第百五十八話 命乞
金に弱くない訳では無いです。優先順位が大事。
「な、ならば金を多めに払ってやろう。金はどこで活動するにも必要だからな! なぁに、心配するな。王都の貴族ともパイプがある。あいつらはいくらでも奴隷を買ってくれるからな! どうだ? 金貨何枚だ?」
「なんまいだー」
まあ「南無阿弥陀仏」なんて言っても仕方ないんだけどね。あ、骨外しは使いませんよ? あれ、私だと割と難しいんですよね。パワーが足りないっていうか。やるなら念動で強化してからかな。
「だから、何枚欲しいのだ!」
「強いて言うなら全部? でもまあどの道始末した後にその辺はなんとでもなるし」
「ワシを、殺すと、いうのか?」
「そこまではっきりは言ってないけど、私たちの大陸からの被害を減らすには仕方ないよね?」
白豚は震え上がった様で歯の根が噛み合わなくなっていた。うん、まあ仕方ないんだよ。私だって人殺しは好きではない。まあ好きではないだけなので必要ならば手を下すのに躊躇なんかしない。やらなきゃやられちゃうのだ。だから快楽殺人者の奴らと一緒にしないで欲しい。
「ワ、ワシは、貴族だぞ? この街の領主に任じられた、れっきとした貴族だ! その貴族を殺してみろ、お前はこの国に対する反逆者だ! 国家をあげて罪人狩りされるぞ! しかも、しかも、それはお前が東大陸に帰っても続くんだ。どうだ? 恐ろしいだろう!」
私ははぁ、とため息を吐いた。そんなのが怖い訳がない。鱗胴研究所のみんなが全員で来るっていうならちょっとまずいかなとは思うけど、三号だけとかならこっちがぶっ殺してやる。あ、違うか。一号とか八号とか来なきゃどうとでもなるでしょ。
「そっか。うん、一つ聞きたいんだけど」
「な、なんだ? 知りたいことなら答えてやるぞ?」
「私がやったって誰が証明するの?」
私の問いに場が沈黙に包まれた。というか後ろの方ではなんか艶かしい声は微かにしてるけど。媚薬すごいねー。
「そ、そんなのいくらでも……」
「私とあなた以外はみんな「おくすり」で気持ちよくなって前後不覚になってるのに?」
「あ、あ、あ、あああああああああああああああ!」
今頃気付いた、とでも言うように絶望の叫びをあげる。考えてなかったのか。いやまあ誰か見張ってる人がいるんじゃないかとは思ってたんだけどまさかのノーマークとは。案外演技で実は隠れて見てる? いや、それならこの白豚の命が危ないのに隠れてる意味が無い。
もしかしたらこいつの派閥がこいつを切るために敢えて放置してる? それならそれで代わりの人物が送り込まれてなきゃまずいことになる。というか第五王女であるミリアムさんが来た時点で動いてんじゃないかな?
「じゃあゲームオーバーって事で、バイバイ」
私は素早く白豚の首を掻っ切った。さてと、じゃあみんなに治癒やりますか。その前に換気換気。壁に穴空けても良いよね?
「うん、ううっ、こ、ここは?」
「あ、ミリアムさんも気が付いた?」
「天使様? というとここは天国ですか?」
「あはは、さすがに天国っていうには気が早いかな。みんなも居るからね」
ミリアムさんが立ち上がろうとして「ひゃうっ!?」って言いながらしゃがんだ。なんか股間を抑えている。あー、そうか。
「なんか、すーすーします」
「そりゃあまああれだけぐちょぐちょだったからね。乾くまでは仕方ないんじゃない?」
ミリアムさんの顔が真っ赤に染まる。うん、反応的にはみんな似たり寄ったりだった。一番最初に目覚めたのはヤッピ。濡れてる下半身を見て
「お、おもらしじゃないんだから! これは、あれよ、大人のしるしなのよ!」
って叫んでた。いやまあ確かに大人のあかしなんだろうけどそれを大声で言うのは大人とは言えないんじゃないかな?
次に目覚めたのがザラさん。彼女は身を起こした後に恥ずかしそうに頬を染めながら、
「大変お見苦しいところをお見せしました」
と深々と頭を下げてきた。さすがメイドさん。リカバリーが早い。まあともかく二人には私のもので悪いがパンツを進呈しておいた。この世界にちゃんとしたパンツがあって良かった。ドロワーズとかは慣れないからね。
それで履き替えたタイミングでミリアムさんが目覚めたというわけだ。ミリアムさんが顔を真っ赤にしたまま動けなくなっていたので、ザラさんにパンツを渡して着替えさせてもらう。
白豚野郎の死体は私がアイテムボックスにしまった。というかここに残しておく訳にはいかないからね。三人に見せてまたおもらしられたら困る……あ、今度はおもらしでいいよね。
ベッドで横たわってた女性たちは神殿に運んでもらおう。でも衛兵たちは信用出来ないよなあとか思ってたんだけど、そんな時にドタドタと上がってくる足音があった。
新手かな?って思って身構えたんだけど、姿を現したのはスターリングさんだった。駆け込むなり、ミリアムさんを見て跪いていた。後ろには衛兵を連れている。
話を聞くと私たちが館に乗り込んで来たからそれをいい機会として一部の衛兵がスターリングさんを救いに走ったんだって。慕われてるね、スターリングさん。ちなみに監禁場所は地下牢だったとか。貴族の屋敷は地下牢が好きなの?
「姫殿下にあらせられましてはご機嫌麗しゅう」
「全然麗しくはありません」
そりゃあそうだ。下着が濡れて気持ち悪くて着替えましたなんて言えないよね。というか部屋の中に愛液も垂れてるはずだから一刻も早くここから移動したいはず。
「あの、スターリングさん、私たちだいぶ汚れてしまったのでお湯を使わせていただきたいんですけど」
「おお、そうでしたな! 屋敷の者に食事の用意と湯浴みの用意はさせておりますので湯殿の方へどうぞ」
スターリングさんが屋敷の中をまるで自宅のように差配している。どうして? って聞いたら白豚領主の甥っ子なんだって。血が繋がってるってこと自体が驚きだよ! あ、白豚殺っちゃったのはごめんなさいしとかなきゃな。いや、悪気はなかったんや。