第百五十九話 次難
まだマリナーズフォートに居ます。
今回はお風呂シーンは無しだよ! みんな、残念だったね。いや。その、事情が事情なので愛液でベタベタの身体をまじまじと見られることに忌避感を抱いたといいますか。
いや、私はそんな事になってないから大丈夫、大丈夫なんだよ! 本当だよ! ちゃんと汗だけ流しましたー。でも、ミリアムさんもヤッピちゃんもいい身体してたなあ。一番すごかったのはザラさんなんだけど。あれを服の中に隠していたと申すか? やはりメイドの収納術は侮れない。
「おお、あがられたようだな。食事の用意をしているので食べながら話をしよう。ミリアム殿下もそれでよろしいですかな?」
あの、スターリングさんはどうして風呂場のすぐ横に居たんですか? まさか覗き? 覗きなのか!? ……違うらしい。スターリングさんも地下牢に捕らえられて長かったので失礼のないように身綺麗にしていたんだそうな。
「料理、と言っても間に合わせですがね」
そう言われたが出てきたのは法国料理のフルコースみたいなもの。鴨肉のローストだとかテリーヌだとか多分そんなやつ! あ、蝸牛は無かったよ!
「さて、まずはこの街でキュー殿が居なくなったあとの話ですな」
ワインを口に含んで口の中を漱ぐようにした後飲み干してスターリングさんは話し出した。いやまあヤッピからも聞いてたんだけど。
まず、あの子どもを人身売買していた組織のやつと商人はスターリングさんによって捕らえられ、領主舘に連行されたそう。そして領主舘の地下に部下たちを使って押し込めていたところ、ボスの商人を閉じこめる段で逆にスターリングさんが閉じ込められてしまったそう。
もちろんスターリングさんは領主の甥っ子。だからこそそんな暴挙に出るとは思わなかったんだが、領主は商人の味方をした。スターリングさんの口うるささに辟易していたという説もある。その辺は本人死んでるし知らん。
で、商人は晴れて無罪放免。そこからリッピ商会への嫌がらせが始まったそうな。営業妨害はもちろん、店に入っての窃盗、仕入れ先への脅しと買収、更には身の危険まであったとヤッピは悔しそうに言っていた。
そんな中で従業員が仕打ちにたえかねえ、また、引き抜きを受けたりして、次々と辞めていった。仕入れも出来ない、売買も出来ない。それでも出していた船が帰ってくれば、と思っていたが港は領主に抑えられ、税金とかの名目で莫大なお金を取られたんだそう。
「それで、父さんすっかり弱気になっちゃって、私に逃げろって」
なるほど、そこであの場面に繋がる訳だ。あ、子どもたちはちゃんと出航したんだって。直接港で船長さんたちに交渉しといて良かったよ。
「ヤッピ殿には重ね重ね迷惑をかけてしまった。本当に済まない」
「いえ、スターリングさんが悪い訳じゃありませんから」
このマリナーズフォートの事情がわかったあとはこっちの番だ。鉱山に向かってから商都、鉱山、王都、また鉱山と行ったり来たりした行程といきさつを説明した。
「波乱万丈だな。こっちよりもよっぽど騒動に巻き込まれている」
まあ放置してミリアムさんが儚くなるのは嫌だったからね。顔は見てないけど、冒険者ギルドのギルドマスターの話では聖母の様に慈悲深い方だということだったし。慈悲深くてもきっと有情拳は使わないだろう。
「まあそういう訳でこの街でお世話になる事になりました」
「実際には町外れの別荘ですのでこちらに直接伺うことはあまりないと思いますが」
「ミリアム殿下ならばいつでも大歓迎です! ご安心してお過ごしください」
そう言ってスターリングさんは呵呵と笑った。嫌でもあんた部下に騙されて牢に閉じ込められたりしてたよね?
さて、まずはこの街の次期領主の話だ。貴族が代替わりするなら王都まで届けなくてはいけないみたい。幸いにも王都から離れているから事後承諾でいいらしい。
私は当然ながらスターリングさんが継ぐものだと思っていたんだけど、スターリングさんは脳筋すぎて領主には不適格だから衛兵隊長をやっていたらしい。まあ見るからに苦手そうだもんね。
で、どうするのかと思ったら王都にマリナーズ家があるらしい。いや、一緒に住んでないのかよって思ったんだけど、どうやら奥さんが王都から離れたがらなかったらしい。まあ本人たちは婚姻関係は破綻していた様なものだからと旦那の方が好き勝手やる為にここに単身赴任したらしい。こういうのも単身赴任っていうのかね?
「跡目の話になるので暫定的には私が差配するが、王都から人が来次第、交代しようと思う」
そんな感じで王都まで手紙を出して一ヶ月が過ぎた。私には関係ないから早く帰りたかったんだけど、領主側からの謝罪をしないといけないらしく、待たされていた。
ちなみに早く帰れる人は先に船で帰ってもらってる。残ったのは各大陸の代表者、数名だけだ。イドゥンさんもエイリークさんも残ってもらってる。なぜなら字が書けるし、文章が理解出来るから。識字率はなかなか難しい問題です。
アーナさんは商都と行き来して色んなものを手配してくれてる。いや、マリナーズフォートでも揃うんだけど、領主が居ないので物資が行き渡るまでに時間がかかるらしい。
そんなこんなしていたらまず数台の馬車がマリナーズフォートに着いた。中から現れたのは割とダンディなおじ様。イケメン度は中の上というところか。それと一緒に出てきたのは多分一桁年齢の少年。六歳か七歳か。ダンディなおじ様はその子どもに恭しく跪く。
「トーヤ様、ここがマリナーズフォートでございます」
「左様か。おい、そこの女、領主舘の中まで案内致せ!」
もしかして私に言ってる? いや、お前誰だよ。さっきトーヤとか呼ばれてたんは知ってるが。
「聞こえなかったのか、そこのちんちくりん。お前だお前。早く案内しろ!」
誰がちんちくりんだコノヤロウ。ぶっ殺していいかな? いいよね? 私にそんな口をきいた事をあの世で後悔するがいい!
「何の騒ぎですか?」
出て来たのはミリアムさん。いや、お供も連れずに何やってたんですか? いや、言わなくても分かります。また抜け出したんですね。