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請問(episode173)

瑞麗さんは「ずいれい」さんです。決してどこぞのブラコン暴走妹とはなんの関係もありません。ありませんったら!

「きゅう」


 あっという間にハヤト君が叩き伏せられた。眼鏡の人、普通に強いんだけど。まあ相手がハヤト君だから仕方ないのかもしれないけど。


「私の勝ち、でいいんですかね?」

「ええまあ。ありがとうございます。大隊長」


 おや、どうやら今やったのは大隊長らしい。眼鏡をかけていたのは直前まで書類仕事をしていたからなんだとか。薔薇連隊ローズレジメントでも事務仕事あるのね。


「クソ、大隊長かよ。そんなの勝てるわけねえだろ! ……もしかしてオレが勝てる相手居ないんじゃあ?」

「いえ、そんな事はありませんよ。そうですね……今のハヤト様だと一人か二人くらいですかね?」


 この中でハヤト君より弱いのは純粋な実力差だと三人いる。まあ十人居る中の三人だから割合的には三分の一だ。壊れる程、アイしても三分の一も伝わらないのだ。


 そして、その内の一人は実力的には僅差だ。つまり、ハヤト君が冷静さを失えば負ける。まあそれでも修行前だと一人にも勝てなかったんだけど。あ、いや、あの一人は負け役だろうから勝てるのか。


「さて、チャンスはあと二回です」

「二回でダメなら?」

「その時は後継候補から外れるだけですよ、永遠に」


 ハヤト君が黙り込む。そして意を決したかのように言う。


「そこの女、お前だ。お前が次の相手だ!」

「分かりました。御相手致します」


 ハヤト君が選んだのは紅一点。いや、私たちは含んでないよ。みんな女だからね。薔薇連隊の中での唯一の女だよ。


「よろしくお願いします」

「いっくぞぉ、オルァ!」


 ハヤト君が開始と同時に突っかかっていく。というか挨拶くらいしとけよ。まあその前もしてないんだけど。


 ハヤト君は猛牛のような勢いで突進していく。なかなかのスピードだ。女の人は向かって来たハヤト君のパンチを逸らす様に立てた腕でいなし、がら空きになった背中に手刀を落とした。


 ハヤト君は前につんのめりながら何とか踏みとどまった。そしてハヤト君が振り返ると円の軌道で周りを回っている女の人が。なかなか攻撃当たんないんじゃないかな?


「くそ、ちょこまかと!」


 適当に攻撃繰り出しても当たらないですよ? と言わんばかりにすっと避けてその度に軽く掌でパチンとハヤト君を叩く。


「ちょこまかと……いくらはたかれても痛くねえんだよ!」


 そう言いながら今度は蹴りを繰り出す。というかパンチですら当たらないのに蹴りはもっと当たらんよ?


「時間切れです」


 女の人は足を引っ掛けて転ばせた。腕をとったと思ったらくるりと背中で回ってそのまま足を後ろに引っ掛けて転ばせていた。あとで聞いたら太公釣魚という技だったらしい。


「痛て、なんなんだよ、全然当たらねえし、動きがおかしい!」

「あー、まあ紹介しますね。薔薇連隊の技術指導員、八卦掌、八極拳、劈掛拳などの中国拳法担当の」

瑞麗ずいれいと申します。よろしくお見知りおきを。今後お教えするかもしれませんので」


 そう言って彼女はにこやかに笑う。中華と呼ばれたかつての大陸州。今では八洲の一部なんだけど、その昔の頃に栄えていた国の武術だ。


 ちなみにこの人はこの中で一番強い人だったのだ。どれくらい? ジョキャニーヤさんがうずうずしてるくらいには。


「クソ、またかよ。なんてくじ運悪ぃんだよ」

「ハヤト様、女性だからと思って弱いと思いましたね? どうしてそう思ったんですか?」

「いや、だって。女は弱えから守ってやらないといけないって」

「ここに居る女性たちが弱いように見えますか? 恐らく女性全員と男性全員がぶつかったら男性が間違いなく全滅しますね。そしてこちらは無傷でしょう」


 こっちのメンバーは、瑞麗さん、ガンマさん、ジョキャニーヤさん、博美さん、そして私。あー、うん。間違いないね。私の出番ねえから。


「クソ、次だ次!」

「次で最後ですよ? 良いんですか?」

「うっ、そう言われたら……嫌だなあ。じっくり選ばせてくれ」


 ここに来てようやく人を見る事が頭に浮かんだようだ。そうそう、頭に浮かんだら選ぶべし。いやまあ、実はこの課題、強さを見抜く眼力って必要なかったりするんだけど。


「わかんねえよ。誰が強いかなんてオレに見分けられるわけねえじゃん。本当にこんなのが四季咲のトップになるのに必要なのかよ……」


 ブツブツ言ってるが安易に選ぶこともなく、吟味している。ちなみに答えは「沈黙」……という訳では無い。ちゃんと弱い人は用意されているのだ。


「あー、わっかんねえ! 誰かオレに教えてくれよ。こんなの出来るわけねえだろ? それか倒すの手伝ってくれるとか」


 いや、まあ今言ったことがそのまま答えになってんだけどね。実はこの課題が出される前に博美さんが言ったんだ。もし、誰が弱いのかを礼節をもって尋ねられたらきちんと答えて欲しい、代わりに戦ってくれと言われたら報酬額次第で受けて欲しい、と。


 四季咲のトップ、つまり、金を有効に使える方が強いのだ。それを学ばせる狙いもある。……諾子さん? あの人はそれさえもわかってて自分でやったんだと。お金は自分の力じゃないからって。つくづく傑物だよなあ。


 ちなみに格闘訓練、というのも建前だ。それどころか狩猟の方だって自分でやらなくとも報酬払ってやってもらっても良かったんだと。言われなきゃわからんって。


 ちなみに相手を買収するのはダメ。これは相手が金を奪った上に裏切る可能性が有り得るからだとか。まあ確かに。金出すから見逃してとか言われてもじゃあ殴ってやるから全部寄越せって言われるのがオチだもんね。


「ダメだ。わかんねえ。なあ、ティアさんだっけ。見分け方ってどうすりゃいいんだ?」


 おっ、直接聞く訳じゃなくてやり方を聞くのか。まあそれはそれでもよし。アドバイスを求められたからにはきちんと答えてあげよう。


「そうですね、立ってる時の姿勢。これがしっかりしてるかどうかってのはかなりな目安になるね。例えばあの眼鏡の大隊長とか瑞麗さんとかは立ち姿がピシッとしてるでしょ?」


 ハヤト君がこくこくと頷く。

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