合格(episode174)
どっちが強いのかと言われたらジョキャニーヤさんに軍配が上がります。紙一重です。少しでもジョキャニーヤさんが調子を落としていたら瑞麗さんが勝ちます。そういうレベルです。
私は続ける。と言っても私も昔の先生の受け売りだったりする。あの先生は金級冒険者だったかな。強かったなあ。
「強い人には常在戦場が身についています。いついかなる時も即応出来るようにしていますから。だから身体の中心がブレない」
瑞麗さんを見るとゆるっとしてる様に見えて身体の芯がしっかりと確立されている。もちろんジョキャニーヤさんやガンマさん、それに博美さんにしても全員きっちりしている。私? 私も意識しなくてもそうなる様に鍛えられたもんね。
私はチラッと博美さんの方を見る。頷かれた。ああ、まだ教えてもいいのね。それなら判別方法はしっかりと教えようか。
「まず、デカいのはダメです。これは小さいハヤト君では勝てません」
「いや、それは分かってんだけど」
「ちなみにガンマさん程なら秒殺出来ますけどね」
「そ、そんなに強えの?」
ガンマさんが照れたような顔すらしない。出来て当たり前なんだよ。そもそもあのデカいモンスターを屠ってんだからそりゃあ人間の男サイズなんて誤差ですよ、誤差。
「まあハヤト君にはそんな芸当出来ないので体格のいい人は除外です。では次に何を見るか。ズバリ立ち方です」
私は実際に立ってる時の姿勢を示して見せた。少し足を横に開いた形。けんけんぱのぱーの状態だ。
「こんな感じに立ってる人は動き出しがどっちつかずなので反応が遅れます。普段の生活なら構いませんが、この様ないつ攻撃が飛んでくるか分からない場でそんな立ち方をするのは間抜けとしか言えません」
私の言葉で三人ほどが姿勢を正した。あー、まあこれだけ普通に言ってればね。ハヤト君もそれは見たと思う。まあ一人、瑞麗さんだけそんな感じのままで立ってるんだけど。あの人はあの人でそこからでも捌く自信があるからやってんだよなあ。
「そうか。そういう風に見るのか。他には?」
「後は目線ですね。自信が無い人間ほど目線を逸らそうとします。私も色んな男性に目線を逸らされて来ましたから!」
「いや、ティア、それはまた別の理由だからね? ティアの強さに目を逸らしてる訳じゃないのよ?」
博美さんがツッコミを入れてきた。いや、それならなんで男の人は視線を下に向けて防御姿勢の内股になっちゃうんだよ。解せぬ。
「まあでも目を逸らす人は弱いです。自分に自信がないので。あ、ガンマさんはそっちじゃないけど」
ガンマさんや博美さんといったシノビ出身の人は感情を読まれないように瞳を隠す様にしてるらしい。瞳を読む瞳術なんてのもあるらしいし。ところで写輪眼とか本当にあるの?
「分かった気がする。試してみるから合格かどうか教えてください」
なるほど、本決めじゃなくて私に聞くのね。まあ教えを乞うことが出来るなら教えてもいいって博美さんも言外に言ってるし。
ハヤト君は一人一人に対峙して目を見たりしていた。瑞麗さんがあからさまに足を広げて目を合わせないようにモジモジしている。いや、出番終わってますからね。ジョキャニーヤさんもマネしない! 二人とも除外ですよ、除外!
「よし、じゃあティアさん、この人はどうですか?」
ハヤト君が選んだのはいわゆる「当たり」の人だ。負ける為にここに連れて来られたとかそういうの。もう脂汗が出てることから当たりというのがバレバレなのだが。
「どうしてその人を?」
「自分に自信がなさそうだから。場違い感があるっていうか」
さっきまでの君はその場違い感すらも読み取れてなかったんだよね。これは成長と言っていいだろう。
「博美さん、続ける?」
「いえ、もういいと思います。佐賀伊さん、ありがとうございました」
「ふぃー、どうなるかと思ったよ。包丁さばきなら得意なんだが荒事は勘弁して欲しいよ」
どうやらコックさんだったらしい。四季咲はコックさんもここで修行して最低限の護身術を学ぶんだとか。お疲れ様です。
「さて、ではハヤト様の一段階目の修行はこれで終了としましょう」
「一段階目!?」
「それはもちろん。四季咲の教育がこれで終わるわけないですから。次は学校の後にしますからね」
四季咲の力で学校は一週間ほど休んだが流石にこれ以上は勉強に支障が出るということらしく一旦修行はお開きとなるのだ。
「ふー、一体どうなるかと思ったら戦わなくてよかったのかよ」
「当たり前です。四季咲に強さはそこまで必要ありません。最低限身を守れるくらいには無いとダメですが」
そりゃあまあそうだよな。銀行のカウンターのところにいるテラーのお姉さんたちがみんな暗殺拳の使い手とかだったら怖すぎるンゴ。
で、晩御飯は佐賀伊さんが腕によりをかけた法国料理を作ってくれるんだとか。ヨダレ出そう。ええと、その前に、ジョキャニーヤさんが瑞麗さんとやり合うの? えっ、大丈夫? 殺し合いとかじゃないよね?
エキシビションとして始まったジョキャニーヤさんと瑞麗さんの戦い。瑞麗さんの技術が素晴らしかった。遠距離での劈掛拳、近接短打の八極拳、両方で遠近両用な戦い方をしていた。相手がジョキャニーヤさんじゃなかったら勝てたかもしれなあ。
ジョキャニーヤさんはあれはもう獣だよ。最初は攻撃をいなされ、ダメージをくらいとしていたが、高笑いをし出した頃から流れが変わった。
スピードは人知を超え、多角的な攻撃が色んな角度から瑞麗さんを襲う。瑞麗さんの手足から出血が確認され、瑞麗さんの気配が剣呑なものに変わりかけた瞬間、私は木門の魔法で二人を吹っ飛ばした。
「木門〈天嵐〉」
いや、〈風槌〉でも良かったんだけど抵抗されそうな気がしたんだよね。〈天嵐〉なら水も被って反省させられるし。激しい風と雨がフィールドを覆って……あ、壁が壊れた。弁償? 弁償かなあ? トホホ。
「さあ、皆様、食事の用意ができましたぞ! 腕によりをかけて作りましたからな! ご堪能ください」
佐賀伊さんが料理が出来たと報せに来た。早くない?って思ったら仕込みは終わってたんだって。よし、気絶してる二人も連れて食堂へレッツゴー!