第百六十四話 罠師
ノゲノラ二期待望してます。
「詳しい話はミリアム様に伺ってからになりますが……ミリアム様が出来ることなどあるのでしょうか?」
「もちろんでございます。ミリアム姫殿下が王家の者として出航を命じていただければ丸く治まります」
あれ? そういうのはダメだってタータさんが言ってなかったかな?
「本来なら領主以外には許されていませんが、領主不在のこの緊急時ならば、誰も文句は言いますまい」
「……それを侍従の立場である我々が判断は出来ません。ミリアム様に指示を仰がせて貰います」
「そうですか。それは残念。いいお答えを期待していますよ!」
そう言ってギルさんは帰って行った。あれ? あれで終わり? もしかして街のこと考えてるのはギルさんかな? ともかくミリアムさんに報告しよう。
「ダメに決まってるじゃありませんか」
帰って冒険者ギルドでの事を話すとミリアムさんが呆れた声を出した。ザラさんもやれやれという顔をしている。なんで?
「例え緊急措置であったとしてもそれをやってしまうと「王族が貴族の領分を犯して好き勝手している」と受け取られる可能性が高いです」
はっ? なんでそうなるの? って思ったけど、よくよく聞いてみると確かに。と思う話だ。
もし、王族が街で好き勝手してて、それを領主に咎められた時に、領主を暗殺して好き勝手を続けることだって出来ることになってしまうからだと。緊急措置であっても前例を作るのは良くないんだって。
「もちろん、王族が領主に就任すればその限りではありませんが、候補者が居ないのならともかく、候補者の選定に迷うくらいに居るのならそれもダメでしょうね」
かと言って他にミリアムさんが出来ることは……あっ。
「ミリアムさん、私のポケットマネーであの廃村を復興してみたいんですけど」
「なるほど。ですが村を興すとなるとそれなりの資金と後ろ盾が必要になりますよ?」
「そこはほら、後ろ盾をお願いしようかなって。お金なら王様からたんまり貰ったし」
ミリアムさんを治した時の報奨金というやつだ。あと、こっそり鉱山で貯めていた貴族の金庫からくすねたものもある。
「分かりました。それでは私の名前で冒険者ギルドに人を求めましょう」
善は急げ、とばかりに転移で冒険者ギルドへ。ミリアムさんを連れて。ザラさんは夕食の支度があるからとミリアムさんが置いていった。
「すいません、ギルドマスターをお願いします」
「失礼ですがどなたですか?」
「こんにちは、第五王女のミリアムです。お取次ぎお願い出来ますか?」
ミリアムさんがニコッと笑うと受付嬢はピキッと固まった。そして再起動すると「聖母様!? しょ、少々お待ちくださいっ! 」とダッシュで二階に駆け上がって行った。
冒険者ギルドのギルドマスター室。ノックをして入ると、そこにはアーナさんが座っていた。何やってんの?
「ようこそいらっしゃいました。ギルドマスターのアーナです」
「あら、アーナさんでしたか」
「何やってんの?」
「冒険者ギルドに来たら、新任のギルドマスターが秘書を手篭めにしようとしているのに出くわして、シバキ回して本部に伺い立てたらしばらくお前がギルドマスターやれって丸投げされたんですよ」
なかなかに波乱万丈である。いや、これは出世では? おめでとうアーナさん!
「嬉しい訳がないでしょうがあ! 今、この街がどんな状態になってるのかわかってますよね? 仕事がっ、無いん、ですよ! しかも領主が決まるまで事態は動かない。こんな状態で冒険者たちは不満が溜まるばかり。どうしろっていうんですか!」
机をバンバンしちゃうアーナさん。いや、腹に据えかねてるのはわかるけど壊さないようにお願いします。
「ええと、そんなあなたに朗報です」
「……本当に朗報なんですか?」
「疑り深いですね」
「この前に朗報って言われたの、ギルドマスター就任ですから」
それは私が悪かった。まあ気を取り直して廃村の復興作業を手伝ってくれる冒険者を募集する。三食付き。寝る場所はそれなりに空き家がある。なんなら宿屋が丸々残ってる。あ、ドアが壊れてる部屋もあるけど。
「もちろん冒険じゃないから不満を言う人も居るかもだけど、村にゴブリンやコボルト、オークなんかが出現する可能性もあるから」
人の途絶えた村にゴブリンやらがコロニーを作るってのはよくある話で、放っておくとナイトやマジシャン、ジェネラルやエンペラーなんかが出現してしまう。いや、本当にそうなるかは分からないけど。
「分かりました。それでは村の復興と復興のための食料と安全の確保ということで各冒険者に募集を掛けます。ランクは不問で良いんですか?」
「別に低くても建設の手伝いとかやる事は多いから」
「ありがとうございます。じゃあそこのあなた、冒険者たちを集めて。もちろん私も出るわ」
そう言ってアーナさんが立ち上がる。秘書のような美人さんはメガネをクイッとしながら言った。
「いえ、アーナ様は書類のサインを先にお願いいたします。募集は誰でもできますが決裁はギルドマスターでないと出来ませんから」
「おーもーてーにーだーしーてー!」
悲しき悲鳴を聞きながら私たちはギルドマスターの部屋を後にする。部屋の外に出ると廊下の手すりから階下が見える。おそらくはミリアムさんが来たのが伝わったのだろう。ひと目見る為とばかりに食事処だか酒場だかの席が埋まっていた。
「皆さん、お集まりの冒険者の方々、第五王女、ミリアムです!」
ミリアムさんはそのまま廊下で演説を始めた。階下の冒険者たちが一斉に沸く。
「この度の領主の断罪劇の為、皆様には多大なご迷惑をおかけしています。ここに私が謝ります」
これにはみんながギョッとしていた。王族が庶民に頭を下げたのだ。まあ階下からは気にしないでとかあんたのせいじゃないよとか前より良くなったよとか色々言われている。これもミリアムさんの人気の為せる業なのだろうか。
ミリアムさんは下を見下ろしながら言葉を続ける。この状況を打破する一手を。