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第百五十七話 媚薬

キューに毒薬物の類は通じません。あ、劇薬くらいになれば少しは効くかも?

 屋敷の正面扉を蹴り開ける。ドタドタと足音がして何人かの使用人が走ってきた。


「何者だ!」

「控えなさい! 第五王女、ミリアム殿下の御前なるぞ!」


 ザラがノリノリで言う。練習してました? それともよくやってんですか?


「ミリアム殿下!?」

「聖母様?」

「この館の主に火急の用があって参りました。そこを退きなさい」

「お、お待ちください。今取り次ぎますので」

「必要ありません。通ります」


 ミリアムさん構わず通ろうとした次の瞬間、頭を下げていた下人の一人が手にナイフを持ってミリアムさんを攻撃してきた。


 ガキン、とナイフが私の障壁バリアに弾かれた。そりゃあそうだ。ミリアムさんを排除したらゲームオーバーだもん。別に個別でも守るよね。


 ナイフを落とした男は周りの使用人たちに取り抑えられた。この様子だと全員が全員、領主に従ってる訳では無さそう。


 二階に上がる。こういう時に電波探知レーダーとか音響探知ソナーとかの超能力が使えれば面倒はなかったんだけどあいにく私には使えないんだよね。せめてもの救いとしては透視クレヤボヤンスが使えることかなあ。二階にはめぼしいものは無し。


 三階に進む。階段を上ると矢が飛んできた。うむ、普通の矢ではない。クロスボウのボルトだね。アローよりかは短いらしいけど。もちろん私たちには通じない。障壁に当たって落ちていく。


「ちくしょう、倒れねえぞ?」

「お、おい、話が違うじゃねえか!」


 上でクロスボウを構えていたヤツらはそのまま逃げていった。素直に逃げるとは思えないが。さて。


「うおおお、った!」


 上から降ってきて真っ直ぐ私に切り掛る。行動はともかく目の付け所が鋭い(シャープ)だね。ちなみに私には障壁展開してない。だって必要ないから。


 剣をスレスレで交わして、床に剣が叩きつけられた瞬間に、落ちてきた奴の後ろに回って首にナイフを突き立てた。うん、ざっくり死ぬよね。


「ふう、危ない危ない」

「見事なお手並みですね」

「うわぁ、やっぱりキューは強いなあ」


 なんかみんなが口々に褒めてくれる。いや、褒められてるのかは分からないけど遠巻きには見られることは無い。


「先に行きましょう」


 私たちは一番奥の部屋に辿り着いた。そこには、何も無い。真っ白な部屋だ。だが私の目は誤魔化せないよ。部屋の中を透視で見回す。壁の一部がドアになってる。知らなきゃ気付かない。


「隠し扉!?」

「行きましょう」


 扉をくぐると徐々に下の方に道が下っていく。しばらく歩くと平らになり、そして上へと上がっていく。うーん、家一件分以上歩いてないか?


 地上の様子を伺う。ここは館の裏庭? ふむ、小さな小屋みたいなところだ。中には脂ぎったブタがブヒブヒ鳴きながら女性を何人も侍らせている。いや、女性を貪っている。その顔に喜んで奉仕している感じはない。


「そこまでです!」


 バン、とミリアムさんが何も考えずに開けました。おめでとうございます。中の人はみんな裸で五パーセントの確率ではなくてもボロンと出ちゃってる。


「こ、こんな所まで追って来おって……あいつら高い金を払ってやってるというのに」

「か、観念しなさい!」

「ちょっとやだ、何よアレ、いや、何かはわかってるんだけど、あんなのが入るわけないでしょう!」


 ヤッピが目をぐるぐる回しながら叫んでいる。うん、ヤッピの性教育はまた今度の機会にね。今はそれどこほじゃないから。


「ぐふふ、姫様。こんな姿で失礼します。ですが、閨にまで踏み込んでくるのはいかがなものですかな? それとも交ざりに来ましたか?」

「何をバカな……あれ? なんか意識が……」


 そういえば私たちが踏み込んだのに女性たちは何も騒いでいない。明らかにおかしい……まさか?


「ふふふ、どうやらクスリが効いてきた様ですなあ。安心してください姫様、どんな未通女おぼこでも狂ったようにヨガり狂うクスリもありますでな」


 そうして白豚は私の方を見る。私の隣ではザラさんが必死になにかに抵抗している感じで、更に言えばヤッピは腰が抜けた様にガックリと膝を着いている。姫様は多少抵抗力があるのか歯を食いしばっている。


 えっ、私ですか? もちろん効いてませんとも! だいたい研究室で色んな媚薬やら毒薬やらの中和実験とかやらされてたもん。そりゃあ効かなくもなりますよ。思えば当時から自分に対する治癒ヒーリングだけは無意識のうちに発動してたのかもなあ。


「こうなってしまっては姫様といえどもただのメス。どうやって調教しようか楽しみだわい」


 げひひと下卑た笑いを浮かべる白豚。いい加減イライラしてきた。もう手を出してもいいかな? 良いよね? みんなは後で治癒しとくよ。


「そう言えばこの女も胸は無いがなかなかの美しさだな。まあ姫様の合間の暇つぶしには可愛がってやってもいいぞ?」

「あはは、真っ平御免ですね」

「は?」


 私の乳を揉もうとした手にグッサリとナイフを刺して咎める。「ぐぎゃあああああ!」と醜い悲鳴が部屋に響いた。えっ、胸なんて無いだろうって? おっぱいはあるよ! 巨乳じゃないだけで。ティアと比べんな!


「な、何故抵抗薬も飲んでないのに媚薬が効いてないのだ!?」


 あー、こいつが効いてないのは抵抗薬カウンタードラッグを飲んでるからか。まあこいつも媚薬でへべれけになってたら楽しめないもんね。


「ごめんね。そういう風に作られてるから、私には通じないの」

「貴様、暗殺組織のエージェントか何かか?」

「いや、単なる冒険者だけど?」


 私の言葉に絶句したがすぐにニヤリと笑った。


「そうか。ならば姫様からいくら貰った? その倍額を払ってやろう。ワシの手を刺した事も不問にしてやる。ワシにつけ。もし、逆らうならこの街で冒険者稼業なんて出来なくしてやるぞ!」

「あ、活動拠点、この大陸じゃないからいいです」

「なんだと? ああっ、貴様は東大陸から来た女!」


 今頃気付いたのかよ。まあやる気なさそうだったもんね、謁見の時も。

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