからキャッシュコーナーでは無理そうなんだよね。だいたい資本金ってどこに払えばいいの?


 資本金は私の口座に払い込めばいいんだって。ただ、現在私用で使ってる口座と同一だと後々面倒になるので新しく口座を他の銀行で作って来いってさ。めんどい。


 あ、印鑑証明とかいうのも必要とか。でも私、印鑑とか持ってないよ? 登録? 何それ?


 未涼さんに引き摺って印鑑屋に連れてこられた。そこで印鑑を作ってもらうんだって。私はその辺にあるスタンプみたいなものでいいって言ったんだけど、防犯上まずいって言われて製作を依頼する事に。なんか象牙がどうとか言ってたなあ。象牙ってあれでしょ? 曲刀とかに使われるやつ。


 印鑑が出来るまで二週間必要とか。文様は自由って事で、私の名前をカタカナで入れて、ついでに簡略化した紋章も彫ってもらう事に。ブルム家の私はもう居ないけど、この世界でもブルム家があるということを知らしめたい。……ごめんなさい、嘘です。ブルム家の紋章がかっこよかったなって思っただけです。


 ついでに会社の印鑑も作ってもらうことに。会社名が四角印で書いてあるだけのシンプルなもの。会社名はユグドラシルにしました。なんでもこの世界のどこかにあるという伝説の樹なんだとか。木の下で告白したらその恋が永遠になるとかそういう伝説があったりするのかな?


「ユグドラシルは生命、成長、再生、そして宇宙の秩序といった概念を象徴していますからね。これから作るものを考えたらちょうどいいのでは?」


 そんなものかなあ? いやまあポーションってのはそういうものなのかもしれない。とりあえず二週間後には会社を立ち上げて……あ、その前にキックオフミーティングってのがあるの? ええと、男の子と女の子が独特の雰囲気で見つめ合うやつ? えっ、違うの!?


 ともかくキックオフミーティングについては未涼さんがお膳立てしてくれるらしい。私は……それまでにポーションをひとつ作っといてくださいと言われたよ。キックオフミーティングで使うんだってさ。

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