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第百六十話 次手

名前はそれぞれア・リーグ西地区のチーム名から。

 気品のある姿、綺麗な姿勢、そして上品な物腰。どれを取っても上流階級、それもてっぺん辺りの所作である。ただ一つ、手に持ってるソースが滴ってる肉串を除いては。屋台で買い食いですか?


「何の騒ぎですか?」


 そう言いつつミリアムさんは肉串からくいっと肉を齧りとり、美味しそうに咀嚼した。いや、今食べるんかーい。あと、口の周りにソースついてますよ。


「あん? なんだお前? どこの商家の娘か知らんが……ふむ、よく見るとお前美人だな。よし、気に入った。オレの妾にしてやるよ」


 言うに事欠いて何を口走ってるのか分かってるのか分かってないのか。まあ確かに商家の娘なら貴族様には敵わないだろうけど、そもそも子どもだから貴族の授爵はしてないんじゃないかな? まあだいたいの貴族の親がその辺は何とかするんだろうけど。


「まあ、光栄ですわ。お名前を伺っても?」

「ふん、教えてやろう。この街の新しい領主になるトーヤ・エンゼルスだ」

「まあそうですか。私はミリアムと申します。よろしくお願いしますね、新しい領主様」


 そう言ってミリアムさんがニコニコと微笑む。トーヤは頬を赤く染めていた。


「ところでいつ新しい領主様が決まったんですか?」

「ん? ああ、ここにはマリナーズ家が代々常駐してたんだが、今回の件でマリナーズ家では駄目だろうという話が出てな。それで親戚筋からオレが抜擢されてきたんだ」

「まあ、それは素晴らしい才覚をお持ちですのね」

「へへっ、まあな。実家は兄上が継ぐからオレはこんなド田舎で我慢してやるんだよ」


 そんな事を言うトーヤは誇らしそうだ。あー、まあ長男が家を継ぐから次男以降はどうしようかって時に親戚で不祥事があって席が空いたからねじ込んだのか。うーん、まあこんな子どもなら御しやすそう? でもなんかわがままそうだよなあ。


 そんな事を思っていたら後ろの馬車から別の男が降りてきた。この男は年齢は十代を超えて二十数歳というところか。身なりは金ピカな感じで歯までキンキンの金歯になってるいわゆる成金スタイルみたいな感じだ。体型もぽっちゃり系。いや、はっきり言おう。デブだ。故に年齢を推し量れない。


「おいおい、それはまだ早計ってもんだろ? だいたい、この街の領主はオレ様、ザンス・アストロズが就任することになってんだよ」


 また濃い奴が来たものだ。でもこいつも領主様なのか? 二元代表制ってやつか? 違うかもだけど。


「アストロズ? ああ、成り上がりで金積んで商人から貴族になった成金野郎か。ホンモノの貴族に楯突いてタダで済むと思ってんのか?」

「金がないのは首がないのと同じ。だいたい、マリナーズフォートの運営を金もなしにどうやってやっていくつもりだい?」

「金なんてのは税金取りゃ自動的に入ってくるもんだろ。簡単じゃねえか!」


 トーヤの言は無視できない暴言だが、領主になると本決まりでもしてないのに咎めることは出来ないんだろう。ミリアムさんも黙ったままだ。


 更に後ろに馬車がついた。馬車の中から太ったオバサンが出てくる。


「ちょっとアンタたち! 何をしているのですか! 道を空けなさい。マリナーズ家の現当主たる私が来たのですよ!」


 太ったオバサンは手に指輪をいくつも填めて、はち切れそうなドレスを纏い、馬車から降りてくることもなく、延々と文句を言っていた。


「うるせえババア、黙ってろ!」

「マリナーズ家はこの街に出入り禁止のはずでは?」

「何を言っているの! マリナーズ家がこのマリナーズフォートの支配者なのよ! ぽっと出の貴族どもに渡してたまるもんですか!」


 そのままぎゃあぎゃあと騒ぎが始まった。最後の馬車からはきちんとした身なりの細目のお兄さんが降りてきた。


「皆さん、喧嘩はやめてください。ともかく皆さんと話し合う必要があるみたいなので領主館でお話ししたいのですが」

「なんなんだよ、あんたは?」

「申し遅れました。私、王宮から派遣されてきた文官のギル・レンジャーズと申します」

「王宮の」

「文官……」


 ギルさんの言葉に争いが鎮まった。まあ王宮から派遣って事は国の正式な決定をする人材って事だろう。無碍には出来ないんだろうな。


「では、皆さん、領主館にて続きをお話しさせてもらいます。そちらのお二人もご同道願えますか?」


 私とミリアムさんの方を見てにっこりと微笑みながら言う。目が細いから微笑んでても瞳は見えない。目は笑ってないかどうか確かめられないじゃないか!


 馬車が何台も連れ立って領主館に到着した。出迎えてくれたのはスターリングさんである。


「皆様、ようこそおいでくださった。さあ、中にどうぞ」

「スターリング! あなた、領主の一族でありながらよくも夫を見殺しにしたわね!」

「おば上、私は牢に閉じ込められていたのです。どうすることも出来ませんでしたよ。さあ、中へどうぞ」


 そんな感じで中に通されて会議室のような所へと案内された。議長席にはスターリングさんが座っている。


「それではそちらから自己紹介を」


 トーヤ、ザンス、夫人、ギルとそれぞれの挨拶が終わったところでトーヤに聞かれた。


「おい、ミリアムはともかくなんでてめぇみたいなのがここに通されてんだ? 何もんだよてめぇ」

「私? 私は東大陸から来た冒険者、キューだよ」

「冒険者? はっ、貴族じゃねえのかよ。ならお前に座る椅子はねえ。地べたを這いずってろ!」


 トーヤの号令にそれまで沈黙を保っていたダンディなおじ様が動く。私の椅子の足を破壊して、私を地べたに転がそうとしたのだろう。私は椅子の足は壊させるに任せて、念動サイコキネシスで自分の身体を支えていた。傍目から見たら何も無いのに宙に浮かんでる感じだ。


「まあまあ焦らないで。私の仕事はボディガード……って事でいいよね、ミリアムさん?」

「そうですね。私のボディガードをお願いしますね」

「別荘抜け出すからこんなのに巻き込まれるんですよ?」

「まあどの道巻き込まれないといけなかったと思いますし」


 私とミリアムさんのやり取りに頭にはてなマークを浮かべている一同。あ、スターリングさんは除く。

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