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第百六十三話 糸目

まあ最初からこのつもりでしたけど。

「おい、ここのギルドマスターを呼べ!」


 手近に居た職員に怒鳴りつけた。なんやこいつ。


「あ、お客様ですか? それでしたらあちらの列に」


 ギルド職員はそういう客に慣れているのか平然と列に誘導する。むむっ、こやつ、出来るな。


「オレ様を誰だと思っているのだ! この街の領主になる男だぞ! 早く呼んでこい!」


 領主になる、というフレーズに職員は顔色を変えた。青白い顔になりながらも「少々お待ちください」と丁寧に頭を下げながら辞去し、ギルドの奥に消えて行った。


 別のベテラン職員の女性がザンスを応接室の方へと案内する。うーん、これ以上は追えないなあ。私一人なら何とかなるんだけど。


 戻ってきたベテランギルド職員は私たちの姿を見るなりこちらに近付いて来た。


「商業ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


 普通に接客された。まあ特に用事とかはなかったんだよなあ。ザンスが居たから来ただけで。


「ああ、アストロズ男爵ですか?」


 びっくりした。私たちは名乗ってないし、あのザンスも名乗ったようには見えなかった。なのになんでこのギルド職員さんはそれを知っているのか。


「存じ上げておりますよ。ミリアム殿下の侍従の方々ですよね。殿下にはお世話になっております」


 どうやら私たちの正体まで筒抜けのようだ。参ったなあ。


「どうぞこちらへ。応接室の中を伺いたいのでしょう?」

「いいのですか?」

「もちろんです。是非商業ギルドは中立の立場であると見ていただきたい」

「ええと、それを勝手に決めても大丈夫なんですか?」


 例えば今から話するザンス……じゃなくてギルドマスターとかに怒られたりしないのかな?


「申し遅れました。当ギルドのギルドマスターを勤めております、タータと申します。先だってはリッピの商会をありがとうございました」


 深々と頭を下げられた。あれ? そこまで知られている? しかもギルドマスターなの? なんか情報の整理が追いつかない。


「まあこちらへ。ザンスとの会談はサブマスターで十分でしょう」


 そう言われて案内されたのは狭い小部屋。向こう側がよく見える鏡のようなものがあって、声も聞こえてくる。まあまだ殆ど喋ってないみたいだけど。


 部屋の中にはザンスがイライラしてるのが見て取れた。サブマスターとやらはまだ現れていない。


「お待たせしました」

「遅い! 何をやっておった!」

「申し訳ありません。領主様が居なくなって様々なところで混乱が起きておりまして、その収拾に手間取っておりました」

「ふむ? 確かに領主が居なくなって船をだせなくなっていたのだったな」

「はい、その通りです。お陰で他大陸からの来航者が出航出来なくなるという事態に弱り果てておりまして」

「うむ、ならば出航を許可してやろう。そうだな。高い金額を積んだ者から許可証を発行してやる」


 なんと堂々と「許可証欲しかったら金を積め」などと言ってきたのだ。というかお前まだ領主じゃねえからそれやったら密貿易になっちまうと思うんだけどさあ?


「アウトですか?」

「アウトですね」

「まあ困ってるのは確かなんですけど」

「ミリアム様の認証なら王族の認証ですから大丈夫なのでは?」

「いえ、領主でないとダメなんです。でないと勝手にやってしまう王族とか出てきてしまいますから」


 私の疑問にタータさんが答える。これは一刻も早く領主を決めないといけないよね。


 結局、ザンスは一通り喋って気持ちよくなったのかそのまま帰って行った。ちなみにサブマスターは「然るべく」とは言ったが了承はしていない。


「私がサブマスターということも話さずに帰ってしまいました」

「自分が来て、立派な身なりの男性が来たからギルドマスターと錯覚したんでしょうよ。よくやったわ、トッド」

「ああ、胃が痛い。やめてくださいよ、こういうの。心臓に悪いんですから」

「胃なのか心臓なのかはっきりしなさいよ!」


 どうやらサブマスターさんはトッドさんというらしい、あ、ギルドマスターさんには面談の際に領主館に来てもらうようにお願いしといたよ。多分ミリアムさんもその方が負担少なくなるだろうし、街側の意見も欲しいと思うし。


 そういやオバハン見てなかったな、と思ったら夫人は領主館から出てないらしい。館に男娼を呼んで侍らせて、酒色に耽ってるらしい。スターリングさんが嘆いていた。館の一室から凄まじい香水の臭いが漂って来るんだと。もう少しの辛抱だと励ましておいた。他に、何も、出来ないもん!


 さて、残りはギルさんだ。この人はまともそうだけど、細目だからなあ。古来より細目は裏切るものだって古事記にも書いてある。


 見掛けたのは冒険者ギルドの前。そのままギルドに入って行った。ギルさんだけにギルドイン。すいません。私らも続けて入る。


 ギルドの中は雑然としており、手前には酒場のような席がある。ぽつりぽつりと酒を飲んで突っ伏したり、談笑しながら食事してる少年少女もいる。ギルさんは受付嬢と談笑していた。ナンパかな?


「この街の冒険者の活動状況を聞きたいのですが」

「でしたらギルドマスターをお呼びしますね」

「ああ、いえ、受付嬢から見た雑感というやつを教えて欲しいんですよ」


 そう言いながら懐から金を出す。賄賂、と思うかもしれないが、情報を聞き出すのに対価は必要なのだ。


 受付嬢が二、三喋った後に、飲んだくれてる男に近付き酒を奢る。飲んだくれは上機嫌で最近の様子を喋っていた。


 それが終わったらこちらに歩いて来ていた。まあバレてるよね。


「これはこれは。この様なところでお会いするとは偶然、いや、必然でしょうか」


 バレテーラ。


「たまたま見かけたので何をしてるのかなとおもったんです」

「そうですか。船が出航出来なくて冒険者たちが荷運びの護衛依頼がなくて燻ってるみたいなので、早急に何とかしないといけないのですが、ミリアム殿下のお力をお貸し願えませんか?」


 あれ? この人今のところ一番まともかも?

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