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第百六十五話 別案

ミリアム「マリナーズフォートの住人は不安よな。聖母、動きます」

「このマリナーズフォートの領主選定に皆様を巻き込んでしまうことになって申し訳ありません。ですが、私が王族特権で出航を認める訳にはいきません。審査にはかなりの時間がかかるでしょうから。その責任まで私は取れません。だからと言って、お金を払った人だけ出航を認めるのも違います」

「話が長ぇよ!」


 冒険者たちは短気なのが多い。まあ初めて会ったグスタフさんからして「こまけぇこたぁいいんだよ!」ってひとだったしなあ。

「失礼しました。ですので我々はあなたがたに新たな仕事をお願いしたいと思います」


 新たな仕事、というところで場がざわめいた。何をやらされるのだろう、どうせ貴族様の道楽だろ、いや、あの聖母様は他の貴族とは違うってなどと声が聞こえる。まあ冒険者の中には王都での活躍を知ってる人も居たようだ。


「仕事内容は村の復興。山賊に襲われて滅んだ村がここから少し行ったところにあります。そこの復興をお願いしたいのです」


 またざわめき。村が滅んだ理由については知ってる人もいるみたい。まあ山賊に(協力して人身売買の片棒を担いでいたら旅の冒険者わたしに)襲われて滅んだ村なんだから間違ってはいない。多分。


「あの村は亡霊ファントムに襲われたって」

「マジかよ?! それって取り憑かれちまうって事か?」

「呪い殺されるのは嫌だぜ」


 あ、あれ? 亡霊ファントムってかっこいい二つ名だな。それを名乗るのも悪くない、とか思ってたけど幽霊信じてたりする? あー、この世界では実在するんだっけ?


「心配は要りません! その亡霊はその村に恨みがあったとのこと。今ではそういうのは無いと村に滞在していた司祭様が仰っております!」


 おお、司祭様にそういうことをしてもらっていたのか。すごいなーって思ってミリアムさんの方を見たらすっと顔を伏せた。あっ、これ、嘘をついてる味だぜェ! 汗を舐めなくてもわかるよ!


「せ、聖母様がそう言うなら」

「そうだぜ、聖母様が嘘なんかつく訳がねえからな!」

「やるぜやるぜ、おれはやるぜ!」

「干上がってんのはランクが低い奴らだからな。腕利きはもう王都や商都やな行っちまってるしよォ!」


 そうなんだ。もう高ランク組はマリナーズフォートを脱出している。まあ本当に河岸を変えたってのもいるし、前の荷物を運ぶ護衛の仕事に就いたやつもいる。


「はいはーい、それじゃあこっちが受付窓口ね。報酬は仕事内容によって違うから。でもどの仕事も破格の報酬だよ!」


 アーナさんがここぞとばかりに受付嬢たちを引き連れてカウンターで受付をする。流石元受付嬢。何が必要なのかを的確にわかっている。えっ、元じゃなくて今でも受付嬢だって? 私は許そう。だが、お偉いさんたちが許すかな?


 っていうか受付嬢は隠れ蓑で本当は密偵だったのでは? えっ、違う? 受付嬢が本職で密偵はバイト感覚なの? 目指せ安定収入ってそれならギルドマスターの方が安定収入じゃ……あ、ごめんなさい。書類の束は私には似合いませんから!


「これでひと段落しそうですね」

「はい、冒険者ギルドの方はこれでいいかと」

「すいません。私はちょっとやる事を思い出しました」


 ミリアムさんがそんなことを言って別荘に帰るというので私が送ってあげた。ザラさんは受付嬢に交じって書類を捌いている。メイド服だからか他のところより人が集ってる様な気がする。


「ミリアムさん?」

「キューさん、すいませんが私を商都に連れて行ってくれませんか?」

「商都に? ああ、まあ転移テレポート使えば出来なくはないですが」

「マリナーズフォートの未来がかかっています。是非!」

「分かりました」


 そう言われたので私はミリアムさんを連れて商都エッジに。商都に着くとすぐにペペルさんを訪ねるという。忙しくなさそう? あ、鉱山に行ってなかったか。良かった。


「こんにちはペペルさん」

「おお、キューさんに……王女殿下!? ど、どうしてここに? マリナーズフォートに向かったのでは?」

「実はペペルさんにお聞きしたいことが。リッピさんはどのような出自の方ですか?」


 なんかいきなりリッピさんの事を聞き始めた。なんだなんだ?


「ヤッピさんの顔を見た時にもしや、と思ったんですが、どこかの貴族に連なる方では?」

「なるほど。合点がいきました。ヤッピはワシと一緒の行商人あがりで同じ師匠の元で学んだ仲間です。しかし、奴の妻、つまりヤッピの母親はアスレチックス侯爵家の令嬢でした」


 なんと! 今明かされるヤッピの出自! いやぁ私もなんか高貴そうな顔だと思ってたんだよね。本当だよ!?


「では、やはり」

「はい、駆け落ちをしまして実家からは勘当されておりますご、今はそれを悔やんで孫が居るなら引き取りたいと言っているそうで」

「あなたはそれに従わなかったのですか?」

「当然でしょう。リッピは、友はヤッピの存在が心の支えなのです。当然ながら引き離されるでしょうからな」


 それを聞いてミリアムさんは考え込んだ後に私に言った。


「キューさん、私をアスレチックス侯爵領に連れて行って貰えませんか?」

「ええー、場所がわかんないですよ!」

「場所なら案内します。お願いします。一刻を争うのです」


 ミリアムさんの気迫がすごい。これは引き受けないとダメなやつだ。


「分かりました。本当に地理が分からないのでミリアムさんが案内してください」

「あ、私が知っていますので馬車でお送りしますよ」

「そんな暇はありません!」


 ペペルさんの申し出を断るのは悪手だと思うけどなあ。そうだ。ならペペルさんについてきて貰えばいいんだ。よく考えたら馬車の中でのんびりしてるだけで着くミリアムさんに案内出来るわけないじゃん!


「よし!」

「あの、キューさん? なんで私の腕まで掴んでるんですか? いや、あの、私には鉱山に行く用事が」


 転移テレポート


「うひゃあ!?」


 走り出したら止まらないぜ。土曜の夜の天使さ。いや、土曜でも夜でも天使でもないけど。あ、天使ではあるのか? 自分でも分からなくなるわ。

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