第百七十二話 先触
久々のヒルダ様。いつかはヒルダ様とミリアムさんとキューでお茶会でもさせたいものです。
アンダーゲートの街から外に出て転移をする。街中からそのまま転移すれば良かったんだけど、それだと私がこの街から出た記録が残らないんだそうだ。まあそりゃあそうだ。
あ、代官やってたロッテにも会ったよ。謁見の時はシャキッとしてたのに私たち三人だけになったらふにゃあってなってた。
で、アンナがエイリークさんを迎えに行く為に溜め込んでた書類を手伝わされたんだけど。いや、なんで私がやらなきゃいけないの! しかもロッテはハンコを押す以外してないし。しかも押すかどうかすらアンナが決めてんだよ?
まあこの地は国王陛下の直轄地だから最終決定権は国王陛下にあるので改めて裁可をもらわないといけないんだと。いや、本来は代官に一任になるんだけど、この子達は日が浅い上に若くて女だからね。
で、私が王都に報告に行くついでに書類を頼まれた。いや、アイテムボックスがあるからいいけど書類の山を収納しろって言われてもねえ。
馬車で送るとは言われたんだけどおしりが痛くなるから馬車には乗りたくない。痛くならないためにはひと工夫必要なのだよ。それなら転移した方が楽でいい。
王都の門まで転移して来て門からは普通に入る。これも記録に残る為の大事な手続き。まあ時間的には有り得ないスピードなのでそこを突っ込まれるとアレなんだけど。
国王陛下に面会をお願いする。通常、一般市民の謁見は特例以外は認められておらず、下級貴族や代官ですら二週間は先になる。高位貴族が割り込んでくるからだ。私もそれくらいは覚悟して来たからね。
……謁見許可が出たの、到着した日の午後だったんだけど。まあ午後の最後ではあるが。なんで?
「よう、元気そうじゃねえか。西大陸に行ったんだって? どうだったよ?」
国王陛下の目が面白いものを見つけた時みたいにワクワクしている。どこかの野菜人かな?
「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう……」
「堅苦しい挨拶はよせ。ここには親しきものしか居らん。さあ、土産話を聞かせてくれんか?」
仕方ない。私は西大陸についてから起こった様々なことを少しの脚色を入れながら、穏便に話した。いや、流石に誘拐に加担してた村を盗賊ごと一人で全滅させましたとか言っちゃったらマークされるからね、絶対に。
「ふむ、ミリアム王女殿下か。なるほどな。聡明な聖母様という話は時々耳にするが。一度お会いしてみたいものだ」
あー、まあマリナーズフォートまで行けば多分街中ほっつき歩いてるんじゃないかと。まあそれ以前に国王陛下が国を離れることが出来るわけないんだけど。
「よし! ならば返礼の使者には私自らが出向こう!」
「お、お止め下さい、陛下」
宰相閣下がオロオロしている。この人、絶対胃薬が常備薬になってるよね。それともポーション使ってんのかな? ポーション使い過ぎると中毒症状起こすって話は聞いたことがあるけど。
ともかく、国王陛下には向こうの国、グランドマイン王国からの謝罪を「国が関与したことでは無いので国民の返還だけを努力してもらいたい」とのメッセージだけで終わらせた。ちなみに正式な使節団はまだマリナーズフォートにすら着いてないと思う。
ミリアムさんの決定を早馬で王都へ
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王都で使節団を結成して、船を手配し、マリナーズフォートから出発させる。
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出発の際は四隻の船に分乗させる。これは船が確実に到着出来るか分からないための保険。もちろん親書も四つ用意している。
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アンダーゲート到着後、四隻の船の安否が確認でき次第、代官に目通りをし、代官の使いが王都に走る。
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王都から謁見許可の使者をアンダーゲートに派遣する。
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使節団がアンダーゲートでそれを確認し、王都に出発する。
という感じで謁見までに一ヶ月以上は見ないといけない。下手すると二ヶ月三ヶ月掛かるかもしれない。だから取り急ぎ貿易の再開をする為に私が先行して来たのだ。
という訳で国王陛下には仮のでもちゃんと玉璽が押されてある正式な書類をミリアムさんと新領主のヤッピ宛に二通認めてもらった。
こっちはリスク分散しなくていいのかって? あー、まあ。私を殺してアイテムボックスの中身を奪い取れるならその心配もいるんだけど。そもそも私には殆ど魔法効かないし、危なくなったら障壁で弾いて転移で逃げるだけだから。
殺さないのか? いや、必要も無いのに殺ったりしないよ? 本当だよ? 私、快楽殺人者じゃないからね? いやある意味では超能力殺人者なんだけど。
そのまま公爵邸に行くとテオドールが嫌な顔をしていた。いや、覚悟はしてたけど着くなりその顔はいただけないけど?
「何しに来やがった」
「あ、えーと、ヒルダ様いる?」
「……待ってろ」
テオドールが奥に引っ込んだと思ったらヒルダ様がスケスケネグリジェ姿で現れた。あら? もしかして今からおっぱじめるつもりだったの? まだ日は完全に暮れてはいないんだけど。
「キュー、あなたが西大陸に渡ったのは聞いていました。それでこんな時間に何の用なんですか?」
あからさまに不機嫌そうなので鉱山でちょろまかしてた宝石の原石を幾つか出しておいた。ヒルダ様の目の色が変わった。
「これは、かなり大きな宝石。正しく国宝級のものにもなり得る宝石。これは向こうの大陸から?」
「は、はい。ヒルダ様の婚約指輪にでもつかってもらえれば」
「キュー! あなたは私の大事なお友達だわ!」
そして薄着のスケスケネグリジェのまま抱き締められた。肋骨が痛いとは言いたくない。それはだって私もヒルダ様も乏しいことがわかってしまうから。何が乏しいかって? 心の豊かさだよ、そういうことにしておいてくれ!
「それでヒルダ様にこの原石の輸出入について相談が」
「詳しく、詳しくお願いします」
ヒルダ様の目がギラギラと光る。テオドールだと「好きにしろ。勝手にやれ」で終わりそうだからなあ。将来的にリンクマイヤー公爵家を支えるのはヒルダ様だろうし。