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絵画(episode157)

意に沿わぬ結婚をおもうさまに……(ヨヨヨ)

 裕也さんは一通りくるくる回った後に私たちの存在に気付いたらしく、居住まいを正して挨拶を始めた。


「初めまして。鷹月歌たかつかが一子、裕也と申します。ガリア法国のプランシャール伯爵家の皆様をお迎え出来て光栄でございます」


 これも法国語だ。ガリア法国っていうのか。なるほどねえ。


「プランシャール家のクロエです。名高き鷹月歌の次期当主様にお会い出来るとは幸運に思います」

「まだ次期当主かどうかは決まっておりませんよ。ご滞在中の身の回りのものは鷹月歌が保証いたします」

「それはありがたいですね。お言葉に甘えさせていただきます」


 なお、全部法国語である。わざわざ八洲の言葉を使わなくても大丈夫、と裕也さんが法国語を使った時に示されたらしい。これはややこしい。なんでも公共の場ではなく、ホストが使った場合は「そちらの言葉で大丈夫です。自国にいる様にくつろいでください」という意味になるらしい。上流階級って訳わかんない。


「お昼ご飯がまだでしょうから用意させますね。法国の方のお口に合えばいいのですが」

「法国と並んで世界三大料理に数えられる八洲の料理には興味しかありません。楽しみにしています」


 これは「八洲の料理を味わえや!」「ふふん、法国ほどに美味な料理が出せるか判定してやる!」みたいな話かなって思ったら全然そんなことはないらしい。単なる「出されるお料理に文句はいいませんよ」って意味合いなのだとか。だからわかんねえって!


 ちなみにお昼に出されたご飯は焼魚の和膳だった。私はカツ丼とかの方が好きなんだけど、焼いた魚のほのかな塩の甘みも好きである。


 クロエ嬢は箸を器用に使っていた。フォークを使いますか、と問われて遠慮していたが私よりも上手かった。あの箸使うのって割と練習したんだけどなあ。


 執事の皆さんも箸の使い方に問題はなく、スムーズに使えていた。やるなあ。


 食後に一休みしてこれからの予定を話し合い。荷物はここに置いて、鷹月歌の車で洋館の方に移動。その後私との面談。そういえばあの洋館を貸してくれるかどうかの審査だっけ。その場で家賃を設定し、その後は休んでから八洲観光をして、帰国という流れらしい。


「それじゃあ向かいましょうか」


 そう言われて車が何台か用意される。一台目にクロエ嬢と裕也さんが乗り込む。ホストとゲストが乗り込むのは襲撃とかその辺を防ぐためなんだとか。あ、もちろんメアリー嬢もこっちだ。こっち、という言い方からわかる通り私もこっちに乗る。これはいざとなったら魔法で何とかしてくれってことらしい。予め防御魔法でも仕込んどいた方がいいかな?


 二台目には執事さんたちとお爺さんが。渡辺さんだっけか。三台目には鷹月歌の護衛とジョキャニーヤさんか。今度は留守番が嫌なんだってさ。まあ仕方ないか。メアリー嬢のボディガードだしね。


 車に揺られてしばらくしたら洋館のところの丘に着いた。車から降りてクロエ嬢が少し感激している。これがお爺様の住んでいた場所!みたいな感動をしてるのかもしれない。


 ともかく中を見てもらおう。お掃除してるから蜘蛛の巣とかはないよ。洋館のドアを開けて中に入ったら正面の絵に釘付けになっていた。なんでも祖父であるアンリ・プランシャール氏が描いたものらしい。そもそも彼が八洲に来たのも絵の勉強の為だとか。そらなら芸術で名高い法国国内で十分じゃないかと思うんだが、どうやら浮世絵や水墨画に興味があったんだと。


 ちなみに渡辺翁は画学生とかそういうのではなかったそうな。出会ったきっかけが安い居酒屋で意気投合したからだって。前日まで知り合いでもなんでもなかったのにあっという間に肩組んで酔っ払って帰ってきたそうな。お前ら……


「祖父は描いた絵を思い出と共に八洲に置いてきた、と懐かしそうに言っていました。だから私も八洲に来て祖父の絵を見てみたかったのです」


 クロエ嬢の目から涙が溢れていた。正直、絵の巧拙は私には分からないが、あまり上手い絵だとは思わない。出来で言えば十人並というところだろう。だからクロエ嬢には巧拙以上の何か感慨深いものが感じられているのだろう。


「そうか。それならうちにもアンリの描いた絵があるから見に来たらええ」

「! 是非!」


 ニコニコしているクロエ嬢と渡辺翁は二人にしか分からない感覚を共有していたのだろう。執事さんたちも入り込めない世界だ。


 洋館の中を一通り探索して、壊れた箇所とかが無いかをチェックしていく。これは執事さんたちが担当した。クロエ嬢は渡辺翁の話す昔話に興味深そうに聞き入っている。


 様々な項目をチェックし終わり、修繕の手配をする。この修繕はプランシャール家でおこなうそうだ。私は何もしなくていいらしい。あ、文句ないよねって書類にはサインしました。


「さて、それで賃貸の料金なのですが」


 クロエ嬢が洋館の前にみんな揃った状態で言う。帰ってからでも良いのになって思ったんだけど、目の前で言った方がいいらしい。


「無料、ということにしたいのですが、それだと納得していただけない、と伺っています。ですので私の出した条件に了承していただけましたら協力してくれたお礼として無料と致します」


 なるほど、ギブアンドテイクというやつか。いや、普通にお金払いたいのだけど。なんか面倒押し付けられそうな気がするから気が進まないんだよなあ。


「ええと、その条件というのはなんでしょう?」

「はい、実は八洲のある家との縁談が持ち上がっておりまして」

「はあ、それはおめでとうございます」

「全くもってめでたくはないのです。私としましてはプランシャール家を継ぐ立場でありますので、国外に嫁ぐということは考えておりませんでした」


 どうやら貴族のプランシャール家を女性が継ぐのは構わないらしい。その為の帝王学とかも履修してきたそうな。とんでもねえ。


「だから、その結婚の話を破談にしたいのだけど、そのお手伝いをしてもらえないかしら?」


 なんだか妙な事になってきた。でもまあ望まぬ結婚させられるのは貴族女性としては嫌だよね。私も政略結婚から逃げてきた身だし。異世界まで逃げて来れるとは思わなかったけど。

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