第十八話&episode18 女神
いきなり出て来ましたが、女神様です。白い空間をセッティングしたのはこいつです。
二人が目を開けると、そこは真っ白な部屋だった。前は辺りには何も無かったんだけど、少しずつものが置かれている。置いてあるのは小さなベンチや実の生ってる木。向こうの方に見えるテーブルは前と変わらない。もちろん椅子もある。そしてなんと花壇が据えられていた。
お互いの姿をお互いが認識し、テーブルに辿り着いたらテーブルの上にティーポットとカップ、そしてお菓子が幾つか置かれたのは前と同じだ。お菓子はショートケーキみたいだ。
「また会ったわね」
「そうね。そっちはどう?」
「ぼちぼちやってるわ」
「そうなのね」
二人ともそこまで話してお茶を飲む。前に飲んだ時より美味しい気がする。というか前は驚いてて味なんて覚えてなかったんだろうけど。
「こっちは大変だったのよ。なんか代官が人身売買やってたとかで国内の貴族が芋づる式に捕まるんだって」
「は? 大捕物じゃないの。一体何のために?」
「動機はよくわかんない。なんかね、魔物と人間の子どもを組み合わせてコントロール出来るようにするとか言ってたみたい」
「悪魔の実験ね」
ティアがしみじみと言う。キューはそんなものかとしか思わない。そもそも、そんな感じで集められた施設にいたんだし、キュー自身がそんな身の上だっただけのこと。違うのは魔物と合成されるか、超能力開発の素体になるかぐらいだ。
「そっちは?」
「お世話になってるところになんか伽藍堂とかいうチンピラが来た」
「げっ、八洲の暴力装置が?」
「やっぱり知ってんの?」
「もちろん。兵部の伽藍堂と刑部の清秋谷には近寄るなって言われてたもんね」
「……軍隊と警察に近寄るなって、国家転覆でも企んでたんですか?」
「あー、まあ、そう思うのも無理ないけど、軍隊も警察も必ずしも正義とは限らないんだよね」
その言葉にティアはハッとした。確かに伽藍堂のセイヤは私利私欲の為に伽藍堂の力を使おうとしていたのだ。最終的に出て来たのが子飼いとも言える暴走族だっただけで、その気になればもっと取り返しのつかない兵器が出てきたのかもしれない。
実は、ティアのこの懸念は正しい。今回、伽藍堂の軍隊が動かなかったのは四季咲本家の薔薇連隊が動いていたからに他ならない。
大蔵省として予算を握る四季咲はその力の強大さ故になるべく公平に動くようにしている。今回の件がイレギュラーなのだ。
「解決したんならいいけど、解決出来てないなら宮内省、パシリの十条寺に頼るのが一番かなあ」
「パシリ?」
「あ、うん、仕事内容は書類仕事全般。なんだけど、ここならお金出せば動いてくれるから」
つまりそれは賄賂というのでは? いや、あの世界ではそれも織り込み済みなのだろう。まあなんにせよ凪沙とタケルが無事でよかったとティアは思う。
「あ、そうだ。魔法教えてよ。どんなことが出来てどんなことが出来ないかをしっかり把握しとかないと」
「やらかしたんですね?」
「だって転移しただけでおどろくんだもん」
「空間魔法たる転移は魔法の五行門のどれにも属さない未知の術式ですのに」
なんかすごく言われているがキューにとっては転移をかます方が火を出したり凍らせたりかまいたちで切ったりするより簡単なのだ。
「ティアも魔法は使えるんでしょ」
「え、ええ、もちろん。と言っても簡単なものしか使えませんけど」
「そうなの?」
「私は落ちこぼれですから」
そう言って寂しそうに呟くティア。キューは構わず続ける。
「そうなんだ。まあ、私は廃棄寸前だったけどね」
「えっ!?」
何気ないキューの言葉にティアが驚愕する。廃棄、とは。ティアでも追放という形で放り出されたものの、冒険者になるという道が残されていた。なのにキューは廃棄だなんて。ティアの脳裏に浮かんだのは地下室で見た男の子、それももう絶望で膝を抱えていた子たちだ。
「では、ひとつずつ説明しますわ。まずは火門。これは熱さや寒さ、炎や氷を使う魔法です」
「あ、発火なら出来るよ、ほら」
「私は苦手なんですのよね。というかあなたもその大きさですか。親近感が湧きますね」
お互いに小さな種火を出してくすくす笑う。一つ一つは小さな火でも二つ合わせれば炎になる、とはよく言ったものだ。すっかり二人とも心が暖かくなるのを感じた。
「ティアは氷とか出せないの?」
「どうも燃えてるのは想像つきますけど凍るのはよく分からなくて」
「雪とか見た事ある?」
「雪、ですか? いえ、聞いた事ありません。そういえばそのような現象が遠く離れた国では起こると聞きます」
これはティアの領地が温暖というか亜熱帯に属している地域だからである。辺境たるエッジではちゃんと雪が降るのである。
「次が水門で、癒しと水の流れを司ります。癒し、というのは身体の中を血液とか魔力液とか津液が流れてるからで」
「いや、ちょっと待って! 魔力液?」
「ええ、体内を流れている魔力液が魔法の源ですから」
キューは驚いた。血液や津液ならともかく魔力液なんて聞いたこともない。しかし、ティアはあるという。それならば私が魔法を使うのは無理だし、八洲でティアが魔法を使える理由もわかる。
いや、もしかしたらその超能力というのは魔力液と呼ばれる物質を媒介にして発動しているのかもしれない。
「あー、私も治癒は使える」
そう言ってキューは治癒を発動する。ティアの水門魔法と違うのはティアは身体の流れを整えるのに対して、キューは再生能力の強化をするというところ。均すのと穴を埋めるのの違いだ。
そんな感じで魔法と超能力について喧々諤々(けんけんがくがく)と意見を交し、いつの間にやら二人とも意識を失っていた。
二人が意識を失うと、それまで様子を見ていた女神はそっと二人に祝福を与え、引き続き見守ることにした。もちろん二人とも女神の存在には気付いていないのだった。